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立命館を蹴って、東大を目指した話⑫(転換期編 第二章)





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第二章





5.跋扈


   9月下旬。店長不在の中、営業は行われていたが、ようやく新しい店長が決まった。
   それは料理長だった。
   そして、店長に就任したこの日を境に、本性を現した。以前よりもさらにシフトを削るようになった。僕たちに何の相談もすることもなく、勝手に。しかも、めちゃくちゃ削られている人と、まったく削られていない人がいて、流石にいい気がしなかった。
   こいつの好みで選んでるだけやん。
   とにかくこの男は、人によって露骨に態度を変える。僕は、賄いを食べた後は必ず、「賄いありがとうございました! おいしかったです!」とキッチンの人に言っていた。もちろん、店長に対しても。別にキッチンの人に好かれたいから言っていたわけではなく、本当においしかったし、それならその気持ちを伝えたほうがお互い、いい気持ちになれると思ったからだ。
   なのに、僕はなぜか嫌われていた。店長にだけ。自分以外に「おいしかったです!」なんて言う子はいなかったのに、よりによってなんで自分が嫌われなければいけないのかわからなかった。別に、仕事をサボっていたわけではない。たしかに暇な日はよく雑談していたが、それは他の子も同じだったし、それに僕はちゃんとその場面の仕事を終わらせてから喋っていた。なのに、喋っていても自分だけ怒られる。挙げ句の果てには、休憩時間中に友達と喋っていた時、自分だけ名指しでキレられた。
   流石にこんな理不尽な仕打ちを受け続けると我慢ができなくなる。だんだんこの男のことが嫌いになり、10月の半ばには僕の口から「おいしかったです!」という言葉が発せられることはなくなっていた。




6.裂罅



   11月。店長との間に軋轢あつれきが生じてから、日に日に辞めたくなっていった。できるだけ顔も見たくなかったので、今まで週5だったシフトを週1.2に減らした。でもそうなると、新たな敵が現れる。
   母。母との仲は悪い。険悪になったのは去年から。幼少期からお金をかけて勉強をさせてきたのに、結果高卒になってしまった息子を恥ずかしく思い、ずっと根に持っている母。対して、毎日ガミガミ言ってくる母に耐えきれず、意地でも言うとおりにするかよと反抗する僕。
   この時、漢検準1級の勉強をしていたのだが、「どうせ落ちるのに。無駄金やろ」と言われた。教材代と受験料は自分で稼いだお金なのに、なんでこんなに人のやる気を殺ぐようなことを平気で口にできるのかわからなかった。そして、対立は日に日に激化し、「死ね」などの暴言を浴びせられるようになった。



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