銀河フェニックス物語 <ハイスクール編> 第九話(1) 早い者勝ちの世界
・<出会い編>第一話からの連載をまとめたマガジン
・<ハイスクール編>マガジン
・<出会い編>第三十一話「恋の嫉妬と仕事の妬み」
大学院生の僕、ジョン・プライアントが、レイターから将軍家の居宅である『月の御屋敷』へ来て欲しい、と招待を受けたのは、ちょうど自分が発表したバローネ理論の論文が専門誌に採用されて、有頂天になっていた頃だった。
僕の論文は宇宙船業界で、ちょっとした話題になっていた。
この理論が現実に応用できれば、燃料が持つエネルギーを効率的に引き出せる。
目の付けどころが素晴らしい、期待の新星あらわれる、と言った感じでどこへ行っても賞賛されていたから、あの頃、僕は自分を見失っていた。
レイターがセントクーリエのハイスクールから転校した後、将軍家に引き取られたことは知っていた。
だから、「バローネ理論について聞きたいから、将軍家の月の御屋敷まで来てくれないか」という誘いをもらった時には、将軍自らが僕のアイデアに興味を持たれたのだろうか、とさらに興奮してしまった。
月の御屋敷は格式あるお城だった。さすがは将軍家だ。迎えの船がやってきて厳重な警戒の中、お屋敷へと近づく。
と、駐機場でレイターが大きく手を振っていた。
「お~い、ジョン・プー、久しぶりぃ」
子どものようなその様子は、全く変わっていない。身長もほとんど伸びてない。
「お疲れになられましたでしょう。お食事の用意ができております」
年輩の女性の案内で大広間へ通された。
大きな机の上に皿が並べられている。
正式な昼餐だ。僕は緊張した。
「なあ、ジョン・プー、俺の部屋で食おうぜ」
「お客様をきちんとお招きするように、ご主人様から言い付かっております」
ご主人様というのは将軍だ。僕はますます緊張した。
「ったく、俺のダチだっつうの」
「お坊っちゃまからは、立派な論文を書かれた先生だと」
僕はあわてた。
お坊ちゃま、というのは高知能民族インタレスの末裔である天才少年のことだ。
「せ、先生だなんてとんでもない。まだ大学院生ですから」
できることなら、こんな大広間ではなくて、レイターの部屋の方が気が楽だ。
「とにかく、フローラが会いたがってるんだ。ここじゃなくて俺の部屋へ運んでくれ」
フローラ? その名前を聞くと女性があきらめたようにつぶやいた。
「お嬢様に変な入れ知恵するから、困っちまうよ」
「フローラって誰だい?」
気になって僕は聞いた。
「俺の彼女さ」
「お嬢様って言ってなかったか?」
「そうだよ、将軍家のお嬢様だ」
「それはまずいんじゃないのかい」
「あん?」
「君がいくら女性が好きだからって」
レイターはセントクーリエの寮にいた頃、年中朝帰りをする問題児だった。
「相思相愛なら文句ねぇだろが」
そう言ってレイターは笑った。
彼の笑い顔は見慣れているけれど、こんなに幸せそうな笑顔は始めて見た。
レイターの部屋に入ると、そこはゴミ箱の中のようだった。寮の部屋もこんな感じだったことを思い出す。
隣の部屋へと続くドアがあった。レイターがあけると花の香りが部屋に舞い込んできた。
「フローラ、プーさんが来たぜ」
奥は少女の部屋のようだ。フリルとレースのベッドカバーがちらりと見えた。
初めて見たフローラは まるでガラス細工の人形のようだった。 (2)へ続く
・<出会い編>第一話からの連載をまとめたマガジン
・イラスト集のマガジン