燃料の多様性はモータースポーツの救世主たりうるのか?
今年ルマン24時間レースも五年連続で制したトヨタの豊田章男社長もハンドルを握った2022年のスーパー耐久24時間レースには様々な燃料のバリエーションが見受けられました。
昨年はガソリン、水素以外にはマツダのバイオ・ディーゼル燃料のみだったのが、今年はトヨタも日産も参戦したことで、いよいよカーボン・ニュートラル、もしくはゼロカーボン時代のモーター・スポーツに向けて大きく舵を切り始めた印象です。
さて、このところ注目のバイオ燃料、その注目株の一つがユーグレナに代表される植物・微生物由来の燃料です。
組成が軽油に近いユーグレナ燃料の場合、なぜゼロ・カーボンとみなされるのか?排気されるガスの成分にはしっかり二酸化炭素が含まれているのに?
ここで思い出してほしいのが植物の光合成です。「彼ら」は大気中の二酸化炭素を取り込んで、炭化水素(HC)に作り直します。このC=炭素原子がH=水素原子の酸化反応、=爆発に伴って酸素と結びつき、炭素原子は再び酸化して二酸化炭素となって大気中に排出されます。
ただし、燃焼には使わなかった炭素原子もあって、二酸化炭素とはならずに済む分もあるので、光合成で吸収したCO2と排気管から出て来たC02を差し引き勘定すると、走れば走る程、地球上の二酸化炭素を減らして行く計算になります。だから、トータルでは温暖化ガスの増加には寄与しない、という意味でカーボン・ニュートラル燃料とみなされるわけです。
天ぷら油の廃油も同様、こちらも軽油の代わりとして大型トラックや気動車鉄道に転用出来るので、大型ディーゼル車の積極的なゼロカーボン化も進むものと考えられます。
ただし、ひとつ大きな問題が製造コストにあります。
現状では車体の燃料タンクに吸い込まれてゆくバイオ燃料の単価はリッター10000円だとか!!まともにスタンドで「満タンお願い」しようものなら万札を束にして、帯封のまま勘定してもらわねばなりません。
24時間で少なく見積もっても10数回の給油でタンクを満タンにしていては、プライベートチームではとても、優勝したって回収は無理です。いえ、回収は大メーカーだって・・・・・・
大きなメーカーが自社の広告塔として、領収書を切るのならともかく、日曜日のオトーサンが、ゴルフバッグ載せて御殿場まで往復でもしようものなら、途端にカミさんから「フツーの燃料にして」とストップがかかりそうです。
100%バイオ燃料としなくても、軽油に10%のバイオ燃料を混ぜる方法だってあります。効果は10分の1ですが、これならリッター1,000円に軽油代くらいで‥‥これもオトーサンの御殿場行きには高額すぎます。
バイオ燃料を普及させるためには一般庶民が買おうかな?と思う値段にコストダウンしなければならず、掘れば出てくる石油と違って植物の成長を待たなければならない、という課題もあります。
ブラジルで実用化されているアルコール系燃料も、ガソリンのようなベンゼン環を持たない、カーボン・ニュートラルな燃料ですが、それを入手できるのは広大なトウモロコシ畑があり、太陽光に恵まれるといった好条件が揃っていればこそのもの。世界各地で有効かといえば疑問符が付きます。
これ以上、石油を燃やさないために、温暖化ガスを減らすために、人類はまだまだ研究と努力を必要とするようです。そのことはモーター・スポーツをこれからの時代も、ずっと楽しみ続けるためにも不可欠なことであり、また実社会で実用化するための実験の場でもあるのです。