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【漫画】誇張し過ぎた女子高生実録『ゴクジョッ。』は「観念の女子高生」へのアンサーなのか?(他作品との比較と考察)

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前回は、漫画史上に残る怪作であるゴクジョッ。〜極楽院女子高寮物語〜』(以下、『ゴクジョッ。』)という漫画作品ついて概要とキャラを紹介しました。

簡単に書こうかなと思っていたところ、作品が革新的かつ面白過ぎて筆がノリノリのノリスケになってしまい、4部構成と相成った次第でございます。

即ち

①:概要前編(物語概要とキャラ紹介)
②:概要後編(他作品との比較と考察)
③:傑作選
④:ご当地コラボ

の構成で、今回は「②:概要後編(他作品との比較と考察)」です。

それでは改めてお付き合いの程宜しくお願い致します。

前回のあらすじ

『ゴクジョ。』についての前回の更新を含めて、その魅力を要約するとこういった感じかと思います。

・作者宮崎摩耶先生の代表作のひとつ
女子高生実録漫画のようでいて内容はかなりぶっ飛んでおりある意味革新的で漫画史上に残る女子高生像を描いた作品
・主要キャラが其々一癖も二癖もあり、役割が明確で際立っている
・圧倒的破壊力を持った漫画を欲している人にお勧め

個人的には天才の作品だと思っており、今以上に認知度を向上できれば栃木市ドン・キホーテとのコラボも行けるのではないか?と思っています。

『ゴクジョッ。〜極楽院女子高寮物語〜』(宮崎摩耶/集英社)第1巻より引用
もうドン・キホーテとコラボやるしかない

先日読書レビューを覗いていると「女版稲中」と比喩している方もおり、稲中が好きな層にも響く作品ではないか思います。

また、ある女性は宮崎摩耶先生の名前を出しただけで『ゴクジョ。』の名前が上がるほどなので、意外に女性も見てるんだなと。(ちなみに『工業哀歌バレーボーイズ』の愛読者でした)

幅広く受け入れられて、本当に素晴らしい作品だなあ…でも女子高生の裸ばっかりでてくるんだけど。

なぜこんな怪作が生まれたのか?作者の動機

このように、革新的な女子高生を描き、漫画史上に残るエポックメイキングな作品となった本作ですが、何故どのような経緯でこんな型破りな作品が生まれたのか?

2016516日掲載の『ファミ通.com』のインタビューを参照し、作品誕生の経緯を要約すると、大事なことはこの2点かと思います。

・先生自身が女子高生だった経験から、当時流行っていた『らき☆すた』を始めとした女子高生モノの作品の女の子たちを見ていて「ここまでかわいくないよね」という違和感があった
リアル路線で実録交じりのものとして始めたが、次第にエスカレートしていった


私個人的には、この話を聞いて非常に共感しました
(『らき☆すた』をダメだと言っている内容ではありません)

というのも、私も萌え女子高生作品については近しい違和感を感じておりまして。なんというか「観念的」過ぎるなあと

生身の女子高生は意外に現実的でヒエラルキーに悩まされその反動で夢も見る

私は共学だったので、周囲の女性は割と男性の目を意識していたためか、清潔感もあって言葉遣いなども気を付けていて、皆さんとてもかわいかったのですが、基本的に学校は部活以外の活動においてはそこそこで、恋愛と美容とおしゃれが興味の中心だった子が多かったように思います。

そして女子高の女子高生は女子高生モノとは更に乖離があります。

当時女子高の友人から聞き及んでいた「女子高に通う女子高生」の生態は

「女子高内は獣の群れ。うるさい。学校はその檻」

「汚い」

「共学の女子に何故か過剰に対抗意識を燃やす」

と言う話だったので、字面だけ見ると如何にも「飼えない野生動物」みたいとだなと思いました。ストリートファイターシリーズのブランカの方がまだ温和かなと。(※私の周囲からの情報を元にした私見です)

これに「トイレは覚えないのでペットとしての飼育には不向き」と付け加えたらたとえ可愛かろうが飼育はあきらめると思います。

とは言えそこから多くの人は男女の共存する世界を体験して、精神的にも女性としても大人になって美しくなっていくと思うのですが。

何れにしても、現実の女子高生は『萌え要素』とはかけ離れた存在で、本来の魅力は喜怒哀楽の豊かな表情の変化や、実はえっちに興味深々なところじゃないかと思う次第であります。

「観念の女子高生」と「現実の女子高生」

このような、「観念的な女子高生」についての違和感を感じつつ、
個人的には普段は所謂「萌えアニメ」や「萌え漫画」は見ないのですが、紹介文を書くにあたり、幾つか作品を拝見しました。

観念的女子高生作品①:『らき☆すた』アニメ版

まず宮崎先生もお好きな『らき☆すた』の第1話。

ご覧になったことの無い方に向けて、私のフィルターで作品を簡単に説明すると、

春日部市の共学高校を舞台にした女子高生たちの日常アニメで、主人公はアニメやゲーム等の所謂オタクという、視聴者層と視点や価値観が近い存在。簡略化された幼児的な可愛らしさのある柔らかい絵柄の、所謂「萌え絵」の美少女たちが登場し、誰も傷つけないゆるい作風が特徴。

声優さんの子ども人形劇のような演技もあって、視聴者は作中で行われる会話劇を嫌われない距離からそっと覗くような、
それでいて主人公の女の子の視点や価値観で共感できる
ため、確かに人気になるだろうなという事は理解できました。

しかし、そういう流れをロジックとして理解はできるのですが、彼女たちを直感的に見ていて、性別と年齢を認識するのに脳がバグる感覚が延々とあり、内容を飲み下すのに苦労しました。

人形劇的な雰囲気のある作品とはいえ、Eテレの幼児向け人形劇『ざわざわ森のがんこちゃん』のほうがヘヴィな人間関係の問題を扱ったりするので、それよりもふわふわと実体がない感覚。かなり独特な感覚です。

何故そう感じてしまうかは、男性が作り上げた「観念的な美少女たち」が男性の話して欲しい会話をしている為じゃないかと思いました。これはつまり「男性の内包する男性の人格の一部分」とも言えると思います。

他の萌え美少女高校生が仲良くしている作品も、ある意味理想の女子高生の姿というのは理解できますし、幼児的な可愛さはあるのですが、やはり私の様に違和感をもつ読者もいると思います。

観念的女子高生作品②:『けいおん!』漫画版・アニメ版

次に、こちらの漫画版を1巻、アニメを1話を拝見しました。

原作である漫画版は四コマ漫画形式でストーリーが進むため、テンポよくある意味淡々としていますが、そのなかのゆるい要素を強調したのがアニメ版のようで、それは萌え美少女作品と言えるかと思います。

確かにあの様にゆるくてまったりした感じの女子高生もいるでしょうし、作品としては「バンド演奏という楽しさ」についても共感する面がたくさんあり、澪ちゃんについてはかわいらしいと思ってしまったのですが、「女子高生としては尊すぎるな」という感想でした。

ではリアルの女子高生に寄せればいいの?

というと、先述の通りリアルな女子高生はかなりのものですし、例えば駅で駄弁りながら、恋愛と性行為についての情報収集や議論、美容やおしゃれの話題、趣味の情報交換、ヒエラルキーの序列の話など、(男女問わずですが)年相応に結構しみったれた話をしているのが日常で、

赤裸々エピソードの方向性が「表面上はあんなに可憐な女子高生は裏では汚いのよ~オホホホホ」となりがちな「リアルな女子高生」の風景をそのまま物語にしても面白くもなんともなく、その中の奇抜なエピソードも点で取り上げられエッセイ作品のようになる程度かと思いますが、『ゴクジョッ。』については「リアル路線である」というのもまた違和感があるんですよね。

ではよりリアルな女子高生実録漫画は無いかと探していたらかなりリアル路線で迫った漫画作品がありました。

それが『女子高生』(双葉社)という大島永遠先生の描いた作品です。

リアル女子高生作品:『女子高生』

第2巻まで拝見しましたが、こちらの作品は女子高生の汚さや、小さいいじめによって構築する女性特有のヒエラルキーの形成を漫画の王道形式と過激表現で作品にしています。

こちらの方が『ゴクジョッ。』よりリアル路線が色濃いと感じますが、違いは「主人公が汚れず、強い事」。

過去から構築された基本的なドタバタ表現に加え、本来美少女で活発であった主人公が、自らは汚れず他者にアクションする事で対決を乗り越えコメディを成立させる作風なので、結果リアル路線に終始し、リアルにもある出来事に向き合った結果友人たちと共に成長していく、という内容かと思います。

人気シリーズで連載も続いていて、私も面白いと思うのですが、私的には「打てそうで打てないボールゾーンの球」のような感じでした。

では『ゴクジョッ。』は「女子高生実録漫画」なのか?というと…

『ゴクジョッ。』の草案も、当初ギャグはほぼ無く、ほのぼのとしてちょっとエッチな実録モノを想定していたらしいのですが、担当編集者より「なんかインパクト不足」という事で大幅修正を加え誕生したという事です。担当編集者の一言で現在の革新的な作品に仕上がりました。

『ゴクジョッ。〜極楽院女子高寮物語〜』(宮崎摩耶/集英社)第7巻より引用
絵柄が『けいおん!』っぽくもあり恐らくこの路線

先述の女子高生の野生児的な要素を、作者の圧倒的発想力と高度なセンスと絶妙なフィルターと咀嚼と作話力で構築されたネタを、デカい棍棒を振り回すように打ち込んできて見事大笑い出来る作品に仕上げているのが「さすがだなあと」感心したのでした

特に、あれだけ裸がでても、下品なネタを扱っていても、いやらしくならないし不快にならない、という絶妙なバランス感覚が特筆です。

その秘密は「亜矢が性や恋に疎いから」というのがあり、突然異様に遭遇して戸惑う事がフィルターとなっていると思います。
また自らが虚勢を張った者が後に自ら墓穴を掘り報いを受け汚れを被るので、読者は納得して気遣わず笑えるという。

こういう「デカい棍棒ぶん回す」裏に隠れた「絶妙なバランス」への気の使いようと、女子高生の実態が結局は「だらしなさと不潔と排出物」に集約される、誰しももつような人間の裏側という、そのままでは捻りが無くてあまり笑えないエピソードを、絶妙なバランス感覚で選別しながら、「鏡で自分の股間を観察しているのを友人に見られる」といった恥辱的で笑えるエピソードを厳選し独特のセンスで誇張し物語化して最高の漫画にしていく。

抽出のポイントと誇張が上手いので、下品さも嫌な気分にならずにただただ笑える。こんな漫画が読める世界は愛に満ち溢れているし人間も信じられる。人間は善意とサービス精神の塊だ。こんな人間がいるなら人類はどんな事も乗り越えらえる。地球へ隕石を落として人類を粛清しようとしている人に読ませたい。そういう気持ちにさせられます。

結論

以上のように、漫画史上に於いても非常に重要でエポックメイキングな作品だと思うのですが、「この路線、宮崎摩耶先生以外に誰か描ける?」というのを読んでいて思います。

そのまま実録を載せたら「へぇ、そうなんだ、それは汚いね」で終わってしまい、作品になりにくいところを、絶妙なバランス感覚で面白エピソードを厳選し、巧く誇張して、その衝撃に向かって進みながら笑いと人間ドラマにつなげ物語化していく点が際立った作品だと思います。

同じような女子高生実録漫画のようなものは、他にもあるのかもしれませんが、これ程までにクオリティ高いギャグ漫画作品として昇華させたのは、ひとえに作家の力以外にないなと。

ここまで元来の女子高生漫画のイメージを破壊し尽くしつつ、同時に『今まで見たことの無いような独自性の高い女子高生ギャグ漫画』という一つの創造世界と、その世界の独自性が高いことによる事で生まれた『新たな価値』まで創造してしまいました

この『破壊と創造』を同時に行った存在というのは、もはや神話の中の神様くらいしか私は知りません。…いや、ヤハウェは創造神としては結構微妙なタイプなので、もしかしたら神以上かもしれない(笑)。

『ゴクジョッ。〜極楽院女子高寮物語〜』(宮崎摩耶/集英社)第4巻より引用
この回インパクトデカいコマで押し切る感じで好きです

そして、独自的過ぎるその世界観は、結果同様のジャンルの創造世界を否定せず互いが引き立つ結果となりました。それは意図しなかった副産物と言えそうですが、この点についてもこの作品の功績だと思います。

次回は私的傑作選を

ここまで読んで頂きまして、誠にありがとうございました。

全体を通して1話から3話で完結する作品なので、何処から読んでも面白さを感じられるという観点から、次回は私的傑作選をまとめたいなと。

ぶっ飛んだバカエロ漫画を読みたい、笑える作品ないか?と探している人に読んで欲しいですし、この記事がそういう方々に見つかるといいな~と思いつつ、まとめていくことにします。

何故まとめるか?それは続編が掲載される確度が上がるからです。

なお、まとめる上での問題は「どれも面白いので厳選が難しい」という事です。

ちなみにこれは確実に入りますね。

『ゴクジョッ。〜極楽院女子高寮物語〜』(宮崎摩耶/集英社)第6巻より引用
第49話。最後のオチが秀逸過ぎる

ではよろしければ次回もお付き合いください。

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