『無駄な抵抗』観劇感想
『無駄な抵抗』(前川知大 作・演出)
@世田谷パブリックシアター
2023.11.18 13:00開演
(ネタバレあります)
まず、列車がすべて通過するようになった駅、という設定がいい。有り得ないが想像するのは容易な状況。抵抗しがたい理不尽、それは世界(ここではこの街)全てを飲み込んでいて、人が一人飛び込んでも止まらない強大で無慈悲な暴力性を持ち、住人側からの反論や抗議は一切届かない。ただ事実だけを告げる同じアナウンス「列車が通過します」が無感情に放送されるだけ。コミュニケーションは不可能だ。
この理不尽な世界に省みられないこぼれ落ちた人(施設出身の男女)、場に縛りつけられた人(カフェ店主)などの配置も面白い。
と、舞台設定は面白いのだが、観劇後のシンプルな感想としては、ずいぶんストレートな結末だなと思った。
「人を殺す」という“運命”へ抗うために「人と深く関わらない」生き方を選んできた主人公が、“父”を社会的に抹殺しよう、と決意することがクライマックスなのだが、そこに晴れやかさを感じ切れなかった。
運命への抵抗の仕方を間違えていた彼女の闘いは、自分のトラウマを見つめ直すことでもあり、その痛みへの覚悟はできていたように見えた。しかし闘いの先には愛するホストが自分の息子だと知るという予想外の痛みにも遭わざる負えない。その時に彼女はまた「やはり人とは深く関わらない方がいい」と感じないだろうか。
彼女の選択が結果悲劇に向かうのは、元にしているのが『オイディプス王』であることもあり、当然なのかもしれないが、だとしてもそこに爽快感が欲しかった。
そもそも、死に際の伯父を裁判で罪に問うたところで…という現実的な考えもよぎってしまう。同様に、列車を止めて嬉々とする飲食店店長にも、抵抗そのものが目的化していて意義薄い行為だと感じた。物理的に列車を止めても何も変わらないし、それは本当の意味で運命を止めてはいないのでは、と。
現実と非現実のあわいを上手く描く前川脚本で、終盤に現実的なことが気になってしまうこと自体が残念なのだが、(特にコロナ以降だろうか)前川さんの脚本はどんどんメッセージがストレートになってきているようにも思える。それが良いとか悪いとかではなく、劇の持っている力は変わらないのだけれど、“今、すぐ、ここで”の行動を求められているような気持ちになって、個人的に少し居心地が悪い。
池谷さんの演技は凄まじかった。この人がブルー&スカイさんの演出では別方向の凄まじさを発揮するのだから、計り知れない。
ホストが同じ施設出身の女性にお金を渡す時のセリフはとても良かった。
「たまたまこうなってるだけ、そこに意味はない」
自分がずっと思っていたこと(↓)とぴったり重なった。
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