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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
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202403鑑賞ログ

 3月の鑑賞ログ。Filmarksはこちらから。
 タイトルの後ろの数字は製作年。ネタバレ含むので見たくない人は気をつけてね。
 記事内で用いている画像やあらすじは全部引用です。なにか問題などありましたらご指摘ください。
 下記目次を見ると一目瞭然なのですが、3月、なんか結局想定よりたくさん映画を観てました。楽しかったです。
 項目数が項目数なので、気になるものだけピックアップするなどして見てもらえたら。
 あと今回ちょっと怖めの画像が含まれてるので、スクロールの際にビックリしたらごめんね。気をつけて。




3月のベスト

 すごい悩んだ! 3月はもー見ての通り良い作品ばっかり観ちゃったからもうほんとすっっっごい悩んだんだけど、やっぱり3月は……ラストエンペラーがいっっっっっちばん面白かったです!!!!!
 いや、本当~~~~にスクリーンで観れて超良かったです。素晴らしい。面白い。美しい。最高。リバイバル上映本当にありがとうございました。坂本龍一の冥福を祈るばかり。天は坂本龍一のその死後もヒトが彼に足を向けて眠らないよう惑星に重力を与え給うたらしいです。


アメリカン・フィクション(2023)

侮辱的な表現に頼る“黒人のエンタメ”から利益を得ている世間の風潮にうんざりし、不満を覚えていた小説家が、自分で奇抜な“黒人の本”を書いたことで、自身が軽蔑している偽善の核心に迫ることになる。

アマプラ

 まずは2024年度? でいいのか? 米アカデミー脚色賞獲得おめでとうございます!
 こちらはオスカー受賞以前から、キャッチーなあらすじが何回かインターネットで話題になっていましたね。実際公式で用意されているあらすじより、オタクの紹介の仕方のほうがわかりやすくて面白い。実際私もそれに釣られて見たクチです。
 大体インターネットだと「インテリ家系(家族全員士業!)に生まれたエリートの黒人が自分の書きたい文学的な作品を書くも全然売れず評価もされず、それならといかにも黒人っぽいラップ! ドラッグ! 暴力! みたいな方向性のノンフィクション(大嘘)を皮肉って書いたところ、出版社にも世間にもバカウケしてしまい大困惑」みたいな紹介の仕方をされており、実際おおよそ合っている。
 おおよそ合ってはいるんだけど、実際はそんなコメディ全振りというわけでもなく、作品全体のテンションとしてはもう少し低めな感じ。話にエンジンが掛かるまでが遅く、それまではそこそこに重いし、コメディっぽい部分がやっと始まったかと思えばその後もちょくちょく重めの展開が挟まれる。
 あんまりコメディを期待すると肩透かしかもなので、そのへんのハードルは下げておいたほうがより楽しめるんじゃないかな。たぶん制作側としても一番見て欲しいのはそこではないのかなーという作りになっている印象を受けました。
 内容が内容なので、もちろんというべきかブラックジョークが多用されるほか、何層にも渡ってメタ的な構造になっています。それが面白くもあり、「多様性やマイノリティをマジョリティのためのわかりやすい食い物にしてはいないか」という問いかけのようでもあり。
 作中の「(歴史的事実に基づく)白人の罪悪感を慰めるための黒人の物語が結局白人に一番ウケる」みたいな話が結構身につまされる思いでした。
 でもこの作品がちゃんとオスカーでも評価されたのは素直に良かったですね。いや、その事実すら皮肉めいているのかもしれないが。


MAMA(2013)

精神を病んだジェフリーは、妻と2人の共同経営者を殺害。さらに、森の小屋で幼い2人の娘まで手にかけようとするが、そこに潜む何者かに彼自身が消されてしまう。5年後、姉妹を発見したジェフリーの弟・ルーカスは、恋人・アナベルと4人で暮らし始めるが……。

アマプラ

 パシフィック・リムやパンズ・ラビリンスなどで知られるギレルモ・デル・トロ監督が製作総指揮を担ったホラー作品。
 私はパンズ・ラビリンスがとっても大好きで、これもいつか見よう見ようと思ってはなんとなく見ないままだった日にようやっとピリオドが打てました。
 まあホラー映画としては佳作……くらいの出来ですかね……? めちゃくちゃ超良い!! ってわけではないんですが、確かな満足感はある感じ。パンズ・ラビリンスみたいなダークファンタジーとは結構違います。
 基本的に画面がそもそも暗いので怖さ自体はそんなにないんですが、随所のホラー演出がしっかり不気味。「そこに誰もいるはずがないのに、確実に何かがいる」という静のホラー描写が巧みで好きでした。ママの顔が映らないのが良い。ホラー映画あるある・キッズの描く不穏な家族の絵など、嬉しい要素もきっちり抑えられてます。
 ママって呼ばれるの嫌いなロック系のイケイケ美人が引き取った娘たちと絆を育んでいく様子や、姪たちをかなりちゃんと愛しているはずなのに母性がテーマのひとつだからか可哀想なくらい肝心なところで役に立たない存在と化している叔父などキャラクターたちの関係性の描写も丁寧。
 わりとダイレクトに幽霊の出てくる作品なんですが、オチ含めデル・トロ監督らしくいろいろと考える余地や要素のあるタイプの作品。


女王陛下のお気に入り(2018)

18世紀初頭、フランスとの戦争状態にあるイングランド。人々は、アヒルレースとパイナップル食に熱中していた。 虚弱な女王、アン(オリヴィア・コールマン)が王位にあり、彼女の幼馴染、レディ・サラ(レイチェル・ワイズ)が病身で気まぐれな女王の世話をし、絶大な権力を振るっていた。 そんな中、新しい召使いアビゲイル(エマ・ストーン)が参内し、その魅力がレディ・サラを引きつける。レディ・サラはアビゲイルを支配下に置くが、一方でアビゲイルは再び貴族の地位に返り咲く機会を伺っていた。 戦争の継続をめぐる政治的駆け引きが長びく中、アビゲイルは女王の近臣としてサラに救いの手を差し伸べる。急速に育まれるサラとの友情がアビゲイルにチャンスをもたらすが、その行く手には数々の試練が待ち受けていた。

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 「哀れなるものたち」が良かったのでその流れで。ヨルゴス監督とエマ・ストーンのタッグです。といってもエマ・ストーンは「哀れなるものたち」ほど制作それ自体には噛んでないのかな?
 序盤からこれは確かに「哀れなるものたち」を撮った監督の作品だ……! というエッセンスがどばどばで良かったです。やっぱり逐一画面がでセンス良くって洒脱で気持ち良いんだなあ。
 シーンを区切り、印象的な台詞の章題めいたものを付けるあの演出、わかりやすさとお洒落さを兼ねていてお得。
 多分に毒と官能を含んだ作品なんですが、見ていて食傷しない彩り方が上手いというか。なんだろう。やっぱり演出のセンスがずば抜けてるんだろうな。
 豪奢な背景美術を舞台にした下劣な会話劇や人間関係も、「哀れなるものたち」で一度見たものなんですが、やはり17世紀英国の宮廷における人間ドラマなので泥沼っぷりがものすごい。
 見るからにお金と手間を掛けてきっちり整えられた美術の中で、美しく着飾った女たち(とたまに男)が権力者からの寵愛を競い合うドロドロを楽しみたい人向けかも。あとこの人娼館を可愛く撮るのやたら上手い……。
 最高権力者であるアン女王が最後まで一番強い(決定権を握っている)のが良かったですね。あの不穏なオチも好きでした。
 個人的には「哀れなるものたち」のほうがストーリーが好みかつより洗練された印象があって好きでしたが、これはこれで面白かったです。


ファンタスティック・プラネット(1973)

舞台は地球ではないどこかの惑星。真っ青な肌に赤い目をした巨人ドラーグ族と、彼らに虫けらのように虐げられる人類オム族が住んでいる。ある日、ドラーグ人の知事の娘ティバは、ドラーグ人の子どもたちにいじめられ母を亡くしたオム族の赤ん坊を拾い、テールと名付けペットとして飼うことになる――。
巨人ドラーグ族と人類オム族の種の存続をかけた決死の闘いを描く。

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 怖い画像はこれです。ビックリした人いたらすみません。
 YouTubeでの期間限定無料公開が話題になっていたので視聴。いうても結局アマプラで見ちゃったのですが。
 キービジュアルからわかる通りのインパクトあるホラーめいたビジュアルや、序盤の展開等々から家畜人ヤプー的なものを連想していたんですが、意外と真っ当に生存を懸けてその惑星の上位種VS下位種が戦う話でした。結構違った。
 作中に散らばるさまざまな要素を見ると「ピクミン開発チームがみんなで見て参考にした」というエピソードにも納得があります。
 序盤は結構展開がゆるやかなんですが、主人公であるテールが飼い主の少女ティバから逃げ出したあたりから展開が加速して面白くなっていきます。
 人類が一人のドラーグ人の殺害に成功するんですが、そのあたりだとまだ「あんな下等な生き物と和平なんて冗談じゃない、徹底駆除に尽きる」という論調が強く、まだプライドと下等種という見下しの意識がかなりあるんですが、そのパワーバランスがどんどん逆転していく様子とドラーグ人の秘密が暴かれるあたりがめちゃくちゃ見応えあって良かったです。面白かった。


ラストエンペラー(1987)

1950年、太平洋戦争の終結と満州国の崩壊により、共産主義国家として誕生した中華人民共和国の都市、ハルピン。ソ連での拘留を解かれた中国人戦犯でごった返す駅の中に、ひとり列から離れ、自殺を試みようとする男の姿があった。彼こそは、清朝最後の皇帝、溥儀……。 薄れゆく意識の中で、彼の脳裡には様々な過去が蘇る――僅か三歳での即位。紫禁城での退屈な日々と、英国人教師に教えられた西洋文明。しかし、平穏な日々はいつまでも続かず、歴史の波は猛然と彼に押し寄せる。クーデターによる失脚、南京大虐殺、終戦、そして文化大革命……。
清朝最後の皇帝の波乱に満ちた生涯を、世界初となる紫禁城ロケとともに壮大なスケールで綴った空前絶後の歴史大作。

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 あ~~~~~もう最高。大好き。すでに今年ベスト入り確定。素晴らしい、それ以上の言葉が出てこないことがこんなに悔しい。
 坂本龍一の手がけた音楽が終始この世界をリードしていくんですが、その旋律の美しいこと。いつまでもうっとりしていられる。
 本作の鑑賞を私はかなり楽しみにしていたのでそこそこ予習していったんですが、していって良かったです! もちろん予習せずともある程度は楽しめるんじゃないかと思うんですが、ああこれ辛亥革命の話だなあとかなんの説明もないけどこの人袁世凱なんだろうなとか、そういうのが分かるのが楽しい。(学問の対象としての)近現代中国史には苦手意識があったんですが、改めてものすごく勉強したくもなりました! 今の中国とも繋がってきている部分の話でもあるので……。
 西欧人が初めて描く近現代中国史ということで、まあ初っ端中国人であるはずの彼らの操る言語が当然のように英語であることに面喰らったりもするんですが、慣れます。ラストエンペラーこと清朝最後の皇帝たる溥儀の顔立ちに見るからに西洋の血が入ってることにも、慣れます(かっこいいので)。
 西欧人ならでは、ということでもないんでしょうが、日本人として育った我々には消極的にしか教えられてこなかった(そして日本政府は今もなお一部認めていない)事柄がきっちり描かれていたのもかなり印象深かったです。このへんは思想の話にもなってくるので(我々に教育を施しているのは日本ですしね)、ちょっと好き嫌いが分かれるかも。実際ラストエンペラーが地上波でほぼ放送されないのは、上映時間以外にこのへんの事情もあるんでしょう。でも西欧人の監督が描く中国に対する日本の行い、その罪を見ることができるのは、非常に意義深いんじゃないでしょうか。

 こういう人にはどうしようもない、抗いようのない歴史の潮流みたいなものに流され巻き込まれ、その中で必死にもがいたり、野心を抱いて波を制御しようと足掻いたりする人間たちの話がものすごく好きです。
 史実が先にあって、そこに実際の人間ドラマやキャラクターを配置していく恍惚と背徳。後世にしか許されないとびきりの贅沢です。ラストエンペラーはそういうものが全部あって……本当に好きだ……。
 ロケに実際の紫禁城が使われているんですが、そのあまりの眩さに絢爛さ、ここで紡がれてきた歴史を想像するだけで圧倒されてしまう。それなのに実際にここでその一端を再現しているんだから堪らないです。
 そして煌びやかな紫禁城や迎賓館での華々しくもあり重苦しくもある過去に対し、戦犯として収容され、罪の告白と思想の再教育を強いられる溥儀の現在。
 時間軸を頻繁に行き来するのにわかりづらさをまるで感じさせないこの構成は、過去と現在があまりに対照的であり対比的だからでしょう。
 龍から人間になった溥儀の、数奇な人生を描くこの作品のラストの流れのあの、物悲しさ、美しさ、確かにそこにあったもの。泣いてしまいたくなるようなことなどなにも起きてはいないのに、空の玉座の壮大さと儚さに、勝手に涙がこぼれてくる。
 本当に、素晴らしい傑作でした。


グレイテスト・ショーマン(2017)

主人公のP.T.バーナムは<ショービジネス>の概念を生み出した男。誰もが“オンリーワンになれる場所”をエンターテインメントの世界に作り出し、人々の人生を勇気と希望で照らした実在の人物だ。そんなバーナムを支えたのは、どんな時も彼の味方であり続けた幼なじみの妻チャリティ。彼女の愛を心の糧に、仲間たちの友情を原動力に、バ ーナムはショーの成功に向かって、ひたむきに歩む。

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 こんなんそりゃTOHO日比谷が一生上映してるわけだよ!!!!!
 ずっと気になっていたんですが、都内のミニシアターで何故かリバイバル上映していたのでこれ幸いと駆け込んだ一作。や~映画館で観て良かった!
 なんだろう……登場人物……というか主人公であるバーナムには結構……結構問題があるし、物語上の扱いや描き方としてそれはどうなの……みたいな部分がかなりあるんですが、もー兎にも角にも音楽がめっちゃくちゃ良い!! ので、まあ……いっか! という気持ちにさせられてしまう。魔法を掛けるのが上手すぎる。
 音楽やダンスのクオリティももちろんなんですが、何よりもハッピーエンドであることがこちらの心を掴んでくるんですよね。これそのうち軋轢や何かしら不都合な展開が発生するんだろうな……という伏線をしっかり回収するんですが、わかっていた上でしっかり苦しくなるしカタルシスとして昇華されるとすっごい気持ち良くなる。
 
ハッピーエンドの牽引力、あるいは強制力とでもいうべきなのか……収まるべきところに物語が収まる喜び……そういうものがものすごくあります。いやよく考えなくても別に全然全員ハッピーオールオッケー! にはなってないはずなんですが、なんか……誤魔化されちゃう。
 グレイテスト・ショーマンを楽しむ才能がありすぎるせいで開幕10分くらいでもう泣いてたしA Million Dreamsが流れて1分くらいでまた泣いていた。終劇後も全然立ち上がって拍手したかった。
 ミュージカルが好きな人はまず間違いなく観て損はしない作品でした。音響に力入れてる劇場で観てみたかったなあ~~~~。


セッション(2014)

世界的ジャズ・ドラマーを目指し、名門音楽学校に入学したアンドリューを待っていたのは、伝説の鬼教師。常人に理解できない完璧を求め、浴びせられる容赦ない罵声。やがてレッスンは狂気を帯び、加速の一途を辿る――。

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 これ2014年製作なのマジ?????
 某サッカー漫画の、未成年選手を指導する立場にいるヤベー大人の好きな映画として設定されており前から気になっていたところリバイバル上映されていたので鑑賞。
 いや……2010年代でも相当ギリギリでしょうねこれいくらなんでも!! 今はもう無理だろさすがに……。ハズビンホテルを繰り返し視聴していたおかげでFワードだけはリスニング精度上がってるんですが、なんかマジで百連発くらいしてた気がする。これをグレイテスト・ショーマンの次に観るのもう音楽の力でしっちゃかめっちゃかだよ!!
 グレイテスト・ショーマンがハッピーエンドへの凄まじい強制力を有していたとすれば、こちらは狂気で以て音楽の絶頂に至ろうとするような……間違いなく観客のためには奏でられていない鬼気迫る音楽が、終わってるコンプラや倫理観を何か純度の高いものに錯覚させてくる。ただただ終わってるだけなのに。せせこましいやり取りを音楽で叩き伏せ、演奏の瞬間だけは同じものを目指して高め合うあの瞬間の気持ち良さ。音楽がかっこよすぎる。
 フレッチャーはマジで音楽以外尊敬するところが何一つなくて清々しかったです。これも映画館で観られて良かったな。
 あんま関係ないんですが、恵比寿で観たところ帰り際にBLUE NOTE PLACEとかいうお店からジャズが聞こえてきて嬉しかったです。


関心領域(2023)

空は青く、誰もが笑顔で、子供たちの楽しげな声が聴こえてくる。そして、窓から見える壁の向こうでは大きな建物から黒い煙があがっている。時は 1945年、アウシュビッツ収容所の所長ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)とその妻ヘドウィグ(ザンドラ・ヒュラー)ら家族は、収容所の隣で幸せに暮らしていた。スクリーンに映し出されるのは、どこにでもある穏やかな日常。しかし、壁ひとつ隔てたアウシュビッツ収容所の存在が、音、建物からあがる煙、家族の交わす何気ない会話や視線、そして気配から着実に伝わってくる。
壁を隔てたふたつの世界にどんな違いがあるのか? 平和に暮らす家族と彼らにはどんな違いがあるのか? そして、あなたと彼らとの違いは?

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 関心領域についてはまあ、別途記事を書いたのでそちらを参照してもらえればと思うのですが。
 今でもこの作品のことを思い出すと、怖くて泣いてしまいます。
 怖い。怖いし、この作品を観た後、しばらくショックで映画を観られませんでした。
 ただ、今でも考えることをやめてはいません。いろんなことを考え続けています。このへんについてはまた別に記事を書くつもり。
 人には人の事情がありますし、万人におすすめとは言い難いのですが、やはりたくさんの人にこの映画が観てもらえたら良いなと思います。公開は5/24。
 鑑賞の際は、ぜひ劇場で。


Firebird ファイアバード(2021)

1970年代後期、ソ連占領下のエストニア。モスクワで役者になることを夢見る若き二等兵セルゲイ(トム・プライヤー)は、間もなく兵役を終える日を迎えようとしていた。そんなある日、パイロット将校のロマン(オレグ・ザゴロドニー)が、セルゲイと同じ基地に配属されてくる。セルゲイは、ロマンの毅然としていて謎めいた雰囲気に一瞬で心奪われる。ロマンも、セルゲイと目が合ったその瞬間から、体に閃光が走るのを感じていた。写真という共通の趣味を持つ二人の友情が、愛へと変わるのに多くの時間を必要としなかった。しかし当時のソビエトでは同性愛はタブーで、発覚すれば厳罰に処された。一方、同僚の女性将校ルイーザ (ダイアナ・ポザルスカヤ)もまた、ロマンに思いを寄せていた。そんな折、セルゲイとロマンの関係を怪しむクズネツォフ大佐は、二人の身辺調査を始めるのだった。

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 こちらはエストニアのとある回想録を映画化した作品です。
 さて、エストニアでは今年の頭、同性婚が法制化されました。世界で35か国目だそう。旧ソ連・東欧圏としては2番目(東欧トップバッターはスロベニア)で、旧ソ連構成国としては初の快挙です。
 エストニアでの同性婚法制化の流れの原動力となり、社会を後押ししたと言われているのがこの作品で、エストニアでは国内全ての映画館で上映されるくらいの大ヒットを成し遂げたそうな。
 まあ話の内容自体としては……既婚者の不倫が含まれるので……私としては、正直好きなタイプのお話ではなかったです。純粋なエンタメとしてはおすすめしないかな……。私は「君の名前で僕を呼んで」もあんまり好きではないんですけど、改めてあの作品ってなんだかんだ架空の物語として美しく整えられていたことを実感しましたね。
 ただこれは実話ベースで作られた作品で、事実この頃同性愛は明確な処罰対象であり犯罪行為に値するとされていたことを考えると、彼らの行動にも一定の理解は示せてしまうというか……。
 この映画は、先述した通り同性婚法制化を後押ししたと言われている作品なのですが、内容としては政治的ではなく、基本的にずっとラブストーリーです。原作者であるセルゲイさんから「愛についての映画を作ってください」との要望があったとのことで、本当に、作中でも政治的だったり戦争だったりの話は特別ないです。
 だからこそ、この映画がエストニアでヒットしたことに意義を感じるというか。
 この映画がどういう地域で公開されどういうふうに評価を得、どういう流れの一助となったのかを考えると、映画の持つ力のようなものを実感できる作品でした。
 関心領域のあとにこういう作品を観られたことは、幸いだったと思っています。
 監督・キャストのインタビュー及び同性婚法制化が議会で可決された際のニュース記事のリンクを貼っておきますので、興味のある方はご一読ください。


キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン(2023)

地元の有力者である叔父のウィリアム・ヘイル(ロバート・デ・ニーロ)を頼ってオクラホマへと移り住んだアーネスト・バークハート(レオナルド・ディカプリオ)。アーネストはそこで暮らす先住民族・オセージ族の女性、モリー・カイル(リリー・グラッドストーン)と恋に落ち夫婦となるが、2人の周囲で不可解な連続殺人事件が起き始める。町が混乱と暴力に包まれる中、ワシントン D.C.から派遣された捜査官が捜査に乗り出すが、この事件の裏には驚愕の真実が隠されていたーー。

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 もうマジでめちゃくちゃめちゃくちゃめちゃくちゃ面白かったよ~~~~~!!!!!
 これ……これがアカデミー無冠!? ありえない話し!!!!!!
 3月のベストはラストエンペラーとこれでかなり悩んでました。贅沢な苦悩!
 米アカデミー賞ノミネートを記念した凱旋上映が期間限定で行われていたのでこれまた滑り込みで観に行ってたんですが、もうほんと間に合って良かったです。早く主要サブスクにも降りてこい!!!
 上映時間206分という結構覚悟を求められる長尺なんですが、これがまあ~~~中弛みが一切ない。見事に手綱を握りきっており、無駄なシーンなど何一つなく完成されていました。
 この作品は何章かに分かれており、話の内容も「1920年代のアメリカはオクラホマ、白人たちによって辺境へ辺境へと追いやられた先住民(オセージ族)たちがその先で石油を発掘し、莫大な富を得る」「オセージ族と婚姻を結びその財産を奪い取とろうと画策する白人連中」「豊かなオセージ族ばかりが狙われる不可解な連続殺人、しかしなぜか殺人としては処理されずに時だけが進んでいく」……と、結構複雑な背景や各々の事情のもと話が進んでいくんですが、この構成が巧みなのかエピソードの繋ぎ方や見せ方が上手いのか、観ていて突っかかるところが無い。話の流れをごくスムーズに理解できる。なんで???? どういう組み立て方と撮り方すればこの複雑な内容をあんなにわかりやすく映すことができるんだ??? 魔法????? 仕組みはまじで全然わかんないんですが、なぜかわかりやすい。すごい。
 1920年代はまだKKK(世界史でやりましたね~!)がバリバリ活動中だったり、FBIが結成されたばかりだったりと、そのへんも観ていて面白い部分です。フーヴァー出てくるのもアツい。
 20年前だったら我々は義和団のように立ち上がっていた! みたいな台詞も年代を感じて良かったですねえ。ほんの20年前が西太后の時代の話……!
 特に作中で印象深かったのは、genocide(虐殺)という言葉が作中で用いられていた点です。genocideというのは第二次世界大戦後の1945年以降、当時名前の無い犯罪と称された、ナチスによるユダヤ人の大量虐殺のような行い(即ち特定の集団に対する破壊行為)を指すために作られた言葉です。つまり、作中の時代には存在しないはずの言葉なんですよね。
 だからこの単語は間違いなく明確な意図で以て使われている言葉で、昨今の世界情勢に対するメッセージでもあるのかなーとか考えながら観ていたんですが……ここの部分にフックを残しておいての回収の仕方がまーーーーー上手い……! もちろん私が考えていたようなメッセージ性も有してないこたないと思うんですが、きっちりエンタメとしても利用する、うーーーん脚本の妙技……。
 白人がかつて犯した罪を扱った作品として、とても誠実に作られている点も素晴らしかったです。描写に妙な偏りや言い訳がない……というか、きちんと向き合って作ろうとしたその誠実さが、終始大きな軸としてこの映画を貫いている。
 こいつどう見ても黒幕やろみたいなロバート・デ・ニーロでウケます。「役柄にマジで共感できず何考えてるか全然わかんなかったのでトランプだと思って演じることにした」とかいうエピソードまで面白すぎる。
 あとレオナルド・ディカプリオ演技上手すぎる。この人たち、というか作中の白人どものやってることってものすごく悍ましいんですが、レオナルド・ディカプリオ演じるアーネストはどこまでもそのへんにいそうな精神性の人間というか。いや遵法精神とかは最初からあんまなさそうなんですけど、道を踏み外してる自覚が同じくらい薄そうなんですよね。そこが悲しいし、恐ろしい。私たちと彼との境目に明確なものなどなく、結局はグラデーションでしかなさそうで。
 また、惜しくもオスカー受賞を逃してしまいましたが、もちろんリリー・グラッドストーンの演技も凄まじいです! 知性を瞳に宿らせた穏やかさから、疑念を深めていく様子、今にも命の灯火が燃え尽きてしまいそうなその瞬間まで完全に演じ切ってました。綺麗だった……。
 え!?? こ……こんなに誠実で面白い作品が……オスカー無冠??!!?!??


タクシードライバー(1976)

タクシードライバーとして働く帰還兵のトラビス。戦争で心に深い傷を負った彼は次第に孤独な人間へと変貌していく。汚れきった都会、ひとりの女への叶わぬ想い――そんな日々のフラストレーションが14歳の売春婦との出逢いをきっかけに、トラビスを過激な行動へと駆り立てる!!

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 キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンが面白かったので、ちょうど上映していたスコセッシ監督作品を鑑賞。
 これもセッション同様サッカー漫画でキャラクターの好きな映画として設定されていたのでちょっと気になっていた……のですが……うーん。
 今作は打って変わって、この作品が何をどう伝えたいのかがよくわからなかったですね。音楽と映像はばっちりかっこよかったのですが……製作年代や、この頃のアメリカ映画のトレンドとかを私が理解しきれていないのもたぶん良くない。中盤まで結構展開も平坦な感じなので、ちょっとうつらうつらしてしまった。
 14歳の娼婦の存在に怒りを覚えるトラビスの感性や正義感それ自体は決して間違っていないはずなのに、そのフラストレーションの発露はどんどん狂気的な方向に走っていく。
 そして彼の狂気が最高潮に達したときに引き起こされた事態とその結末を、世間は英雄的に捉えトラビスを称賛するのですが、私にはあまりそうは思えなかったし、作品としてもそう映しているようには思えない。
 まだちょっと私には難しかったです。


狼たちの午後(1975)

うだるような暑さのブルックリンの午後。無計画な2人の男、ソニーとサルが銀行を襲った。予想外の事態が重なり、追い詰められた2人は人質を取って籠城。警官隊、熱狂する群衆、騒ぎ立てるマスコミらが取り囲むなか、事態は限りなくエスカレートしていく。

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 タクシードライバーを観た劇場で2本立て上映をしていたので鑑賞。
 ゴッドファーザーでマイケル・コルレオーネを演じたアル・パチーノが主演。
 これを観たときはまだゴッドファーザー未見だったのですが、今思い返すとアル・パチーノの演技の幅マジでものすごいな。
 正直このタイトルとキービジュアル? からは想像できないくらい前半はコメディ全振りでかなり笑いました。持ってきた銃を人質に貸して遊ばせてやる銀行強盗ってなんなんだよ。
 計画性の一切が欠落しているガバガバ銀行強盗にストックホルム症候群が加わり、おまけに警察も市民から嫌われているのでもう何もかもがめちゃくちゃ。
 一通りのコメディを描き切り、彼らの為人に好感度を与え終えたあたりからアル・パチーノ演じるソニーのパーソナルな部分の描写に移行していき、次第に緊張感や、人質の疲弊していく様子が映されていく。
 あんなに笑っていたのが嘘のようにあっけない幕引き。
 アル・パチーノのファンは見ておいてもいいかも。


十二人の怒れる男(1957)

18歳の少年が起こした殺人事件に関する陪審員の審議が始まった。誰が見ても彼の有罪は決定的であったが、一人の陪審員は無罪を主張。そして物語は思わぬ展開に!

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 マジで男が12人出てくるし12人とも(程度に差はあれど)怒っている。
 上映時間は95分、その時間はほぼ全て部屋の中で会話しているだけの映画なんですが、12人それぞれの顔や個性はしっかり覚えられるししっかり面白い。会話劇だけでここまで面白くできるんだと感動しました。
 もちろん全員良い人とかではないんですが、みんな良くも悪くも人間味があって良い。
 個人的に「ダンサー・イン・ザ・ダーク」の終盤の流れがかなりものすごく本当に相当好きじゃないんですが、あの映画でくさくさした当時の自分の心が救われたような気もして、嬉しかったです。


エリザベス(1998)

16世紀、イングランドでは旧教と新教が争っていた。女王・メアリーは新教を弾圧し、新教派のエリザベスを投獄。やがて、メアリーは他界し、エリザベスが女王に。彼女は、国を新教に統一することを決定するが、これに怒ったローマ法王は刺客を差し向ける。

アマプラ

 なんか歴史ものの作品が見たくなって。
 個人的には……そんなでした。
  女版ゴッドファーザーとか評されているらしいんですが、うーんそっか……そうなるとやっぱりゴッドファーザーって無二の名作なんだね……という気持ちになった。
 なんか全体的に説明が無いし、わかりづらい。こちらの知識の無さにも問題はあるのだろうが、前提知識があったとてこれをちゃんと楽しめたかは疑問。
 なんかただでさえわかりづらい上にわかりやすいカタルシスも特段ないので楽しみづらいんですよね。
 この作品はエリザベス1世が即位し、女王としての立場を確立させていくまでを描いていくわけですが、彼女の全盛期を描いているわけではないので、歴史的な見せ場があまりないのもある。
 あらすじ通りローマ法王から刺客を差し向けられたりもするわけですが、この頃の教会ってもう全盛期ほどの力もないわけで、ひっそり出てきて特に何を成し遂げるでもなくそっとフェードアウトして終わる。なんなんだよ! ここもろくに説明ねえし!
 スコットランド女王であるメアリー・ステュアートの扱い方もあんま好きじゃなかったです。ていうか……メアリーのことをエリザベスが苦悩しつつも処刑するのが良いんだろ! 処刑しろよ! なに勝手に死んでんだよこいつ!
 衣装や美術・ヘアメイクに撮影ロケーションはさすがに良かったです。あと明らかにスペインをバカにしてる茶番をスペイン人の前で披露するくだりとか。アルマダの海戦のカスの布石。


デジレ(1937)

忠実で優秀な召使のデジレは郵政大臣の恋人オデットに仕えることになるが、毎晩のように女主人の夢を見るようになる。実はオデットも同じ夢を見ていて……。軽快なコメディでありながら、自分が仕える女主人を愛してしまうデジレの姿を通して、女性を装飾品のように扱う男性上位社会を糾弾する作品でもある。

シネマヴェーラ渋谷での紹介

 タイトルの表示の仕方や音楽・演出がずっとお洒落で可愛い作品。
 最初に監督であるギトリが出てきて、キャストや見どころを教えてくれる。可愛い。
 当時のフランスにおける富裕層の生活様式が窺えるのも興味深い。
 ただ今やったら怒られるだろうな、という差別的なユーモアが随所に見受けられた。
 内容としてはそこまでオチに悲哀を感じず、普通にくすりとしてしまった。それはまあそうなるだろとしか思えず……。
 フランス版春琴抄……というには女側の毒や高慢があまりに足りていないのだが、そういった空気もあり面白い。


王冠の真珠 Les Perles de la couronne(1937)

16世紀から現在まで、7カ国を股にかけて持ち主を次々と変えていく真珠たちの「数奇な運命」が、フランスの歴史家、英王室副官、ローマ法王庁の侍従ら三人によって語られていく。ギトリの初の歴史もので公開時記録的ロングランとなった。

シネマヴェーラ渋谷での紹介

 いわゆるコ・イ・ヌールやホープダイヤモンドのような呪われた宝石ではないが、それらの宝石のように所有者を変え海を越え国を渡り歩いた真珠の歴史が、三人の人物によって語られていく。
 16世紀の英国・フランスにイタリア、果ては架空の国まで出てくるのだが、出てくる人物がいちいち有名どころなので見ていて楽しいです。
 カトリーヌ・ド・メディシス、ヘンリー8世、アン・ブーリン、ナポレオン、ジョセフィーヌと、輝かしいばかりのメンツが揃い踏み。
 また、それぞれの扱いからギトリ……というか当時の裕福な既婚白人男性の色眼鏡も見えてくる。ナポレオンがなんかシュッとしたイケメンになっているのは序の口として、架空の国の黒人の扱いがすごい……すごかった。すごいや! もちろん黄色人種の扱いはほぼ透明人間。当時の有色人種の扱いなんてこんなもんだよな~! という乾いた絶望を感じられます。
 真珠の今までの軌跡を辿るまでの話はそれなりに面白く見られたのだが、後半の残り三つの真珠の行方は? というパートになってくると少し話がダレてくる。テンポの問題なのかな?
 ただ副詞のみで会話をするパートなど妙に光るコメディ部分は健在で、オチとその表現のチープさは好き。


裁かるゝジャンヌ(1928)

ジャンヌ・ダルクは百年戦争で祖国オルレアンの地を解放に導くが、敵国イングランドで異端審問を受け司教からひどい尋問を受ける。心身ともに衰弱し一度は屈しそうになるが、神への信仰を貫き自ら火刑に処される道を選び処刑台へと向かっていく。
実際の裁判の記録をもとに脚本化、“人間”ジャンヌ・ダルクを映し出した無声映画の金字塔的作品。

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 初めて通しで観たサイレント映画。
 すみません音声が当たり前の作品に慣れてる身からすると……結構キツかったです!! 何回寝落ちしそうになったか知れない。でもちゃんと面白かった。本当です!
 実際の裁判の記録をもとに製作されたものだけあり、かなりジャンヌの神秘性のようなものが削ぎ落とされた作品。だからこそその魂の高潔さに胸を打たれる。
 ジャンヌの表情や涙から、気圧されそうになるくらいの感情が伝わってくる。蛆の這う髑髏を見つめるジャンヌの貌の壮絶さ。
 100年近く前にこんな作品が撮られていたことに言い知れない感動を覚えました。


海の上のピアニスト(1998)

大西洋を巡る豪華客船の中で、生後間もない赤ん坊が見つかった。彼の名は1900=ナインティーン・ハンドレッド。世紀の変わり目を告げる1900年に因んで名付けられた。彼は船内のダンスホールでピアノを演奏し、類稀な即興曲を次々と作り出していった。そんなある日、彼は船内で出会った美しい少女に心を奪われてしまう。彼女が船を去った後、断ち切れない彼女への想いから人生で初めて船を下りることを決心する……。

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 午前十時の映画祭で上映されており鑑賞。
 死ぬほど合わなかったです!!!!! ごめん!!!!!
 申し訳ないけど嫌いな作品がひとつ増えてしまったな……と鑑賞後かなり落胆しました。午前十時の映画祭に選ばれるくらいの作品なんだから当然名作なのだろう……という期待も、結果として良くない方向に作用してしまいました。
 音楽はもちろん良かったんですが、音楽と絵面やシチュエーションのエモーショナルのために全ての整合性や辻褄などが後回しにされていた印象。
 途中までこれはファンタジーなんだなあ、御伽噺なんだなあで肯定的に捉えようと頑張ってたんですが、性犯罪以外の何物でもないキスシーンで普通に何もかもキツくなってしまった。
 あと長いし。これ本当に2時間近く必要だったんですか? 本当に???


変な家(2024)

この家、何かが、変、ですよね?
間取りには、必ず作った人の意図が存在する。 そこには、むやみに触れてはいけない人間の闇が見えることも……。
“雨男”の名前で活動する、オカルト専門の動画クリエイター・雨宮(間宮祥太朗)は、マネージャーから、引越し予定の一軒家の間取りが“変”だと相談を受ける。そこで雨宮は、自身のオカルトネタの提供者である、ミステリー愛好家の変人設計士・栗原さん(佐藤二朗)にこの間取りの不可解な点について意見を聞いてみることに…。次々と浮かび上がる奇妙な“違和感”に、栗原さんはある恐ろしい仮説を導き出す…。 そんな矢先、ある死体遺棄事件が世間を騒がせる。その現場は、なんとあの【変な家】のすぐ側だった。事件と家との関連性を疑った雨宮は、一連の疑惑を動画にして投稿することに。すると、動画を見た「宮江柚希」なる人物(川栄李奈)から、この家に心当たりがあるという連絡が入る。 柚希と合流したことで、さらに浮上する数々の謎。そして新たな間取り図。やがて二人は、事件の深部へと誘われていく――。 紐解かれていく間取りの謎の先に、浮かび上がる衝撃の真実とは――。

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 良かったです。なんか……期待通りのB級ホラーって感じで。
 海の上のピアニストを酷評した後に変な家を良かったって評するの感受性どうかしてるイカレだと思われそうなんですけど、変な家は期待した通りのものが出てきたんだもん!!
 原作未読であることが功を奏すタイプのB級クソホラーサスペンス。括りとしてはホラーではないかもですが、描写やジャンプスケアの多さ的にホラーに括って問題ないんじゃないかなあ。
 原作に思い入れあったら憤死してたかもですけど、雨穴のパチモンみたいな配信者が出てくるだけでもう面白くなれる。
 なんか……全体的に雑。途中まではそこそこ頑張ってたしわりと怖くもあったんですが、後半になるにつれ目に見えて脚本が息切れをしている。あらゆる整合性・辻褄などが破綻し、ツッコミどころがとにかく多い。オチの杜撰さったらない。
 佐藤二朗がいなければ見るに耐えない作品になっていたことは間違いなく、関係者各位は佐藤二朗に感謝すべき。


ボーはおそれている(2023)

日常のささいなことでも不安になってしまう怖がりの男ボーは、つい先ほどまで電話で会話していた母が突然、怪死したことを知る。母のもとへ駆けつけようとアパートの玄関を出ると、そこはもう“いつもの日常”ではなかった。その後も奇妙で予想外な出来事が次々と起こり、現実なのか妄想なのかも分からないまま、ボーの里帰りはいつしか壮大な旅へと変貌していく。

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 観終わった直後はもう二度とアリ・アスターに3時間ある映画撮らせんなよって心の底から思ってたんですが、今思い返すとこの作品がこの内容で3時間あることがアリ・アスターらしさなのかなとも思うようになりました。それはそれでカスのギミックじゃない!?
 インターネットで大喜利のお題かのようにいろいろと言われていましたが(そしてその9割を信じていませんでしたが)、まあ別に……良くも悪くもいつものアリ・アスターだったと思います。
 エンタメ作品としてはミッドサマーのほうが万人受けするんじゃないかな。わかりやすいし変だし絵面も綺麗だし、カタルシスもちゃんとあるし。
 例によって例の如く、難解な比喩やベースがかなり仕込まれており、一見しただけで理解するのは難しいです。
 好きか嫌いかと言われると、どちらでもないけど別にもう一度見ようとも思わない、そういう感じです。


ゴッドファーザー(1972)

ドン・コルレオーネ(マーロン・ブランド)率いる一族の家族模様とファミリーが手がける恐ろしい組織犯罪の両方の間で巧みにストーリーを展開させながら、アメリカでの勢力争いを巡るシチリア人マフィアの血なまぐさい盛衰が描かれる。

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 やっと素直に面白いと思えた作品の感想が書ける!!!!
 や~~~~~面白かったです! アル・パチーノかっこい~~~~~!!!
 終始画面がかっこよく、誰が何をしていても絵になる。
 
出てくる車もスーツもみんなお洒落で、音楽も素晴らしい。言うことね~~~~! 至るところでよく見る「マフィアのドンが膝に乗せた猫ちゃんを撫でている」というイメージの源流も確認できて満足しました。
 唯一堅気として育てられていたマイケルが、紆余曲折ありドンとしてめきめき頭角を表していくさまがひたすらクール。かっけ~~~~~。
 彼がさらりとつく嘘、あるいは彼にとっての真実を述べるシーンなど、血や才能を感じられてウキウキになってしまいます。
 やるならここだろ! というシーンの外し方が上手い。死ぬためだけに用意されたのかな? みたいな現地妻はちょっと面白かったんですが、彼女の存在を奥さんは知らないんだろうと思うとやっぱりそれはそれでテンション上がっちゃう。
 ラストのカットは断絶とも公私や性別の明確な区分とも取れ、ホモソーシャル的で良かったですね。そういう社会だよなあ!
 全部嬉しいお得な映画でした。


戦場のメリークリスマス(1983)

1942年戦時中のジャワ島、日本軍の俘虜収容所。収容所で起こった事件をきっかけに粗暴な日本軍軍曹ハラ(ビートたけし)と温厚なイギリス人捕虜ロレンス(トム・コンティ)が事件処理に奔走する。一方、ハラの上官で、規律を厳格に守る収容所所長で陸軍大尉のヨノイ(坂本龍一)はある日、収容所に連行されてきた反抗的で美しいイギリス人俘虜のセリアズ(デヴィッド・ボウイ)に心を奪われてしまう。クリスマスの日にハラは「ファーゼル・クリスマス」と叫んでロレンスとセリアズを釈放してしまう。それに激怒したヨノイは捕虜の全員を命じるのだが、周囲からの孤立を深める結果になり、葛藤に苦しむのだった。

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 本当に低俗で恥ずかしいんですが、その……チュー以外の記憶が……あまりなく……。
 違うんですよ……チュー以外が記憶に残らないような駄作ということではなくてですね、チューの衝撃と鮮烈さがあんまりにあんまりで、全部持って行ってしまったというか……そもそもなんなんだよこのあらすじも……いや……でもさあ……うーん…………なんでチューしたの!?!?!??
 まあね、一旦、一旦チューは置いておくことにして……それ以外も見るべきところのある作品だったので……。
 ともすれば何が言いたくて何を表現したいのかわからなくなりそうなこの作品のシーンひとつひとつを坂本龍一の幻想的な音楽が丁寧を彩り、それぞれを印象的なものに仕上げています。常に余韻があるというか。考えさせられる空白が、音楽によって用意されている。
 作中では日本兵の無茶苦茶っぷりとその精神性、ジュネーヴ協定をものともしない捕虜の扱いの酷さが取り上げられており、見るに堪えないシーンが複数あります。でもこれを日本人の監督が撮ってるのは良かったですね。
 敗戦国として、日本はどうしても少し特殊な立場にあるので(ドイツも相当ですが……)、こういうふうにちゃんとその酷さが取り上げられていると安心する感覚がなんとなく私個人にあります。そこらへんも良かったな。
 戦闘シーンこそないですが、戦争、特に日本側の資本の悲惨さの表現としては充分すぎるほどで、こんな国が勝てるわけもないよなあと改めてしみじみ。英仏の捕虜からしたら耐え難いよなあと思うと、終戦後イギリスでは日本で捕虜やってた兵士の本がベストセラーになったり、反日感情がかなり高かったというのも得心がいきます。
 でもやっぱチュー以外のことあんまり考えらんないよお!!!!!


ゆるし(2023)

「光の塔」の信者である⺟・恵から厳しい宗教教育を受けてきたすずは、教えに反することをすると鞭で打たれるなど虐待を受けてきた。ある⽇、すずは学校で献⾦袋を盗まれ、お⾦を借りるために祖⺟の紀⼦に会いに⾏く。そこで虐待の事実を知った紀⼦と祖⽗の勝男は、お⾦を貸す代わりにすずを保護する。すずは、 紀⼦と勝男から愛されて暮らすことで、「世の⼈はサタンにそめられている」という教えを疑い始める。しかし教えに疑問をもてば、サタンに堕ちる。それは、すずにとって、⺟との永遠の決別を意味していた。⼀⽅で、すずは紀⼦や勝男の話を通して⼊信する前の⺟の姿を知る。優しかった⺟はなぜ変わってしまったのか。⾃由を⼿放してまで求めた「ゆるし」とは。恵の知られざる姿を知ったとき、すずの運命が狂いだす。

アップリンク吉祥寺での紹介

 所謂宗教二世の方が撮られた作品ということで興味を持ち観に行ったんですが……まあ……娯楽作品(というと言い方悪いかもですが)としての映画という観点で評価するなら、とてもじゃないけど……まあ……甘く見て☆2……? みたいなクオリティでしたね。
 そもそもの予算が170万円前後らしいんですが、まあそれくらいの予算の映画ならこれくらいの出来の作品になるのかなあという感じです。 この物語の持つインパクトに、脚本もキャストも何もかもついていけていない。
 シナリオは粗だらけだしキャストはみんな演技が下手で滑舌も悪い上に声もなんか通ってないしで本当に映画としてはだいぶお粗末なんですが、こういった作品が世に出ることそれ自体には意義を感じました。
 今のところクオリティがクオリティなので、宗教二世の方々にしか評価されてない(それも啓蒙作品として)印象なんですが、いつかもっと予算をぶんどれるようになって、社会に警鐘を鳴らせるような作品が世に生まれるといいなあと思います。


グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち(1997)

ウィル・ハンティングは労働階級の頑固な天才少年だが、人生では落ちこぼれている。多くのいざこざを起こす彼にとって、心理学の教授と心を通わせることだけが唯一の望みだった。

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 特定のインターネットに触れすぎているせいでMITって単語が出てきただけでMIT!? ま……マサチューセッツ工科大学!? で面白くなってしまい、自分を恥じました。
 まあそんな恥は置いておいて、MITの秀才たちも解けない難問を普段はスラムで過ごす若き清掃員が解いてしまうという導入がもう面白いんですが、ここからトントン拍子に上手くいくわけでは全くないです。こういうなろうめいた気持ち良さがあるの、本当に序盤だけかも。
 主人公であるウィルは、本当にギリギリのギリギリまで人に心を許せないし開けない。彼の持つ背景自体は正直あまり特筆するものはなく、悲しいことにありふれた悲劇と言えるものなのですが、そのありふれた悲劇こそがいつでも人生を困難にするんですよね。
 慕ってくれる人や手を差し伸べてくれる人のことを自分から突き放すことで自己防衛をしており、マジで本当にずっと生意気。
 だからこそ終盤にかけての展開が眩く得難いものになるのでしょう。
 素直に面白かったです。


ウィンストン・チャーチル /ヒトラーから世界を救った男(2017)

第二次世界大戦初期、ナチスドイツの勢力が拡大し、フランスは陥落間近、英国にも侵略の脅威が迫っていた。連合軍がダンケルクの海岸で窮地に追い込まれる中、ヨーロッパの運命は新たに就任したばかりの英国首相ウィンストン・チャーチルの手に。ヒトラーとの和平交渉か、徹底抗戦か――。チャーチルは究極の選択を迫られる。議会の嫌われものだったチャーチルは、いかに世界の歴史を変えたのか。
実話を元に、チャーチルの首相就任からダンケルクの戦いまでの知られざる4週間を描く感動の歴史エンターテインメント。

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 すみません、クソダサい邦題に耐え切れず原語版のティザービジュアルを持ってきてしまいました。
 何が「ウィンストン・チャーチル /ヒトラーから世界を救った男」だよ! なげーしだっせー上にイギリス側が世界を救ったとか称するの問題しかなくて最悪だよ!
 第一次世界大戦で何も知らないまま死んだ奴にしかつけらんねー面の皮のタイトルでビックリしますが、原題は記載の通り「Darkest Hour」です。

原題の「darkest hour」(最も暗い時)とは、ナチスドイツが欧州で勢力を拡大していた第二次世界大戦初期を指したチャーチルの言葉。

高森郁哉氏の評論より

 うーんスマート…………。
 まあ日本でこの原題ママで公開するのはあんま美味くないという判断が下された点には理解を示せるものの、それはそれとしてこの手の改題させられちゃうのやっぱり切なさがありますね。
 恨み言はこのへんにして、主演はなんとゲイリー・オールドマン。特殊メイクってすごい。
 邦題があまりに鼻につくので正直あんまり期待しないで見始めたんですが、開始5分くらいであまりに面白い上に画面や台詞がずっとお洒落なので「これ絶対原題もっとスタイリッシュなやつだ!!」と思って調べたら本当に洗練された原題が出てきて悲しかったです。
 常に画角がかっこよく、画面がビシッと決まっているので見ているだけで一種の気持ち良さがあります。
 長台詞のシーンもカメラワークで飽きさせないかつ、周囲の人物の意図や空気が伝わってくる。もちろん舞台美術や衣装も素晴らしい! なんだかんだ言いつつやっぱり英国紳士然とした身なりって魅力的です。
 ソードラインが映るとああこれはイギリスの議会なのだなあとなんとなく高揚しますね。かっこいい。
 この年代が舞台のイギリス映画は、戦争それ自体を直接描かず、言葉を武器にして戦った人をメインに取り扱ったものが殊更面白い印象。英国王のスピーチとかもこのへんのお話しですね。
 英仏の宥和政策については、「ここで食い止めることができていれば」「ここでもっと強気に対応できていれば」という、結果論……というと乱暴なのですが、どうしても引き起こされてしまった悲惨な事態を顧みての厳しい評価もままありつつ、第一次世界大戦の記憶がまだそう遠くない上に再びヨーロッパが戦場になることは避けたいという当然の感情、加えてやはりヴェルサイユ条約によるドイツへの制裁はやりすぎだったんじゃないかという同情めいたものもあったようで、諸々を合算すると英仏がまずは講和の道を探ったのも仕方のない部分は多かったのだろうと納得できる部分はあります。この頃は共産主義のほうがまずもっての脅威と目されていたみたいですし。実際最近は再評価の兆しもあるっぽい。いやもうとっくにされてんのかな? このへんはよう知らんのですが。
 チャーチルだけではなく、彼を補佐するタイピストの視点が織り交ぜられてくるのもこの作品をより多角的なものにしていた印象です。あと猫ちゃんがちらちら映って嬉しい。
 この頃はまだアメリカ国内が参戦か否かで揺れている時期なので、その後の流れを踏まえると作中の展開もいろいろ面白いです。
 後半は少しだれた印象ですが、確かにダンケルクまで取り扱うと長すぎる上にまとまりがなくなってくるだろうし、ここで終えるのが正解なのかも。
 ちょっとチャーチル及びイギリスを良く描きすぎかなの側面は感じなくもないですが、そこはまあご愛嬌というか、なんてったって戦勝国ですから……ね。
 これ見てたときは今よりももうちょっとうろ覚えの高校レベルの知識程度だったんですが、それでもかなり楽しめました。愛妻描写良かったねえ。


ダンケルク(2017)

1940年、フランス北端の海辺の町ダンケルクに追いつめられた英仏40万の兵士たち。はるか海の彼方、共に生きて帰ると誓った3人。限られた時間で兵士たちを救い出すために、ドーバー海峡にいる全船舶を総動員した史上最大の撤退作戦が決行される。民間船をも含めた総勢900隻が自らの命も顧みず一斉にダンケルクに向かう中、ドイツ敵軍による陸海空3方向からの猛攻撃が押し寄せる。迫るタイムリミット、若者たちは生きて帰ることができるのか――。

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 ちょうどDarkest Hourがダンケルクのダイナモ作戦あたりをしっかり描くことなく終わってしまったので、しっかりそこを描いている(らしい)こちらの作品を鑑賞。
 まじで意図していたわけではないんですが、このへんの時期にはもうオッペンハイマーが公開直前だったので、ノーラン監督作品を予習する流れとしてちょうどよかったかなと思います。舞台は少しズレますが、時期としても重なってますしね。
 ノーラン監督作品、私はメメントしか見たことなかったんですが……この人、ややこしく撮るのが好きなんだなあと思いました。バカの感想そのもので申し訳ないですが……。
 たぶん劇場で観るのが一番響くタイプの作品だったと思います。音量調整難しかった! その手の作品をあとから配信で鑑賞するときには一抹の寂しさのようなものがあるんですが、潔くて好きです。
 それはそれとして、前提知識がないと少し難しいかも?
 私の読解能力不足の側面及びノーラン監督作品への癖にまだあまり慣れていなかった部分も大きかったんですが、話の流れや登場人物とその属性を理解するのに結構手間取りました。
 陸・海・空の三つの視点からそれぞれダイナモ作戦が描かれ、彼らの時間軸がリンクしていく瞬間が美しい。ただその洗練された美のためにいろんなわかりやすさや説明が削がれているので、やっぱり一度見ただけじゃ理解するのは難しいです。まあでも演出として完成されてるからな……。
 最後にチャーチルの名演説で〆つつ、その後の戦争を予感させるラストの余韻がかっこいい。
 Darkest Hourと合わせて見ておいて良かったです。


インセプション(2010)

ドム・コブは、人が一番無防備になる状態――夢に入っている時に潜在意識の奥底まで潜り込み、他人のアイデアを盗み出すという、危険極まりない犯罪分野において最高の技術を持つスペシャリスト。だがその才能ゆえ、彼は最愛のものを失い、国際指名手配犯となってしまう。

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 同じくノーラン監督作品。結果的にはこの流れで予習しておいて良かったのかなーと思いました。
 とにかく設定が難解で、初見に一発で理解させる気はないです。でもたぶんこれもうこの監督の作品がそういうものなんだろうな! ファンがつくのもわかります。
 もちろん私も完全に理解できていないとは思うんですが、めちゃくちゃ練られていてわくわくしました。SF好きな人ならなおのことでしょうね!
 ただその設定の難解さゆえに序盤は結構説明に費やされているので、ちょっと退屈かも。でも映像はずっとインパクトあって見応えがある。どうやって撮ってるんだ……?
 序盤の流れが繋がっていく構成が本当に上手く、この複雑な設定を活かしきる手腕にはやはり感嘆しました。多層的な構造に頭がこんがらがりつつも見入ってしまう。その上であの不穏なラストに繋げる意地悪さがにくいですね~。
 アリアドネという名前のキャラクターがおり、どう考えてもアリアドネの糸から来た命名だと思うんですが、結局彼女は糸として作用したのか、それとも。
 ついつい考えてしまう要素が多くて楽しかったです。難しいけど!


オッペンハイマー(2023)

第二次世界大戦下、アメリカで立ち上げられた極秘プロジェクト「マンハッタン計画」。これに参加した J・ロバート・オッペンハイマーは優秀な科学者たちを率いて世界で初となる原子爆弾の開発に成功する。 しかし原爆が実戦で投下されると、その惨状を聞いたオッペンハイマーは深く苦悩するようになる。冷戦、赤狩り―激動の時代の波に、オッペンハイマーはのまれてゆくのだった―。

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 というわけで今月のド本命です。この1本を観るために3月があったといっても過言ではない。
 オッペンハイマーは……まあ……もちろん作品の性質もそうですが、日本での公開が決定する前も、その後の米アカデミー賞授賞式でも、いろいろとあった作品なので……「観ない」という選択をする方がいることももちろんわかります。
 でも私は、アメリカ人がこの題材をどう撮って、そしてどう撮られたものがここまで世界にヒットしたのかを、きちんと知りたかったので鑑賞しました。
 作品としては、ノーラン監督のいつもの難解な構造です。ダンケルクとインセプションの間くらい……? ただ今回は取り扱う題材が史実及び実在の人物である分、予習さえきちんとしていけば、物語それ自体の読解はそこまで難しくないんじゃないでしょうか。予習可能なのはデカい!
 ただオッペンハイマー周りだけではなく、ロバート・ダウニー・Jr演じるストローズ周りのことも可能であれば予習したほうが良いですね。それなりに予習していったつもりだったけどこの人のこと全然知らなかった! 誰ですか???
 オッペンハイマー、周辺にここまで共産主義者がいたことは知らなかったので純粋に驚きました。あと不倫。そう、不倫要素そこそこあるんでそのへん得意じゃない人は気をつけてください。
 オッペンハイマーの言葉として、かの有名な「我は死なり、世界の破壊者なり」というヒンドゥー教の聖典から引用されたものがあるわけですが、これどうやって入れるんだろうめちゃくちゃ難しくない……? とそわそわしていたらすげえ巧みに盛り込まれてて笑いました。上手い。

 撮り方それ自体には一定の誠実さは感じました。
 決して軽視したり軽んじたり、そういうことはなかったと思います。オッペンハイマーの苦悩は丁寧に描かれていたし、その表現も多彩かつこちらに訴えかけてくるものがあり、エンターテインメントとして成立している。言葉などを用いずにわかりやすく、しかし技巧的に、オッペンハイマーの罪悪感や心境が表現する手腕には唸りました。
 それらを表現した上で「だからといって許されるわけではない」ときちんと描くことも、誠意として私は受け止めました。
 こういう題材を取り扱う作品をエンターテインメントと形容するのはいささか繊細さ・丁重さに欠けるかもしれませんが、それでもやはり映画という媒体を使って世間に何かを訴えかけようとするときは、そもそも作品に娯楽として一定の強度が必要だと思うので……。観てもらえなきゃ意味ないですから。

 でもアメリカの人が撮った作品だなとも思いました。
 音響などもフル活用して、観ている人がオッペンハイマー自身の気持ちになれるように、そこまで没入するように、というふうに撮られたらしいですが、それは……少なくとも私はそういうふうに没頭はしなかったです。ただただオッペンハイマーが何を考えているのか、どう苦悩するのか、そういうものをずっと追いながら観ていました。
 実際の被害の映像については、まあ、日本の作品であればやはり映されたとは思いますが。
 オッペンハイマーという人物を描く作品では、そこは撮らなくて正解なのでしょう。彼は来日時、広島にも長崎にも立ち寄ってはいないので。
 アインシュタインの扱い方も良かったですね。彼も原爆に関してはずっと苦悩を抱えてきた人物なので……。オチも好きです。
 でもやっぱりアインシュタインをこういうふうに使うなら、「結局ナチスは原爆の開発には成功していなかった」という部分も描いていてほしかったなー。「ドイツの無条件降伏」だけだと、やっぱり少しニュアンスが足りないというか。
 「核分裂を発見したドイツがこれを兵器開発に利用したらヤバい」「一刻も早くドイツより先に新兵器を完成させなければならない」という建前で始まったマンハッタン計画は、あのときその建前と意義を失った。周囲の反対意見を知りながら、それでも進むという道を選んだところまでが、彼の真実なのではないかな。
 同じくアメリカの犯したを描いた映画として、前述のキラーズ・オブ・ザ・フラワームーンがあったわけですが、個人的にはこちらのほうが終始丁寧かつ誠実であったと思います。まあ、題材そのものの扱い方やフォーカスの仕方・規模に建前と何から何まで違うので、一概に比較はできないのですが。
 観て損はないと思います。予習だけはそれなりにしておいたほうが無難!


ウィジャ・シャーク 霊界サメ大戦(2020)

旅行先で古びた木片を拾ったジル。それは霊界と現世をつなぐ魔のアイテム・ウィジャ盤だった。ウィジャ盤の魔力により、ジルと友人たちは霊界から凶暴な人喰いザメを召喚してしまう。ウィジャ・シャークは次々と人間を襲い、町は大パニックに陥り…。

サメ映画真剣サイト

 打って変わってサメ映画。フォロワーが同時視聴していたので混ぜてもらいました。
 まー絵に描いたようなB級サメ映画で、脳みそを一切使わずに見られます。頭空っぽにしたいときにおすすめ。
 基本的に必然性の代わりにツッコミどころが数多あるシナリオなので、何も考えずに友人と笑いながら見るタイプの作品。
 空飛ぶ幽霊ザメが効果音の愛らしさも相まってとてもかわいい。
 だいたい全部変なんですが、タイトルの霊界大戦に突入したあたりがめちゃくちゃ面白い。インターネットで1回は見たことあるシーン出てきて、この作品だったんだアレって笑えた。
 随所から窺える低予算具合も良いですね。
 完全に最初からウケ狙って作りにきてるタイプの作品ですが、こういうので素直に笑える感性も大事にしたい。


羅生門(1950)

都で名高い盗賊・多襄丸が武士の夫婦を襲い、夫を殺した。だが検非違使庁での3人の証言は全くと言っていいほど異なっていた…。

ネトフリ

 羅生門ってタイトルなのでじゃあ羅生門なんだなと思って見始めたんですが、話の内容としてはほぼ藪の中だったのでちょっとビックリしました。
 羅生門っぽい要素もあるしいろいろ付け加えられてはいるんですが、ベースは藪の中です。
 2024年の今に見ると冗長なシーンも多いんですが、1950年当時の日本からこれが輩出され、世界で評価されたことに大きな意義があるのだと思います。実際終戦からたった5年でこれが出てくるのはすごい。
 ただこれが世界でウケたのって絵に描いたような日本っぽさがウケたのかな? と思わなくもないです。
 内容としては原作の藪の中よりすっきりして終わるようになっており、人間それぞれの持つ浅ましさ・醜悪さを浮き彫りにしつつ最後には希望を残して終幕。希望というよりは「それでも善性を信じる心を失わないでいてほしい」というようなメッセージか。
 笑い声がとにかく印象的な作品でした。音楽もメリハリがあって良い。


総評

 長かった……やっと3月が終わった……!
 結局3月は30作観ており、しかもそれぞれに相応の見応えがあったのでこのログ書くのがもー大変でした。もちろん楽しかったんですが、4月はもう絶対こんなに観ない……!!
 こう書くと雑な前振りっぽいですが、実際4/7現在まだ1本しか観てないです。ゆっくりやっていこう。

 「映画をたくさん観る」というのは、今年の頭になんとなく決めた目標で、実際なんとなく観ていたのですが。
 関心領域の衝撃がちょっとすごくて、あれ以来「どういう視点で撮られているのか」「何を訴えかけたいのか」みたいなことをきちんと考えながら観るように心がけています。
 もちろんそういった意図はあまりなかったり私が受け取り損ねていたり、純粋にこれただ撮りたくて撮ってんだろうなと思う作品もある(アリ・アスターとかアリ・アスターとかアリ・アスターとか)。

 世界情勢がもうずっと悲惨で、こういう時流の中で生まれる作品を観て、それで、自分にできることを考えて、見つめることができたらと思っています。目を逸らさないこと、これを自分にできる範囲で続けたい。
 映画を観る、それ自体がもう、特権階級の娯楽なんですよね。
 そのことを忘れないまま、それでも映画という娯楽を使って私たちに問われることに向き合いたいというか……フワフワしててお恥ずかしいんですが。
 その上で、時にはそんなに難しく考えず、まっすぐ映画を楽しみもしたいです。
 3月はラストエンペラーが本当に面白くて、もともと歴史が好きなのもあり史実・実在の人物などを取り扱った作品をたくさん観ました。面白かった! 興味のある分野を知るのはやっぱりすごく楽しい。
 歴史系の作品を観る際の予習としてもちろん手持ちの世界史の参考書類を見返したりしているんですが、やっぱNHKオンデマンドが最強すぎます。
 映像の世紀にフランケンシュタインの誘惑に、手軽に見られて参考になるものがありすぎる。マジで超おすすめ。あとはたぶんネトフリのドキュメンタリー系も強いんだろうな。

 クッソ長い記事になりましたが、ここまで読んでいただいた方、ありがとうございました!
 ここ最近はもうずっと坂本龍一の音楽を流してます。良すぎる。
 4月はとりあえずプリシラが一番楽しみです。ペナルティループも見損ねたままなのでなんとか観に行きたい……あと裏切りのサーカス!
 数そんな観ないにしても、ログ書けるくらいの本数は観たいですね~。



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