港式燒臘店(香港広東式定食屋) について片倉佳史さんと対談しました。
港式燒臘店(香港広東式定食屋)の燒臘(shao55la51 華語)は広東語では燒味(siu55mei22)とも呼ばれていますが、 燒臘というのは燒味、臘味、油雞と呼ばれる三種の調理法の総称です。家鴨肉、豚肉などをローストしたものや、鶏肉をタレに浸けて煮たものを切り分け、ライスの上に載せた定食を主に提供する香港、マカオ及び広東式の食堂のことで す。お店の入り口脇に加工済みの鶏や家鴨が丸ごとの状態でぶら下げられているので、よく目立ちます。各種チャーハンや焼きそば、ライスヌードゥル(河粉)、広東式お粥、そして日本語で言うところ中華丼のような、各種の餡掛けご飯、簡単な各種の広東料理なども提供するお店もあります。そして、店主や店員さんたちが香港やマカオ出身者であることが多く、 店内では広東語が飛び交う事も日常的な光景だったりします。
主な商品は台湾華語で油雞と呼ばれる醤油ダレで煮たソイソースチキン、燒肉と呼ばれるクリスピーローストポーク、 燒鴨と呼ばれるローストダック、叉燒と呼ばれる焼き豚、肝腸、臘腸といった広東式ソーセージ(腸詰め)や臘肉と呼ばれる豚の燻製肉などです。
●油雞 (you35ji55 華語 / yau21gai55 広東語)の本来の名称は「豉油雞」です。そして、豉油は油ではなく醤油のことです。油雞の作り方は先ず鶏肉をネギと生姜入りの水に浸し、火にかけて短時間茹でます。そして後で煮る時に使うタレを作ります。タレの主な材料は醤油と氷砂糖、蒸留酒、そして漢方の各種香料です。醤油は香りや味も穏やかで、薄い色を持つ特徴があり、素材の彩りを生かす料理などに使う生抽が使われますが、一般の醤油でも代用できます。蒸留酒は玫瑰露酒や高粱酒などの中華系のお酒が使われますが、ウイスキーやブランデーなどの洋酒系のお酒でも代用できるし、紹興酒でも代用できます。漢方の香料は八角=スターアニス、草菓、丁香=クローブ、陳皮=干したマンダリンオレンジの皮、バンウコンの根茎、甘草などです。これらの材料を水に混ぜ、火にかけ、煮立てて油雞水と呼ばれるタレを作ります。また、このタレは香港のメーカーから豉油雞汁という名称で、瓶詰め商品が販売されています。 前もって、先に湯がいておいた鶏肉をこのタレ、油雞水に浸して、弱火で45分ほど煮た後に取り出し、冷やします。 これを食べやすい大きさに切り分けてライスの上に載せたものが油雞飯や油雞腿飯=ソイソースチキンライスです。
玫瑰油雞という名称のものもありますが、醤油や漢方の香料が入ったタレにバラの花粉を使った天然着色剤を混ぜ て、鶏肉を煮たものです。しかし、この天然着色剤が生産停止された後は玫瑰露酒という中国天津特産の薬用酒が使われるようになりました。この薬用酒は高粱酒にバラの花びらを漬けて作られたものです。ただし、このお酒も手に入りにくいので、実際には紹興酒などの他のお酒で代用されていることも多いようです。それでも名称だ けは伝統的な名称が使われているのだそうです。
●白雞は醤油など色の付いた調味料を入れないお湯で茹でたり、蒸したりした後に急激に冷やした鶏肉で、鶏肉その物の味を楽しみます。白斬雞や白切雞とも呼ばれています。
●燒肉と呼ばれるクリスピーローストポークは先ず豚の三枚肉(バラ肉)を八角 (スターアニス)や生姜を入れたお湯で5分ほど茹でます。お湯から取り出した後、表面の水分を拭き取り、針のように尖った物で肉の表面の皮部分を満遍なく、徹底的に突き刺し続けます。また肉の裏側に包丁で数カ所に深い切り込みも入れておきます。そして塩を刷り込み、 しばらく放置します。放置した後に五香粉と呼ばれる中華料理の香料や胡椒、塩などを紹興酒か玫瑰露酒 (中国天津特産の薬用酒) で溶いたタレを肉によく刷り込みます。そして再度、尖った物で肉の表面の皮部分を満遍なく突き刺してから、表面にお酢を刷り込み、一晩寝かせます。次の日に肉の表面の皮部分にベーキングパウダーまたはベーキングソーダとお酢と粗塩とを混ぜた液体を塗り、またベーキングパウダーやベーキングソーダ、粗塩その物も直接表面に塗りつけて、30 分放置します。放置した後、表面の余計な粗塩を拭き取り、肉を釜やオーブンで焼いたものです。焼きあがると肉の皮の表面がザラザラ、サクサクの状態になります。なお五香粉は八角=スターアニス、丁香=クローブ、 肉桂=カシア(シナモンの一種)、花椒、ウイキョウ (フェンネル/茴香) などの香料を調合したものです。
●叉燒(cha55shao55 華語)は広東語ではcha55siu55と呼ばれ、これが日本語の中に外来語として取り入れられ、チャ ーシューになりました。ただし、日本のチャーシューは焼き豚ではなく、煮豚であることが多いです。叉の字は鉄串の意味で、叉燒は鉄串に刺したまま釜やオーブンで焼かれます。 叉燒は豚の肩ロースを使います。まず肉の表面にフォークなどの尖った物で満遍なく突き刺しておきます。次に南乳ま たは紅豆腐乳と呼ばれる豆腐を米麹及び紅麹菌によって発酵させたものやオイスターソース、少し甘さがあり、濃厚な香りと濃い色を持つ香港の醤油=老抽、一般の醤油、紹興酒、蜂蜜、砂糖、五香粉、白胡椒、胡麻油、ニンニクなどを混ぜたタレを作ります。肉をこのタレに漬けて一晩寝かせます。次の日に肉を鉄串に刺して焼きますが、肉の表面にタレや蜂蜜を塗っては焼いて、焼いては塗ってを繰り返して、焼き上げます。
●臘味飯は肝腸、臘腸といった広東式ソーセージ(腸詰め)や臘肉と呼ばれる豚の燻製肉をスライスしたものがライスに載せられています。肝腸はアヒルまたはガチョウのレバーと豚ひき肉でつくられた腸詰めで、色が黒いのが特徴です。
●燒鴨は内臓を取り出したアヒルの肉の内側に海鮮醤と呼ばれる大豆、胡麻、ニンニク、八角などで作った香港式の甘みそや甜麵醬=中華甘みそ、塩、砂糖、五香粉を混ぜて作るタレを塗りつけておきます。次にネギと生姜を入れた湯を沸かし、アヒルを入れて短時間茹でます。茹でた後にアヒルの肉全体に麦芽糖を水で溶いた水飴を十分塗りつけてから釜やオーブンで焼きます。この燒鴨を食べやすい大きさに切り分けてライスに載せたのが燒鴨飯です。
燒臘 (燒味) を食べる時にかけるタレは肉を浸したり、煮たりした時に使ったり、肉の表面に塗りつけたタレを薄めたものや肉の表面に塗りつけたタレに醤油やオイスターソース、砂糖、水などを加えたものだったり、蔥油と呼ばれる葱の香りが付いた油だったり、薑茸(蔥油醬)と呼ばれる生姜を摩りおろしたものに細かく切った葱と塩を混ぜ、熱した食用油をかけたものが使われます。
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