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前世の仲間と夢で会う

二日前から風邪気味で頭痛が続いていた。

連日の雨のせいもあるかもしれない。行きたかったハンドメイドのフリマも中止だ。やりたいことが出来ないなら、せめて記事でも書こうと机に向かう。

書きたいことが山ほどある。なのに頭が痛くてどうにも集中出来ない。

「早めに寝るか…」

風邪薬を飲んで布団に潜り込んだ。


気付くとそこは夢の中だった。

大通りに立ち、両脇の灰色のビルを見上げる。
雨上がりの雲が薄く天を覆っている。

私はひとり、街を歩いていた。

そういえばこの道を真っ直ぐ行くと薔薇園があるらしい。
「薔薇は良いな。あれはとても良い香りがするものだ」

ほんのりすっぱくて華やかな香りを思い起こす。薔薇は秋には咲いていないだろうから、春になったら行ってみようかな…… 大通り沿いに歩きながらそんなことを思う。

するといつの間にか、目の前に懐かしい背中がいる。彼、いや違う。彼女は私に振り向いてこう言った。
「薔薇園なら、みとらさんの家の近所にもあるよ」

「ああ!そういえばあるね。でもアレは近所のお宅のお庭の薔薇だよ?」
そう返すと、彼、いや彼女は微笑んでいるだけだ。

(地図に載ってないものまで、相変わらずこの人は細かいところをよく見てるな……)

そう思ってそのひとをまじまじと見返す。
織田信長公の甥の津田信澄……、の生まれ変わり。今は女になったらしい。

若き日の信長公を散々苦しめた弟の息子。父親を信長公に殺された恨みを持ち続け、信長公は晩年この甥から散々苦しめられた、という夢を10年ほど前に見たことがある。弟もその息子も信長公にとっては厄介な親族だった。

私は津田信澄には複雑な思いを抱いてきた。本能寺の変にもこの男は一枚噛んでいるに違いない。

(津田信澄なんか大嫌いだ。……そう思っていたはずなのに、なんで私は彼の生まれ変わりと普通に話してるんだろうなぁ?)

「まぁ、個人の庭の薔薇園も、薔薇園には違いないけどねぇ……」
私のことばを聞いているのかいないのか、津田信澄はニコニコしながら私の隣を歩き出す。

二人並んでとぼとぼと歩きながら、私の方からこう切り出した。
「そうそう、いつだったか、手土産の話を君に相談したことがあったろう?あの後、君の勧めてくれた物を買って、あのひとに渡したよ。」

「えっ、ほんとにぃ?あの時ほんとに買ったんだぁ?」

「ええっ?君が言ったやつ、俺、ほんとに買ったよぉ?」

「ほんとにぃ?」

「うん、買ったよ。先方も喜んでくれたし、君のお陰だよ。あの時はありがとうね。」

「アハハ、買ってないと思ってたなぁ〜」

(うーん、そんなことまで疑われてたのか……)
信澄には信用されてないとは思っていたが、これほどとは……

「そうか、君は実際に買った物を見てないもんな。見せれば良かったね……、あの時は本当にありがとう」


そう言って、また二人とぼとぼと進んでいく。私はもちろん、信澄の方も思うことがたくさんあるのか、互いに俯いたまま黙って歩いた。しばらくすると信澄がふと思い出したように笑ってこう言った。

「ふふっ、こちらこそ、ありがとう。あなたには御礼しなきゃとは思ってたんだ」

「ブフッ、えっ、なんでぇ〜?俺なんもしてないよ〜っ!」私も思わず吹き出して笑う。

「いや、御礼させてよ。なにがいい?」

「え〜、そうか。そうだなぁ……、じゃあ、俺が本作ったら読んでもらおうかなぁ?」

「わかった。みんなにそう言っとく」

「うん、みんなにね」

「みんなに」

「頼んだよ」

「ああ…」

私の背に向かって津田信澄が手をあげた。
振り返って信澄をもう一度見る。微笑んでたたずむ彼の姿を目に焼き付ける。

前を向き直して、私は一人歩み出した。



気付くと私はいつものミニオン柄のシーツの上で転がっていた。寝てる間に風邪の頭痛は落ちたようだ。その代わり、胸の奥にすこしばかりの寂しさが残った。


カーテン越しの日差しが明るい。
雨上がりの日曜日。
今日はなにか書けそうだ。

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