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ひと夏の恋

本日2億年ぶりにスポーツジムへ行った。

スポーツジムに入会してすぐのころは、よくプールを利用していた。むしろ私はプール以外の施設を殆ど利用したことがない。

プールを利用する理由は、泳ぐことが好きな他に、

・荷物が少ない
・洗濯物が少ない
・混雑しにくい
・苦しくない
・短時間で満足できる

などがあり、これはかなり有益な情報なので、記事にこれを記載するかを迷ったほどである。

しかし私は次第にスポーツジムへ行かなくなってしまった。これには語るほどの理由もなく、スポーツジムのシステム上、至極真っ当で、当然のことなのである。

スポーツジムに入会したことのない人のために、そのシステムを軽く説明すると、

そもそもスポーツジムとは、「自分では運動が続かない」怠惰な性格で、「スポーツジムに行けばやる気が出るかも」などという安易な考えを持ち、「行くのがめんどくさい」が、「退会手続きがめんどくさい」という人間をできるだけ多く入会させ、彼らからの寄付金(スポーツジムの場合、会費と呼ばれることが多い)で運営費をまかなっているNPO法人なのである。
これと似た組織で、子どもをターゲットとしたものに、進研ゼミなどがあり、殆ど同じシステムで運営している。

そして私ももちろん例に漏れず、スポーツジムに寄付金を払っている人間のひとりである。

しかし、それにしても今日はとにかく寒かった。
「広く感じるから」というやはり安易な理由で決めた我が家は、天井がむやみに高いので、暖房を付けても暖かい空気が上空に淀むばかりで、暮らすスペースが暖かくなる頃には夏が来ていそうなほどである。

寒過ぎて頭がおかしくなったのか、
"身体の芯から温まるには身体を動かすしかない"
と、何故か体育会系の血が騒ぎ、本日私は2億年ぶりに、水着だけを手にスポーツジムへ出かけたのである。

自転車にまたがり家から出た途端、冷たい風によって全身が攻撃され、すぐに激しい後悔に襲われたが、初志貫徹、強い意志を持ってスポーツジムに向かった。
ここで折れてなるものか、寄付金を払う立場から利用者へと成り上がってやるのだ。

さて、水着だけを持って出たと記載した通りに、私は財布を忘れたのである。財布には会員証が入っていた。
しかし、ここまで来て断念するような弱い志ではなかった。必ずやプールで泳ぎまくり、身体の芯からエネルギーを燃やしてやる、と心に決めていた。
受付で会員証を借り、なんなく更衣室に入った。

更衣室に入って鞄を開けると、水泳キャップを忘れていることに気付いた。通常水泳キャップを借りるのは有料だが、3回までなら無料で借りる事ができるチケットを持っているから大丈夫だ。
私は冷静に水着に着替えた。

着替えたところでそのチケットが財布に入っていた事に気付いた。財布を忘れたのを忘れていた。いや、しかしそのチケットがなくたって、お金を払えばキャップを借りることができるから大丈夫だ。しかし、財布がない。

詰んだ。

私は持ち前の冷静さで、平然と水着を脱ぎ、そのまま施設内の風呂場に行った。
そして、あたかもいい汗を流しましたみたいな顔で風呂に入り、他の利用者と並んで髪を乾かし、会員証を借りれたおかげで身体を動かしてリフレッシュできましたありがとう、みたいな顔で係員に仮会員証を返却し、平然と帰宅した。

まったく、私が音楽に精通している人間だったら、この一連の、気持ちが盛り上がり虚しく完結するまでの流れを、ひと夏の恋に例えてギターを掻き鳴らしていたところである。


しかしこの、何の意味もなかった月曜の夜に、ひとつ言えることがあるとすれば、
やはりスポーツにおいて最大の敵は自分自身である。


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