片側通行

 「もう冬になるよ」
その言葉は重い。いくつかの意味が込められた一言なのは、これまで何度も話をしていたからよく知っている。
 もう冬になるのに、クリスマスはそこまで迫ってきているというのに、私たちは恋人がいないから、寂しいらしい。らしいというのは、私はあんまりそう思っていない気がするからだ。彼女は、冬は余計寂しくなるからといって彼氏を欲しがっていて、マッチングアプリを先日インストールしていた。面白半分で私もインストールしてみたけど、特段面白いこともなく、カテゴリに分けられた画面上の半透明なボックスの中に放っておいている。


 彼氏、か。好きになってくれた人のことを好きになるよりも、好きになった人に好かれたい性分の私には、かなり縁遠い話のような気もする。大学生になってから告白されたこともあったけど、友達でいる方が心地いい気がしている人はいる。私が好きだと言えば彼氏、になってくれるのかもしれないけど、恋人らしいことをしたいとも思えず。恋人らしいこと=特別なのかもしれないけど、異性としての特別なことが欲しいんじゃない。人として、存在として特別に扱われて、特別に思える人が欲しいのだ。扱うというとなんだかものみたいで嫌だなと、今書きながら思った。
 肌同士の接触が欲しいわけではないので、異性とのスキンシップは正直求めていない。恋人同士がするそれもいらない。だから仮に誰かと付き合った時に私はそれを拒んでしまうから、相手がそれをわかってくれる必要がある。このことを相談したら、それをしなくてもいいと思ってくれる相手がいるはずって言われたし恋人だからしなくてはならないものでもない、と言ってもらったことがある。人並みに三大欲求はあるけど、深く関わる人間に自分のいちばんみられたくないところとか、恥ずかしさをあけすけにしていられるような性格ではないので、恋人とそうなりたいとは思わないのだ。でも、付き合いたい=そういうこともしたいなのではないかと思う。大学生の恋とか愛とかなんて性欲を勘違いしたものだろうとも思うし。だから私は彼氏はいらないと思う。恋人と彼氏は帯びているニュアンスが若干違うと思うので、恋人を欲しい気持ちはある。
 今までの恋愛で追いかけられる側になることがなかったので今の状況はなんだか落ち着かない。早く、もう少し自由になってみたいなと思う。

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