1022

 寒い、そう思うのは今年の四月ぶりかもしれない。秋はあっという間に終わってしまって、大好きな秋の装いをできる時期はほんの少しだったことが勿体無くて、せっかく買った薄手のブラウスを一度しか着れなかったことをひどく後悔している。
 君はもうマフラーを首に巻いたりなんかして、暖かそうなコートを身に纏っていた。そんな冬の装いに、季節が巡っていくのを感じた。冷たい風と電車の中の生ぬるさに頭の中をぐらぐらさせながら今日も校舎に辿り着く。三限からの講義に間に合うように正午過ぎに家を出て、今は時計の短針が一を指すくらいだ。一日で一番気温が高くなり始める時間のはずなのに、日差しの暖かさを上書きするような風。首をすくめながら、講義が行われる教室を目指して建物の間を縫った。
 入学して半年以上が経つけれど、教室の場所はなかなか覚えない。次の時間はどの教室だっけ、とiPhoneの時間割をチラリと覗く。C棟の五階、五〇七。ああ、確か暖房の効きが悪かったんだっけ、と思って構内のコンビニに進行方向を変えた。ホットカフェラテ買おうと思い立って、休み時間ギリギリになって若干空いたと思われるコンビニへ。三分程度でそれを購入し、改めて教室へ向かう。
 友人はもう席に座って近くで談笑していた。こちらに気付いて手を振って、隣の席をここだと指差す。「ありがと」と一言の後(のち)にリュックを間の椅子に乗せて先ほど指さされた方の席に座る。ヒヤッとして一瞬顔を顰めてしまったかもしれない。
 今日の教授の話は三分の二覚えているかどうか。古典文学はあまり関心がない分野だったが、聞いていると面白いとは思う。本当にやりたいこととは少し違うけど不満というほどでもないし、楽しいとは思っているので、大学に来てよかったと思う。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?