ドラマを見て、株主のことを、少しだけ考えて、おかげで知識が増えた。
少し前の話だけど、2022年の年明け早々、綾瀬はるか主演のドラマを見ていた。
以前、連続ドラマだったのだけど、その特別編として放送されていた。
ハゲタカ
そのドラマ自体は、楽しく見られた。真面目すぎるし融通をきかせることが苦手だけど、その真っ直ぐさが魅力につながりながら、とんでもなく有能な経営コンサルタントを演じる綾瀬はるかが、そのような人にしか見えなかったから、やっぱりすごい俳優なのだと思った。
その一方で、自分が会社や経済や組織に無知だから、本当に詳しい人には、どう見えるのだろうというような疑問はありつつも、その中で、今まで「ハゲタカ」と言われてきた投資ファンド的なものが、どういうものかが、少しだけ分かった気がした。
ドラマ上で、重要な人物が、この「ハゲタカ」と言われるような仕事をしていた。経営に行き詰まっているような会社を買い取り、短期間のうちに株価が上がるようなことをして、それが実質的にその企業の今後にマイナスになろうと、株価が上がった株を売却して利益を得ることができれば、あとは知ったことではない、といった描かれ方をしていた。
同時に、株主は、とにかく株価が上がることを求めてくる、という話も出ていたと思う。
短期的な株主と、長期的な株主
そういえば、企業は株主のもの。という言い方が一般的になったのは、この20年だと思う。
もちろん、それ以前からも、基本的には、それが「正しい」ことなのかもしれないが、「ハゲタカ」ファンドまでいかなくても、株主の中には、とにかく株を買って、その価格が上がって、その時に売って利益を得たい、という人も少なくない印象がある。
そうであれば、企業は株主のもの。という原則はあったとしても、そうした「短期的に株価を上げて利益を得たい」という株主の言うことは、少し長い目で見れば、マイナスになるのではないか、と思える。
このドラマでも、この「ハゲタカ」と言われるファンドに、「5年は株を売却できない」という縛りをすることで、短期的な利益よりも、ある程度長期的に企業が成長することに、本気で取り組むような誘導をする、というエピソードもあったはずだった。
だから、このドラマのメインストーリーとは別に、経済や企業や株に対して、ほぼ無知にも関わらず、こんなことを思っていた。
企業は株主のもの。
それは、株式会社としては基本かもしれないけれど、株を購入することによって、この企業の成長を望んで、長期的に株を保持する株主と、短期的に株価が上がったら、とにかく売って利益を得たい、という短期的な株主は、別の存在として扱った方がいいのではないだろうか。
基本的には、長期的な株主と短期的な株主を区別して、短期的な株主の主張は、もちろん内容にもよるのだけど、あまり聞く必要がない。
それを常識というか、できれば法的に決めてしまうような動きはないのだろうか、と思っていた。
株主と短期利益
当然だけど、素人が考えるようなことは、プロはもう考えている。
「短期 株主」と検索しただけで、こうした記事があった。
この中で、カリスマと称される人が、こんな発言をしている。
はっきりしているのは、年金など機関投資家は運用成績を強く意識した存在であることだ。運用者は常に毎年の数字を問うプレッシャーにさらされている。どの機関投資家も表向きは企業の長期経営を見守るなどと言ってはいるが、その実どこも毎年の運用成績を叩き出すことにきゅうきゅうとしている。
当然のことながら、短期的な株価上昇につながるような経営を企業に迫ることになる。そうなると、アクティビスト連中と大同小異だ。一体どこまで、企業と本質的で長期的視野のコミュニケーションが取れるのか、甚だ疑問となる。 (さわかみ投信会長 澤上篤人氏)
この発言に対して、こう受け答えをしている人がいる。
長期志向経営の会社の方が、結果的に株価、売り上げ、利益、雇用者数という面で平均を上回るという研究結果があるにもかかわらず、企業に短期利益の最大化を強いるわけですね。 「さわかみファンド最高投資責任者(CIO)の草刈貴弘氏」
自分自身が、全体を理解している、と断言できる自信はないが、企業もある程度の長期的視点を持たないと、成長が難しいということなのだから、やはり、短期的視野しか持たず、それで口をはさんだり、経営に影響を行使する株主は、場合によっては、マイナスになりえるのは、わかった気がした。
アクティビストと総会屋
この発言の中で、自分が知らなかったのがアクティビストだった。他の分野でのアクティビストは知っているが、経営の関係でのアクティビストは知らなかった。
株式の世界では株主としての権利を積極的に行使して、企業に影響力を及ぼそうとする投資家を指します。
一定数以上の株式を保有し、投資先企業の経営者に対して経営戦略などを提案することで、その価値を高めて最終的に利益を得ようとする投資ファンドがその代表格で、「モノ言う株主」とも呼ばれます。
こうした言い方で思い出すのが、昭和の発想で言うと「総会屋」だった。企業や組織に属することなく、遠いところから見ていた印象だと、とにかく穏便に物事を進めたい、という企業側と、とにかく騒ぎを起こして、その騒ぎを起こさない代わりに金品などの受け渡しがあるらしい「総会屋」。そんな大雑把で、あいまいな歴史しか知らなかった。
ただ、「総会屋」は法律の改正や、景気の後退により、いなくなったと言われている。
その「総会屋」と「アクティビスト」は、どうやら全く違うらしい。
「総会屋」は、騒ぎを起こすという脅しのようなものを金品に替えるのが目的のようだけど、「アクティビスト」は、企業に働きかけて、株価を上げるのが目的だから、確かに違うのは、私のような無知な人間でもわかる。
ただ、企業から見たら「外側」に近い場所にいる、という意味では、共通点はあるのかもしれないとも思うし、「外からの目」は、内部にとっては、うっとおしいものでもあるのだけど、それが全くなくなることも、企業にとっては衰退につながらないのだろうか、という気持ちにもなる。
そのバランスは、現代の企業は、どのようにとっているのだろうか。
フェアであるかどうか
最初の話に戻って、「ハゲタカ」といった呼ばれ方をするファンドは、何が違うのだろうか、と思うが、ただの外資系を、正体もよくわからずに敵視している「感情論」になっている可能性もあるのでは、とも思っていた。
ただ、それも、今は検索すれば、少しはわかる。こうしたことも分かりやすく書いてくれている人がいる。
保田隆明氏の講演を聞きに行った際に思い切って質問をしてみた。「ハゲタカファンドとそうでないファンドの境目は一体どこにあるのか?」という問いだ。
保田氏はいつもの優しい笑顔で一言、「フェアネスの欠如」と答えた。その通りだと思う。フェアネスといっても法律を守るかどうかということだけでなく、倫理面においても“フェアであるかどうか”が線引きというわけだ。
そして、筆者・山口揚平氏は、「ハゲタカ」ファンドを、こう定義づけている。
「他の利害関係者(社員、経営者、株主など)の犠牲の上に、自らの利益を創るファンド」といえるのではないか。
ファンドがハゲタカと呼ばれるのは、これら利害関係者の犠牲の上に自らの利益を創ろうとした時である。例えば、不当な従業員の解雇や、取引相手との契約打ち切りによる利益創出、事業資産の売却による現金化の株主還元などがこれにあたる。
ただ、無知な見方かもしれないが、これらの方法は、不当であっても、違法ではない、という思う。
だから、フェアネスという倫理的な要素が欠けている場合は、このことについて責められても、淡々とこうした「不当」な方法を進めて、自らの利益を上げるのでないだろうか。
現在の状況
それよりも、少し気になるのは、「ハゲタカ」という名称が、リーマンショック直後には、情報に強くない人間にも聞こえてきたのに、最近はすっかり耳にしなくなったことだ。
それは、こういう状況やこうした企業が減ったというよりは、すでに倒産しそうな企業は全部倒産してしまい、買い取る企業自体が消滅してしまったのか。
それとも、この「ハゲタカファンド」に関する記事は2007年だから、それから15年が経つ今では、すでにフェアネス自体が欠けて、全体が「ハゲタカ」のようになってしまったから、わざわざ「ハゲタカ」と言われなくなっただけなのだろうか。
フェアであるかどうか。それが、今は、本当に軽視されるようになったのかどうか。そのことは、やはり気になる。
ドラマを見て、少し調べたおかげで、不完全だけど、そんなことまで考えることができた。
(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでいただければ、うれしいです)。