身分証はお持ちですか?
私は煙草を吸わない
吸わないけれど買う必要があって
近くのコンビニエンスストアへ
携帯だけを持って出かけた
煙草って現金でしか買えないんだっけ
携帯だけで大丈夫かな
ダメだったらまた戻るか
などと考えながら
確か煙草は現金以外でも買えたはずだ、と
どこか確信しながら3分歩き
コンビニエンスストア着
私「203番1つください」
店員「203番ですね」
21時頃のレジに立つ店員は
個性的な人が多い中、その人は
ごくありふれた、世間に馴染めそうな人だった
私の偏見でしかないけれど
203番を持ってきた店員は煙草を触りながら
「身分証はお持ちですか?」
と、一言
私「あ、持ってないです」
店員「確認できないとお売りすることはできないですね」
私「あ、すみません」
なぜか謝ってしまった
31歳2ヶ月の私は情報処理しきれずに
コンビニエンスストアを出た
ついさっき歩いた道を
少し足早にまた歩く
独り言を発し続ける
「どういうこと?」
「31歳なんだけど」
「前髪おろしてるから?」
「なんなん」
「え?どういうこと?」
その3分間は見事に独り言で埋め尽くされた
家に帰り財布を持ってもう一度出る
「悔しいからもう一回行ってくる!」
猫のカルダモンにそう叫んだ
顔写真付きの身分証を持って
3度目の道をまた強めに歩く
さっきよりももっと足早になっている
コンビニエンスストアに着くと
例の店員がまだレジにいる
どんな対応をしてくれるのだろう
わくわくしながらレジに並んだ
この時間だからレジはひとつ
必ずあの男の前に辿り着ける
少し混んでいたので私は2番目
うしろにもう2組いた
みんな、煙草を買うなら身分証が必要だよ!
心の中でそう叫びながら待っていると
もうひとつのレジが開いてしまった
ちょうど前に並んでいた人が
あの男のレジに行った直後のことだった
私の目の前にいるのは
いつもヘッドフォンを首につけている
よくいる店員さんだった
私とおんなじ、世間に馴染めなさそうな……
私「203番1つください」
店員「画面のタッチお願いします」
私「え、あ、はい」
片手に用意していた身分証は
見せつけることもできず
なんの意味も持たなかった
平成4年2月26日生
そう記載された
私の身分証
今日の昼頃、ちょうど
仕事用の動画撮影をしていて
「20代前半にも30代後半にも見られることがあります!」
とかなんとか言ったばかりだったことを思い出した
これからはどうしようか
「たまに、10代にも見られます」
と付け足したほうがいいだろうか