「帰ってきた龍馬」を作ろう!
SNSのバイオ欄に、こう書いている人がいたら身構えませんか?
「尊敬する歴史上の人物は坂本龍馬です!」
アイコンが龍馬だったらある意味完璧よね。それでも吉田松陰よりはマシなんじゃないかとか、最近流行の渋沢栄一だって大概だとか、そもそも明治維新関係の人物をあげている時点で地雷だとか。ジャンヌ・ダルクはええんか、とか。
ちなみに私は「水戸学だっていいところがある!」と言われたことがありますが。個人的にはあんなもんゴメンです。
と、のっけから言いたいことは山ほどありますすが、とりあえず龍馬に絞って考察してみましょう。
大阪府民が「維新」を支持している時点でアレやで
のっけから府民に喧嘩売ってすまんな。けどな、前から思っとんねん。府民のくせに維新で引っかかるてお前……ご先祖の苦難を足蹴にされとるようなもんやろ。
維新ちゅう言葉がそもそも当時はなくて、明治も10年過ぎてから引っ張ってこられた胡散臭いもんやっちゅうことは話ズレるからおいとくで。当時は「ご一新」やね。まあ、あの政治団体にそんなもん期待してもしゃあないやろ。
ほんでなんで明治維新が府民にあかんかっちゅうとな。明治政府は割とガバガバで、こと経済政策はお粗末の極みで、外交もイギリスのパークスはんに怒鳴り散らされてパシリにされてるようなもんでな。あ、経済に話戻すとな。
江戸時代の上方て銀本位制やんか。それを明治政府が突如フォローもなく廃止して、大阪の商家ごっそり潰れとんねん。さらに時計の針を巻き戻すと、薩摩藩が莫大な借金を強引にチャラにするっちゅうろくでもない財政再建策をやらかした結果、上方の商人はえらい目にあっとんねん。まあ、これはぶっこわれた大阪経済立て直したのが五代友厚ちゅうことでチャラやろか。
関西の人を敵に回したないけどな。京都府民は金払いがええ長州藩を贔屓にしとったら、禁門の変で大火事起こされるわ、維新のあとは帝を東京に連れ去られるし。
大阪は「維新」が好きやし。どんだけドMなん? 真田幸村応援して徳川家康の偽墓作っておいても、維新をもてはやしとるようでは歴史認識があかんと思うで。
で、話を龍馬に戻すとな。これやな。
◆日本維新の会 「島耕作」シリーズの弘兼憲史さんが監修した政策宣伝連載漫画「ふたりの維新志士」を発表 吉村はんをイケメンに描く - ハンJ速報 http://blog.livedoor.jp/nanyade/archives/30193656.html
いやあのさぁ……前述の通り五代友厚ならまあ、理解できなくもない。なんでや、龍馬関係ないやろ!
「薩長同盟あっての倒幕やで、維新やで!」
まあ、そういう反論もありますわな。せやけど薩長同盟と龍馬についてはいろいろややこしい話になっとって。このへんは各自調べて。龍馬がおったから明治日本が発展したっちゅう単純な話でもない。
それにやな。この漫画アニメにすればええっちゅうやすっぽさどうにかならんの? 私はな、パラリンピックとアニメかけあわせたNHK作ったやつも、幼稚で嫌になってもうたわ。お前らこういうの見せときゃええやろ、っちゅう思い込みが腹たつわけよ!
エセ猛虎弁じみた関西弁はそろそろやめてやな。
なぜ、アイツは坂本龍馬を推すのか? そしてそれが危ういのか?
坂本龍馬ファンが全員悪いとは別に思いませんけど。心のうちで好きならまあ、どうでもいいと思いますけど。SNSなんかで自慢されると「脇が甘いよな」とは思ってしまいます。
それはなぜか?
理由1:名前がかっこいいから!
いきなりバカみたいな理由をあげて申し訳ない。でもそうでしょう?
名前の“龍馬”の時点でかっこいいじゃないですか! そんなしょうもねえ理由……と思います? でも事績が似ている中岡慎太郎はどうですか?
「慎太郎がゆく」
うーん、そもそも慎むっていうのがね、おもしろくないよね。
理由2: 早死にしているから
ミロのヴィーナスは腕がないからこそ美しい。織田信長は本能寺で死んだから。坂本龍馬は志なかばで散ったから。だからこそ感情移入できる!
そういうこと! 出世して志を遂げた上で被るリスクから、早死には遠ざけてくれます。
理由3:フィクションと史実の区別が曖昧だから
年代が関係しているでしょうが、その理由やきっかけを聞けばこう帰ってくることでしょう。
「司馬遼太郎『竜馬がゆく』に感銘を受けました!」
あの作品はそもそも“龍馬”ではなく“竜馬”という時点でわかりにくいワンクッションは置いているんですけどね。
理由4:イメージに流されやすいから
そういうフィクション作品ありきであるし、
そうなりませんか?
理由5:スピリチュアルかつ皇室がらみだし!
坂本龍馬がプッシュされた背景には、いろいろあります。薩長土肥だったものが土佐が外されていく過程で、土佐が自分たちの存在感をおしあげるためにプッシュしたとか、いろいろと。
そしてなんといっても昭憲皇太后の夢にあらわれたという、極め付けのスピリチュアルな話ですよね。
これに突っ込むと、いろいろと「下劣である!」と怒られていろいろ面倒なことになります。こんなスピリチュアルな理由で龍馬崇拝をする人なんていない……と思うでしょう? ちょっと探せばなかなかえらいことになる。こんなふうに茶化している自分だって怖いわ!
◆昭憲皇太后の夢にあらわれた坂本龍馬の「留魂」 https://shuchi.php.co.jp/article/3456
英雄崇拝がまだ通じる日本ゆえに……
我々が素晴らしいのは、あの英雄がいたからである!――こういう英雄崇拝って、世界規模で見るとオワコンなのですが、日本人はこれが好きでして。
世界的には戦争画の傾向でわかるんですよ。
ナポレオン戦争だとナポレオンやウェリントンが目立つ絵が多いけれども、第一次世界大戦では名もなき兵士が主題となってゆく。軍事制度の改革もあり、英雄さえいればなんとかなるという考え方は廃れてゆきました。
ところが日本はこれがまだまだ現役であり、あやうい。もうオワコン。歴史観をアップデートしなくちゃ!
一例として唐鳳氏でも。彼女が優れていることはそうだけれども、彼女にやたらとクローズアップする理論には乗れません。ああいう人材を生み出せる台湾という国家の仕組みを学ばないといけないでしょうね。ああいう才能の持ち主がいたとしても、日本なら潰すでしょう。
彼女の頭の中身を解析するよりもやるべきことはありますって。
日本人がこれをできていないからこそ、こういう国家の規模に陥っているのだと私は確信しています。
いまだに「もしもあの英雄が総理大臣だったら?」という、前提として英雄崇拝べったりな本がベストセラーになるわ。
『銀英伝』のあのキャラをアイコンにしたSNSアカウントが「日本にあのキャラがいたらなぁ」とぼやいているわ。
だからまず、その英雄崇拝を捨てましょう! 中国だって実はそこまで心底毛沢東崇拝してないぞ。
「ナイジェリアからの手紙」効果が期待できる龍馬
「ナイジェリアからの手紙」という、アホみたいなスパムメールが一斉を風靡したことがあります。詳しくはWikipediaでもどうぞ。アレを見て、「こんなん引っかかるのアホやん!」となるのが大半の人ですね。それでもなぜ、送り続けられたのか?
一万人に送れば、一人くらいは引っかかっちゃうおひとよしがいるかもしれない。狙いはまさに疑うことを知らない、こういうおひとよしだ!
極度にだましやすいターゲットを見つけることが目的ともいえるわけです。
SNSに坂本龍馬のことを書き、アイコンまでそうしちゃっていて、そのことに疑念を抱かない。司馬遼太郎先生の作品は教科書がわりだ! そう信じている極めてピュアな方って、だましやすいんですね。
ああいう人のリストを作ったら、何か、悪用できそうな気はする……やらんけど! 悪い人ではない。信じやすいし、だまされやすいだけ。むしろそういう猜疑心が薄い人間というのは極めて善良ではあるのです。
龍馬ファンに悪人というイメージはないでしょ? それを悪用しようとして漫画にする側は悪いけど。
で、問題は龍馬だけでもない。『銀英伝』ファンに私怨でもあるのかと誤解されそうなくらいネチネチ書いているけれども、アレのあのキャラになりきったSNSを運用している層も同じようなモンでしょう。海賊王のキャラもそうだし、あのRPGとか。どれも流されやすさでは似たようなもんよ。
「帰ってきた龍馬」を作ろう
枢軸国のドイツがヒトラー。同じくイタリアはムッソリーニ。日本は誰が帰ってくるべきか? 考えていました。素直に考えたら東條英機あたりになりそうなところではありますが、大衆を魅了し、煽り立てるとなると何かがちがうと。
徳川斉昭は有力候補です。演じるのはもちろん竹中直人さんで。斉昭は幕政を昆明に貶めたとんでもない政治犯ではありますが、カリスマと人気はあった。ゆえに松平春嶽までも騙された。
でも、知名度やイメージがパッと浮かばないだろうし……。
そう思っていたところ、坂本龍馬がよいとひらめいたわけですよ!
吉村はんはようやっとる! あの漫画がヒントになったわけやね。吉村はんみたいなイケメン政治家(松坂桃李さんあたりでどや!)と意気投合し、結果的に無茶苦茶になってまう。そういう話はどうやろ? 龍馬は所詮幕末の人間や。餅は餅屋ゆうやろ。現代のITだのSDGsだの、そして感染症対策についてはまったくわからんわけよ、そらしゃあない。そんな状態で無茶苦茶なことを言いよって、取り返しのつかん悲劇を巻き起こすわけやね!
どや? これでディストピア映画作ったらええんちゃうか! 『パンケーキを毒味する』もできたことやし、エンタメでも攻めていかなあかん!
と、エセ関西弁で締めとします。ほな!