『おちょやん』22 京が日本のハリウッドだった頃
自分のしたいように生きる道を求め、千代は道頓堀を旅立ちました。まずは大阪へ向かい、そこから京都へ。口入れ屋で強引に仕事を探します。
大正の「ハケン」事情
はい、ここで悲しくも死語であったはずが、復活してしまった嫌な概念「口入れ屋」でも。用心棒稼業の時代劇でも出てくる商売です。現代で言えば派遣です。
とはいえ、中間マージンは抜くし、詐欺まがいの悪徳業者もいるし、弊害が大きいので一旦廃止されて、時代劇だけのものになったんですよ。それが「派遣」としてシレッと復活したことそのものがあかんのです。
そんな口入れ屋も、千代には戸惑っています。身元保証人がない女を雇うのはトラブルになりかねないのです。浪花千栄子さんの人生からは少々変えて簡略化されていますが、ゲス度は上方修正してへんので、ある意味誠実なドラマです。
そしてこの場面で、うつむく杉咲花さんの前髪からひとすじ乱れ髪がこぼれるところが圧倒的な美しさと色気を感じました.コレやで,コレ! こういうオールバックにしていくと、前髪が落ちた時,男女ともに色気がある。ゆえに前髪を作るのは子どもだけだった。そうわかる美しさでした。
千代はもうこれしかないと、「カフェー・キネマ」に押しかけるように向かいます。本作は小道具さんもがんばっておりまして、横書きに右から左と、左から右が混ざっております。大正やな。エキストラさんでモダン・ガールが歩いとるのもええで。数年前の同時代を描いたドラマでは、女優さんがドラクエ魔王状態の衣装でえろうで嘆いたもんですわ。
「カフェー・キネマ」へおこしやす
「カフェー・キネマ」に向かうと、洋子という女が気取った調子で迎えます。うーん、この大正の感じ。竹久夢二の絵から抜け出たみたい。店長は監督を自称する宮元という男でした。NHK大阪が良心にめざめた結果、セットが無茶苦茶凝っております。ブロマイドがペタペタ貼ってある。
朝ドラで喫茶店は定番といえばそう。定番は手抜きもできますよね。お約束ということで、モロにPhotoshopとIllustratorでテキトーに作ったとわかる、そういう小道具にしてもええ。それをちゃんとこなす本作はえらい。
面接ですら、活動写真調にする自称監督。なんでも京都は鶴亀と日シネが撮影所を持っているとか。そうそう。日本の芸能界は、京都の撮影所にも向かう流れがあったもんです。そもそもNHK東京と大阪交代制で朝ドラを作ることも、そういう流れの果てとも言えますし。京都が衰退することは健全とは言えませんね。その黎明期に今年は迫ります。
なんでも、このカフェの売りは女優志願者が女給をしていることが売りなんだとか。そうフハハハと笑い始める宮元。給金なし、チップのみ、そこから手数料を引く。どす黒い勤務形態が見えてきました。
千代はすんなりとお茶子と同じだと納得しておりますが、それにしたって真っ黒い条件やないの。京都は日本のハリウッド――こうまとめると、綺麗ではあるのですが。ハリウッドはそうそう綺麗なだけのもんやないで。
地元で美人,スターになれると言われた若い女優志願者が集まってくる。ウェイトレスあたりをしながらオーディションを受ける。けれども、地元では褒められた美貌も、ハリウッドでは一山いくら。目立たない。だんだんと若さや美貌、そして向上心を失い、堕落し、ついには! 本場では「ブラックダリア事件」が有名です。女優志願者の若い女性が惨殺された未解決事件。エルロイおよびその小説の映画化が有名です。そこまで悲惨でなくとも、堕ちて行った者の涙が染み込んだ街であることは確かなのです。
千代は興味津々といった様子で、ライスカレーを食べています。貸衣装を着て、宮元にその代金を請求されております。ライスカレーもやて。なんやこの生々しさ……技能実習生、派遣でもおなじみの悪徳システムは日本の伝統ちゅうこっちゃね。
千代は富山出身の真理と意気投合しています。かわいい真理。けどなんやろ、騙された感が満ち満ちていてつらい。『ひよっこ』の集団就職が人道的だったとわかる仕組みちゅうか。でも真理も素朴なだけでなくて、女給仲間に手厳しいコメントを言います。
純子は旦那のために働く。京子は男に騙された復讐をしたい。洋子は売れっ子でお高くとまっている。映画に出たというけど,所詮は大部屋女優、そのくせえらそう。
大正ロマンをぶち壊すNHK大阪,なんやこの日本近現代史の闇は。チェリーの赤すら毒々しい世界ですわ。視聴者のモヤモヤを先走るように、ここで黒子はんが親切なことを言う。朝ドラヒロインが水商売に挑むというのも革新的です。ええんちゃうか。それも女性の生き方やもん。
カフェはキャバレーの元祖! おっ、せやな。そういうことですわ。そんなもんお前……前述の通り一歩間違えたら“ブラックダリア”やないの。
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『週刊おちょやん武者震レビュー』
2020年度下半期NHK大阪朝の連続テレビ小説『おちょやん』をレビューするで!週刊や!(前身はこちら https://asadrama.c…
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