ホタルのリズム感?バンドの音がまとまる同期現象の秘訣とは
カエルやコオロギの合唱が聞こえ始め、この時期はうるさいですね。
かれらは人間より単純な脳の構造をしているにも関わらず、微細なズレ、グルーブ感を生み出しながら音楽を奏でています。
ホタルの脳は昆虫なのでカエルよりさらに単純構造をしています。しかし彼らも微細なグラデーションを生みながら、人間でも難しい圧倒的な光の空間芸術、インスタレーションを毎夜生み出します。
ホタルはランダムに光ってるわけでもなければ、指揮者やクリック音に従って人間のように同期するわけでもありません。これは単純な仕組みで、機械的に、しかし非常に有機的に同期しています。
なぜ、動物たちは人間よりも優れた同期を行えるのでしょうか?
楽器初心者に立ちはだかる壁にメトロノームやバンドメンバーと揃わないというものがあります。彼らの仕組みを知ることで、この悩みは解決されるかもしれません。
複雑系科学(Complex System)
もともと経済学、社会学、心理学、生物学、天文学、物理学、工学など、別々に研究されていた理論が、近年コンピュータの発展に伴い統一されはじめています。
単純な数式の計算では難しかった自然界で起こるような複雑な現象に対して、シミュレーションを行うことで可能性が広がりました。
なかでも暗黒物質と並び多くの学生を中二病へ誘う、カオス理論は有名ですね。SFのタイムトラベルでも頻繁に使われるバタフライ効果も多くの子供達をワクワクさせました。(残念ながら実験で否定されてしまいましたが)
同期現象(Synchronization)
複雑系の数理のなかで、今多くの実用化がされているのが同期現象です。GPS、レーザーの開発や、外科手術、地質調査など、多くの成果をあげています。
◆メトロノーム
同期は生物である必要はありません。
単純なメトロノームの同期を見てみましょう。
振動子が同じ周期で、互いに影響を与えれるように床を釣り上げることで32個のメトロノームが次第に同期します。実はホタルの同期も、コレと同じ仕組みで実現されてることが知られています。
実験の美しさから、二重振り子同様に世界中で大喜利がされてます。
◆心臓の鼓動
同様の現象は、もっとスケールが小さく、数が膨大でも実現されます。それはあなたの心臓で起きていることです。
ペースメーカー細胞と呼ばれる1万個ほどの細胞群は、電圧を上下させることでリズムを生み出します。それらは見事な同期を起こし、一定のテンポで心臓を振動させます。
この緊張感のあるスウィングしたリズムは人々を虜にしてやみません。アートの島、香川県の豊島では「心臓音のアーカイブ」としてクリスチャン・ボルタンスキーが世界中の人々の心臓音を恒久的に保存しています。
同期現象については応用数学者のスティーブン・ストロガッツさんの「SYNC なぜ自然はシンクロしたがるのか 」が非常にわかりやすいので、ぜひ読んでみてください。難解な数式は一切使わず、ストーリー仕立てのわかりやすい解説になっているので読みやすいです。
TEDトークでは仕組みというより事例紹介をしていて、こちらも面白いです。
なぜメトロノームと同期できないのか
さて同期現象を少しわかったところで、
それが人の演奏にどう関わるのでしょうか?
よく演奏者の間で行われる議論に「メトロノームいる/いらない問題」があります。
これらの議論では、メトロノームを一定のテンポに合わせる練習としか理解していないように思います。
まずは同期には二種類存在することを理解しましょう。
・断続的同期(Intermittent Synchronization)
・持続的同期(Continuous Synchronization)
◆断続的同期
断続的同期とは、瞬間的な刺激を与え偶発的に同期することです。
たとえば登校・出社の時間を指定すると、人々は同時に到着します。群がったハトを驚かせると、同じ羽の動きで飛び立ちます。
しかしこれらは合図の直後から急激に同期は終了し、個々の乱雑さが増大します。そのためリーダーは細かく指示を与えて同期を図る必要があり、牧羊犬のように大忙しになってしまいます。
◆持続的同期
持続的同期とは、冒頭の同期現象に見られるような、個々をネットワーク化することで相互に影響を与えることが可能となり自律的に同期することです。
たとえば地球と月は、互いに天体力学的に接続され、自転周期が同期することでウサギの餅つきをいつも見ることができます。
拍手も同様に合図がなくとも自律的に同期します。興奮のあまりテンポが早くなり無秩序な状態へ陥っても、また全体で同期へ移行していきます。
◆身体を振り子にしよう
メトロノームに牧羊犬のようなリーダーとして指示されてはいけないことはお分かりいただけたでしょうか。
初心者ほど指示に従おうとしてクリック音のタイミングを意識してしまいます。つまり断続的にしか同期できていないために正確に演奏できないこととなります。
では持続的に同期した演奏とはどのようなものなのでしょうか?
それはメトロノームのクリック音ではなく振り子を意識することです。決して演奏中に注視しろという話ではなく、振り子と身体の動きが結合して、全体として組織化すること、メトロノームと「バンド化」することを考えてほしいのです。
ヴィクター・ウッテン(Victor Wooten)はジャズ・フュージョンのベーシストで、グルーブ感が溢れており、高度なテクニック、そして対話するような演奏は多くの人々を魅了しました。
そして彼はメトロノームと演奏するときですら、決してメトロノームを異質な音と認識させません。頭から足までリズムを取りながら、身体をメトロノームと同期した振り子にします。
メトロノームを外すと、今度は身体の節々の振り子が同期して、演奏のテンポをキープします。そしてその構造的に安定した、同期の微妙なズレを「ポケット」と言います。つまり頭を使ってノリを生むのではなく、身体から機械的にノリは生まれます。
この身体の振り子化には、体幹をリラックスしておく必要性があります。なぜなら同期現象には、メトロノーム同期の床のように、コミュニケーションを取れる媒体が必要だからです。
◆ヒトと同期しよう
身体を振り子にする感覚を養うことで、ヒト同士の同期が可能になります。それは集団行動のような予定調和ではなく、即興的な同調です。
メンバー間だと精確な周期を相手も持っていないため、走ったり、もたったりすることもありますが、バンド化された状態で全体が同期されていればそれは十分音楽的に許容されます。
つまり真に重要なのは、一定のテンポをキープする能力ではなく、相手の周期と同期させる能力です。これを身につけるのにメトロノームも十分有用であることは間違いありません。
そしてヒトとの同期になると、より複雑化します。同期のみでなく、コール&レスポンスのような双方向の対話型コミュニケーションを行います。
コミュニケーションは音だけでは足りなくなり、アイコンタクトやボディーランゲージで示していく必要があります。
クラブミュージックではDJがオーディエンスの呼吸や心拍数、ダンスのリズムを察知してテンポを操作し、ダンスフロア全体を同期させていく高度なテクニックを有しています。
これはホタルよりも、魚や鳥の群れに似ています。全体の群れを十分に意識しているわけではなく、近くの仲間の変化を微細にキャッチして、結果として全体的な複雑な模様が現れます。
まとめ
振り子一つだけでは、単調な周期性しか生まれません。しかし複雑系では、自律的に互いの同期を図ります。さらに生物間ではお互いの行動に対して対話を行います。これにより時間芸術的豊かさが構築されるのです。
同期現象は日常生活に溢れたものです。最近ではホタルとLEDを同期されたインスタレーションなどもできて、まるで打ち込み音源と同期してるバンドのようです。
この理論が広く音楽業界にも広がればなと思っております。
よむよむ。
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