241214
「お前、“生きてねえ”な」
眼帯が飛んだおれの顔を見て“戦争”は言った。右の眉から頬骨にかけて縦に裂かれた縫い目。ゆっくりと瞼を開けて、眼球の代わりに埋め込まれたそれに“戦争”が写る。
「“アル=イクスィール”……趣味の悪ぃ心臓しやがって」
“戦争”が唾を吐き、左手を掲げると鉄の雨が降った。穴だらけのおれは、煙を上げながら案山子のように立っていた。
倒れずにいるおれに“戦争”は「手前ぇに何がわかる、人間のふりした死体野郎が」と言った。
気に食わねえことぐらい、底の抜けたジャケットの内ポケットを探りながら、気に食わねえことぐらい、わかるよ、と言って、ひん曲がったタバコをくわえた。“右眼”のお陰で傷は塞がるが痛みは残る。その痛みの底に誰かがいるような気がした。その誰かが振り返って微笑んだ気がした。
リリィ、と呟くと、右脚が前に出た。鉄の雨、また穴だらけの体、痛み。左脚が前に出た右脚に続いて前に出て行く。見上げると日蝕を背に“戦争”が三度(みたび)左手を掲げている。奴の長い髪が渦巻いてゴッホの絵のように見える。
おれは穴の空いた顔で笑って、半分になったタバコに火をつけた