春の海
(これは、2006年3月20日に書いた詩です。)
『春の海』
三月の よく晴れた朝
独り暮らしの僕は早起きして待っていた
すると 六十六歳の父と六十四歳の母が
銀色のクルマに乗って迎えに来た
三人の行く先はビーチ
「春の海を見よう」
というのが父から前日に届いたメールの内容だった
行く途中の店で簡易な写真機を買った
そして高速道路を走ってホテルのある海岸に着いた
父と母と僕は誰もいない砂浜で
おにぎりや野菜や肉や卵焼きを食べた
眼前には曲線を描いて広がる太平洋
見上げれば雲一つない青空
空の色を海が反射して
両者は殆ど同じ色だった
僕は写真機で父母の姿を撮った
父母は三十三歳でいまだ独身の僕の姿を撮った
それからホテルでコーヒーを飲み 土産物を買ってから
クルマで移動して僕のアパートに戻り 父母と別れた
白髪頭の父も病気を抱え通院中の母もまだ若さが残っていて
前日に突然思い付いた日帰り旅行を僕と一緒に楽しんだ
毎日が快晴という訳ではない三月の天気だけれど
この日はよく晴れて 自然も人も優しかった
出典・『霧島葵詩集 小鳥のように』(銀の鈴社刊)
著者・霧島葵(33歳)
著作年月日・2006年3月20日
(C)Aoi Kirishima.