閉店する「ケーキ屋さん」
住んでいる町にマクドナルドができた時はうれしかった。客層が若いせいもあって、空気が新しく感じて、100円コーヒーを飲んで、よく通った頃があった。店舗が狭いせいか、マックシェイクが売っていなくて、妻とは「セマック」と呼んでいた。
去っていく店
だけど、そのマクドナルドがなくなることが決まって寂しかったのは、マーケティングなどに厳しそうなマックが撤退するのは、もうこの町はさびれる一方なのか、という気持ちになったせいもある。
そのあと、この町にバーミアンができて、そのあとにガストに変わり、その途中で、意外なことに現代アートを扱うギャラリーができたときは、とてもうれしかったけれど、そのギャラリーも7年ほどで別の場所に移っていった。
駅前に長くあった洋品店もなくなった。それは、地元の、特に高齢の方々に愛用され、うちでも妻の母がよく寄っていた。その店が閉店するときは、やっぱり時代が変わっていく感じがした。
続く閉店
その場所はしばらく何も入らないままだったけれど、伝説のメロンパン、というキャッチフレーズのメロンパン屋さんが開店した。最初は、安く販売したせいか行列ができたし、自分も何度か購入した。ただ、そのうち、1年ほどで閉店した。
そのあとは、タピオカ屋ができた。タピオカが何度目かのブームと言われていた頃だった。タピオカ屋は、駅前に他に3店舗ほどできたが、次々と閉店していき、その駅そばのタピオカ屋も、そのうちに閉店した。
その場所は短いサイクルの場所になってしまったのかもしれない。
そういえば、駅の近くの商店街でも、特にコロナ禍の頃からは、できては閉まる店が増えていったような気がしていた。
どの店も短いサイクルで姿を消したせいか、地元の人間にとっても、いつまでもあってほしい、と思えることはあまりなかった。
洋菓子店
そのサイクルの早い場所に洋菓子店ができたのは、確か去年のことだった。
銀座に店を出していたらしいので、そんな店がどうして?という気持ちもあったのだけど、少し経ったら、昼の情報番組で、その店のシュークリームが取り上げられていた。
自分にとっては安くはないけれど、購入して食べた。
皮がやや硬めの食感で、確かにおいしかった。
フィナンシェも、しょうゆ味などがあり、珍しいけれど美味しく、地元にある洋菓子店だから、人への贈り物としても利用させてもらった。
ケーキも、少し高めだったけれど、チョコレートケーキの表面のチョコが半分解けるくらいの状態になっていることに感心をしてしまった。チョコレートは感触がかたいよりも、ちょっとやわらかいほうが味が引き立つので、ちょうどその具合になっていた。(どうしてこんな状態に保てるのだろう、と思った)。
だから、時々は買ったけれど、それほど頻繁でなかったのは、自分の経済力が低いせいだった。近くにはコンビニもあるし、天然酵母のパン屋さんもあったから、スイーツなどがほしいとき、そちらに行くことも少なくなかった。
それでも、昔は何軒もあった「ケーキ屋さん」がすっかりなくなってしまったから、もう随分と年月が経ち、そこに、少し敷居が高そうだけど、おいしいお店ができるのは、ちょっとうれしかったし、それこそ誕生日とかに買う「ケーキ屋」さんとして、この洋菓子屋さんはあるとうれしいと勝手に思っていた。
ただ、この2年の間でも、この川沿いの静かで広くない街でも、新しく店ができたり、ずっと短いサイクルで変わり続けた場所で、やっと長くやっていた焼き鳥屋がなくなったりと変化があった。
飲食店が定着しにくい町になってしまったのは、高齢化が進んだことで、購買力が低く、撤退が早くなったということなのだろうか。
閉店のお知らせ
その洋菓子店の本店は、中部地方の都市にあって、そこから銀座にも支店を出した。そこから、この町に出店したのは、こちらの工場がもともと、このあたりの地域にあり、銀座に運ぶよりは近い地域で、たまたまテナントを見つけた、といったことらしいのを、この店のオーナーなのか、パティシエらしき人に聞いた。
店をどこに出すかも、巡り合わせのようなものがあるのだと、少しだけわかった気もしたけれど、それは開店してから、それほど時間が経っていない時だったし、この町で、その商品が情報番組に取り上げられることもほとんど記憶になかったので、その分、長く店はあるのだと思っていた。
小さい張り紙を見つけたのは、2024年になってしばらく経ってからだった。
その洋菓子店が3月末日で閉店するのを知った。
自分のように、時々しか購入しない客が多いせいで、おそらくは撤退するのだろうという思いになり、それほど熱心な客でないから、そんなことを思う資格もないのかもしれないけれど、やっぱり残念だった。
会話
急に、その洋菓子屋で買おうと思った。
結婚記念日が3月にあったから、ちょうどケーキを購入しようと妻とも話した。
買い物の途中に、あれこれ寄るところがあったので、二人で分担して、私が郵便局に行っている間に、妻にケーキのことを頼んだ。できたら、妻が食べたいNo. 1とNo.2を買ってほしいと伝えた。
商店街の道の途中で妻と待ち合わせる場所を決めた。こちらもお金を下ろしたりしている間に時間が経ち、それから洋菓子店の方へ歩いたら、すでにケーキを買って手に持っている妻と会った。
店のスタッフの人と、こんな会話をしたらしい。
「寂しいです、って言われませんか?」
「そうなんです。すごく言ってもらえます」
「---この町の財力が足りず、すみません」。
「こちらも定着する力がなく、すみません」。
店が閉店する理由は、おそらくは単純ではなく、ただ売れ行きが落ちただけではないのだろうけれど、それでも、やっぱり残念だった。それなら少なくとも、もっと何度も購入し続けてから言えることであるのはわかっていても、それでも最初に開店したときうれしかっただけに、寂しさもあった。
ケーキ
その日のおやつの時間は、ケーキだった。
せっかくだから、インスタントではなく、近所の人に頂いた袋に入ったドリップコーヒーをいれる。
妻は、私がチョコレートを日常的に食べているのを知っているから、ガトーショコラにしてくれた。
基本的な味。チョコレートの生地が、ざくざくした感触があるのだけど、程よくまとまっていて、パサパサした感じではなく、しっとりもしている。おいしかった。
妻が選んだのは、ピスタチオグリーンのケーキだった。味が濃厚かと思うと、爽やかだった、と言っていた。そして、その断面にはピンクの部分があって、それがブルーベリー?か何かの味がした。
色の明るさもあるけれど、春を感じた。
妻は、そんなようなことを言って、やはりおいしかったようだ。
その後、その店の店頭は人がいることが多かった。最後にシュークリームでも、と思ったが夕方に行くと売り切れていた。まだ食べたことがなかったプリンを買った。まだ買ったことがない味もかなりある。
その洋菓子店のサイトを見たら、オンラインショップでは、「出品されている商品がありません」という表示がされていた。
本当に閉店するのだと、改めて思った。また、この町から「ケーキ屋さん」はなくなってしまうのだった。
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