すべて終わった日1
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③すべて終わった日1
地下鉄から地上へと続く階段の先の光が、眩しくて憎たらしい。
エレベーターを見つけることがこんなにも大変だなんて、知らなかった。
こうも分かりづらいものかね、そう文句を垂れながら駅をさまよう。
やっとの思いで出てきた二ヶ月ぶりの池袋の街は、何も変わっていなかった。
ホットペッパービューティーを開き、お店の場所を確認する。
「えっと、こっちやね!」
私はドヤ顔でそう言うものの、腕を組んで支えてくれているのは田舎から急遽飛び出してきた母の方だ。
美容院の入り口はまたしても階段だった。
母と私は目を見合わせて苦笑いした。
お店の入り口までついてこようとした母に、「大丈夫、ひとりでのぼれる」と告げた。
子どもみたいだな、とおもった。
ひとりでできるもん、よく観たなぁ。
私は階段をゆっくりゆっくり、手すりを押さえながらのぼった。
ようやく一番上までのぼりきったところで振り返ると、母はまだ私を見守っていた。
母に手を振ると、ワンピースの裾も揺れていた。
かばんにぶら下がっていたヘルプマークをこっそりとしまった。
まだまだふつうの女の子に見られたかった。
鏡をまじまじと見るのはいつぶりだろう。
お気に入りの青と白のストライプの服から出ている顔は、すっかり痩せたけど幸薄そうな感じはしない。
「今日はどうされたいですか?」
「髪を染めたくて。清潔感はありながらも、少し明るい感じに…」
これから彼のママに会うんで、なんて言うのは浮かれぽんちなので黙っていたが、顔は綻んでいたとおもう。
仕上げに髪も巻いてもらって、ご機嫌にお店を出た。
「終わったよー」
母に連絡を入れて、ヘルプマークを再び鞄から出して、またゆっくりと階段を降りる。
近くの喫茶店から飛び出してきた母の顔が、パァァっと明るくなった。
「いいやーん!きれいきれい!見違えた!よかったわぁ。これで安心して行けるねぇ」
私は笑って頷いて、また母と腕を組み、西武に向かった。
「本当に大丈夫?終わるまでお母さん、近くで待ちよこうか?」
「かまんかまん。大丈夫、帰れるき。
それより、うちまで一人で帰れる?有楽町線か副都心線ね!メトロね!」
今度は、はいはいと母が呆れたように笑って、去って行った。
彼と彼のお母さんとの食事会は、大好きなラベットラオチアイにした。
トイレの鏡で汗を拭き、最終チェックをする。
エレベーターで階数表を見上げると目眩がした。まだまだ病み上がりだ。
でも、彼のお母さんが、会いたい、お見舞いに行きたいと言ってくれていたのだ。
今は大変だからと彼が断ってくれて、延期にしていた。
心配してくれていたようだし、元気になった姿を見せないと、そうおもっていた。
来慣れたお店が、緊張のせいか少し違って見えた。でもこの時の私は、まだワクワクの気持ちの方が強かった。
喜んでもらえるなんて期待なんてしちゃって、本当に馬鹿だった。
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今日はひなまつり。
お雛様を早く片付けないと婚期が遅れるというよね。
そのせいでこうなったのかしら?
来世は即片付けよう!