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【ショートショート】 さすらい

「それじゃ、ご機嫌よう」
「たった今、会ったばかりなのにどこ行くの?」
「たった今から、さすらうのさ」
「どこへ」
「風のむくまま、気の向くまま」
「風来坊だね」
「だけどゴールはあるさ。道筋なんてものが無いだけで」
「お金はあるの?」
「無いよ。無い方がいい。無いからさすらうのさ」
「僕には、さまよっているように見える」
「さまようもんか。さすらいだよ」
「そういうものなの?」
「ああ。さすらいにはゴールがある」
「ゴールってどこ?」
「新しい自分と出会うこと」
「えらく抽象的だなあ」
「外側に求めていたって見つかりっこないよ。本当に大切なものは、すでに皆んな持っているんだ」
「どこに持ってるの?」
「想い出すんだよ。想い出すために、さすらうのさ」
「そか。僕もついて行っていい?」
「ダメだよ。さすらいは一人で行うものなんだ」
「じゃあ、僕も別の道をさすらおう」
「そうだね。歩いて歩いて…」
「歩き疲れたら道端で休んでいい?」
「朝陽が見えてきたら、そこからまた歩き出せばいい」
「身支度なんてしなくてもいい」
「歩いて行けないところなんてあるのかな?」
「その気になれば、僕らはどこまでだって歩いて行けるさ」
「地球上には、たくさんの道筋が張り巡らされている」
「ゴールはひとつかな?」
「その答えは、さすらった者だけが知るだろう」
「誰かが作った轍の上を歩いてもいい」
「道を切り拓いた人から学ぶことはたくさんある」
「僕もヒーローになれるかな?」
「なれるとも。君が自分の中のヒーローと出会ったなら」
「そういうもの?」
「ああ。誰も歩いたことがない道を歩けば、君はヒーローになれる」
「足跡を作れる?」
「その足跡を辿って、たくさんの人がゴールを目指すだろう」
「だけど、まずはさすらわないとね」
「そうだね。歩いて歩いて…」
「歩いて歩いて…さすらった先で新しい自分と出会う」
「まず、歩こう」
「歩いていると、たくさんのことを想い出す」



(788字)

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