【ピリカ文庫】│春風を君に
私がみんなを
あっためなきゃ!
私って、優しいもの!
私がみんなと
遊ばなきゃ!
私って、楽しいもの!
おじさん、
私はそう思ってます!
私、えらいでしょう!
ほら、おじさん、
私、いい感じですよね?
まちがっていませんよね?
このお家には、
かわいそうな子が、
たくさんいますけれど!
私はまだまだ、
ましな方だと、
思います!
だって生きてるんだもの!
本当のお家はないけど!
最高にラッキーだわ!
おじさん、
私、まちがってますか?
私、おかしい?
ねえ、おじさん!
なんでだまってるの?
ねえ、おじさん!
「いい子だからしずかに」
やだー!
「いい子だから」
痛いー!
空がアラームを止めたから、朝になった。
空はいつも私より先に起きてて、えらい。
空は何も言わなくても、わかってくれる。
「めぐ、おはよう。怖い顔しないで」
ベッドまで運ばれてきた水。
空の綺麗な手で、私の頭がなでられる。
ああ、まだ汚いから。さわらなくていい。
「めぐ、大丈夫だよ。ぼくしかいないよ」
もちろん。ここには空と私しかいない。
水を飲み干したら、好きって言おうか。
今の私にさわれるのは、君だけ。君だけ。
「よく晴れてるんだ。窓を開けるよ」
うん。いいよ。もうなでなくていい。
ベランダへ行く空を、見てる。
少し離れただけで、少し不安だけど。
「春だねー。風がやわらかいや」
空が私を助けたのは、真冬だった。
私、けっこう、死にそうだったね。
でも空のおかげで、まだ生きてるよ。
「めぐがいたはあっちの方だ。あれから」
やめてやめて。そんなむかしの話。
せっかくお家から逃げてきたんだから。
おじさんの匂い。いやな声。大っ嫌い!
「あれから、まだ三ヶ月かあ」
関係ないよ。時間とかよくわかんない。
私はこの空のお部屋で、大人になりました。
もう小さな子どもみたいに叫んだりしない。
「マンションのあくび公園春の風」
急に出た。また空の変な俳句。そうだ。
俳句するから優しくなれるとか、ウソだ。
空はさ、きっともともと優しい人なんだ。
「あ。あくびは季語じゃないぞ。」
それくらい、知ってる。ふふふ。
あくびは、春も夏も秋も冬も、出るよ。
私も空も、一年中あくびするもの。
「ぼく、好きな人ができたんだよ」
また急に。なにそれ。何の話?
すきなひと。私より俳句より、すき?
聞きたくない。あ、ごはん持ってきて。
「おいで、めぐ。風が春だから。春だよ」
空に呼ばれたら。行くしかないね。
ベランダは、空とごはんの次に好き。
わ、風だ。本当に気持ちいい。あ、鳥だ!
「うお、危ない。そんな。興奮するな」
抱きすくめられた。いつもみたいに。
嬉しい。幸せ。幸せ。幸せだ。空だ。
怖いおじさんより、やっぱり空がいい。
「めぐ、ぼくの好きな人もここに住むよ」
空がすきなひと。仕方ないね。いいよ。
私も仲良くするよ。空がすきだから。
その代わり、私のこと捨てたらダメだよ。
「めぐ、なかないで。いい子だから」
うん。私、いい子にする。大人しくする。
でも言いたいことは言う。公園行こう。
あ、あと何て言うんだっけ。空に。空が。
「いてっ。おい、あばれるな」
「にゃあ」
「わかったよ。ごはんだろ。わかってる」
風がやわらかい。でもまだ少し冷たいね。
ねえ、空。空。
もし私が、綺麗な人間だったら。
ずっとふたりきりで、いられるかなあ。
おわり
あとがき
ぼくの創作のテーマはほぼ決まっている。
人になること。人間への憧れ。人間賛歌。
動物たちはぼくたち人間のことを、神様みたいに感じているんじゃないだろうか。
優しい神様。怖い神様。
神話に色々な神様が登場する。
猫の世界に関わる人たちがみんな優しい神様だったらいいなあ、なんて思いつつ。
猫の子一匹いない公園のベンチで、また新しい創作のことをぼんやり考えている。
読んでくれてありがとうございましたっ!
ラブあんどピース
アポロ
今回の作品はピリカ文庫に収録されます!
«٩(*´ ꒳ `*)۶»わーい
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