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自動詞として失っていた私が失い終えるということは、カラカラになった歯磨きのチューブのように、少しずつ失われ続けていた何かがもう絞り出せなくなったよということではなくて、単純に失うという行為の期間が不意に途絶してしまうということだ。私は目的語たりうる「なにか」を失っていたわけではない。 記憶は象徴化して具体性を失い、それによって妄想は彩度を損なわれ、へだたりだけが現実感を増していく。つまりは喪失の全てが言葉として定着してしまったから、私の思いはそこから出られなくなってしまった。
切り通された崖の下の線路が西に向かって延びていて、それに沿った道を歩くと建物の多い都心でも、西の空だけが開けて見える。冬の気配が色濃くなって空は澄み、黄昏時の金星が放つ光が際立って明るく見える。 まだ地面に近い空は橙色で、上方の紫の空と途中で溶け合って、洒落た色合いのグラデーションを見せている。 目が慣れると他の星も少しずつ見えてくるが、やはり一番明るく美しい金星に目は戻されてしまう。 視認はできないが、惑星なので満ち欠けがあるはずで、今はどんな形をしているのだろうと思う。こ