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「だまされる方が悪い」と、どうしていまだに言われているのだろう。

 録画したドラマを見ていた。

 その中で、気になる言葉があった。

 詐欺事件がテーマになっていて、被害者に対して、「だまされる方が悪い」と言われていたことだ。それは、別のドラマでも聞くようなセリフだったから、意外と広く言われているのかもしれない。

 そして、ドラマは、現実を反映して制作されているのだろうから、まだ、こんなことが言われているのだと思うと、ちょっとショックだった。

 悪いのは、だます人だ。

 だから、詐欺罪という犯罪として裁かれ、刑務所に入ったりもするのだ、と思う。

オレオレ詐欺

 今は、あまりにも手口が広がったため「特殊詐欺」という名称になっているが、最初は「オレオレ詐欺」と言われていて、その時の方が印象が強かったので、いまだに「オレオレ詐欺」という言葉を使ってしまう。

 2回ほど、うちにも、その「オレオレ詐欺」と思われる電話がかかってきたのは、今も固定電話を使っているせいだと思う。

 最初は、夜中に呼び出し音が鳴って、出たら、「おれだけど」という言葉だった。そして、「どなたですか?」と聞くと、「いやだなあ、俺だよ。俺」と繰り返すので、再び「すみません、わかりませんので、どなたか教えてもらえますか?」と答えたら、「俺だよ、俺。オヤジ」と言われたので、「すみません。うちには子どもがいません」と返しても「嫌だなあ、どうしたの」と続けるので、「え、と。すみません。怪しいので、切りますね」と電話を切った。

 とても軽い話し方と、決められた言葉を一生懸命繰り返すだけなので、どう考えても、怪しかった。まだ、方法としては稚拙だと思った。

 本当に「おれ、おれ」というのだと思って、微妙に感心したが、そういう詐欺の入り口の電話が、うちにもかかってくるのだと思うと、ちょっと怖くなった。どこからか、具体的な電話番号などの情報が漏れたというよりは、こちらの名前も言っていなかったので、おそらくはアトランダムに、片っ端から電話をかけてきたのだろう、と思った。

2度目の電話

 もう一度、かかってきたのは、それから、さらに年月が経ってからだ。

 夜に呼び出し音が鳴って、電話をとる。

「あ、もしもし、俺だけど」。

 その声は、時々、ちょうどこの曜日、この時刻にかかってくる身内の声にそっくりだった。

どうしたの?」

 そう聞くと、暗いトーンで、時々、言葉を詰まらせながら、話し続けたのは、こんな内容だった。

 今日、病院で検査を受けた結果が分かった。どうやら、あんまり良くないみたいで、困っている。それで、今はちょっと混乱しているから、また、明日かけるよ。そんなことを、ぎこちなく続けて、切れた。

 怪しかったのだけど、何しろ、身内の声にそっくりで、しかも、重大な病気が見つかったときには、そういう話もしそうだし、そんな落ち込み方をするだろうと思う内容だった。

 1度目の「オレオレ詐欺」らしき電話は、何の確認もしないで済ませたのだけど、この時は、一応、その身内に連絡をとり、かかってきた電話がニセモノであることを確認した。

 ただ、最初の電話でいきなりお金の話もしなかったし、おそらくは次の日にかかってきたとしたら、その時に、手術代などの金銭面の話が出るのだろう。そして、その怪しい電話は、2度とかかってこなかったのだけど、もしも、その夜に、身内と連絡が取れず、翌日に、もっと深刻な電話がかかってきたら、本当にだまされなかっただろうか、と思うと、それほどの自信はない。

 しかも、今はもっと巧妙になっているはずだ。

 高度化された詐欺の技術が、自分の事情とタイミングが合ってしまうことがあれば、だまされない自信は、さらに少なくなる。


だます側の準備

 この書籍の中で、矢沢永吉でさえ、巨額な詐欺にあって、強いショックを受ける場面も描かれている。その時も、いわゆる世間からは、だまされるのは愚かだ、的な批判もされるのだけど、配偶者から、かけられた言葉が印象的だった。

 それは、だます方も、本気で命を賭けるくらいで、だまそうとしているのだから、本気でターゲットになったら、そこから逃げ切るのは難しい、といった内容だった。

 この書籍を読んだ時、確かに、とても動機が強く、入念な準備をされたら、たいていの人は、だまされてしまうのではないか、と思えたのを覚えている。だます側は、そんなところまで偽造してくるのか、といったことまで描写されていたから、そこまでされたら、信じてしまうのではないか、と感じた。

 こうした大がかりな仕掛けではなくても、いわゆる「特殊詐欺」も、複数の人数を用意したり、場合によっては、だまそうとする方達の家族の名前や背景なども調べて、さらには、電話をとった側が、どうすればより不安になるのか。家族への思いを、どのように利用するのか。そうした「研究」や「工夫」は惜しまず、続けているはずだから、狙われて、そして、基本的には優しい人ほど、だまされてしまうと思えるので、やはり、当然だけど、悪いのはだます方だ。

 だから、私はだまされない、というのではなく、少し条件が揃ったら、「特殊詐欺」にはだまされてしまってもおかしくない。

 だます側の準備は、時代が進むほど、入念になる傾向がある。だから、最初は「オレオレ詐欺」と言われていたのが、「特殊詐欺」と呼ばれるようになった。

 だまされる方が悪い、と考える前に、犯罪レベルの、だます側の準備について、少しでも知れば、だまされた方が悪い、とは思えなくなるのではないだろうか。


(この番組の特集記事↓も、投資にからんだトラブルについて書かれています。「詐欺」とはっきり表現できないのは、それだけ微妙で、巧妙な方法だということでもあるのだと思いました)。


「だまされる側が悪い」の弊害

 私も、恥ずかしながらあまり知らなかったが、「詐欺被害者」が自殺してしまうという事件もあった。

NPO法人「自殺防止ネットワーク風」理事長の篠原鋭一さん(70)の元には、特殊詐欺の一つのオレオレ詐欺の被害に遭い、親族が自殺した近畿や関東など全国の遺族から電話がかかってくる。遺族の話から浮かび上がるのは、オレオレ詐欺の被害者が置かれた厳しい状況。自殺する大きな理由は、金銭的な問題ではなく、親族に詰問されたことがきっかけだという。「家族なのに責めてしまった」「おばあちゃんは犯罪者じゃないのに…」。罪の意識にさいなまれる遺族もまた、苦しんでいる。

 この頃は、まだ「特殊詐欺」ではなく、「オレオレ詐欺」と呼ばれていたのだけど、この記事によると、その被害者が、周囲に「だまされた」のを責められたことも含めて、自殺してしまうという事件もあった。

 まず、「特殊詐欺」は、家族への思いを利用されることが多い。だから、家族のためを思って、お金を振り込んでしまう。それが結果として、詐欺だったとしたら、何より、だまされた本人が一番ショックなはずだ。そこへ、周囲から、親戚から、どうしてだまされたんだ、といった詰問があれば、さらに自分を責めてしまうことになりやすい。

 そんな状況になったら、最悪は、命を断つことにもつながりかねないが、そこまでいかなくても、うつになったり、高齢であれば、それをきっかけに認知症になったり、もしくは症状が進んだり、そうでなくても、気持ちの落ち込みが続き、それは、金銭的な被害に加えて、詐欺被害者が、さらに苦しむことが少なくないはずだ。

 もちろん、身内が詐欺被害にあった場合に、どうして?という気持ちにもなりやすいし、自分でも、同じ立場になったら、絶対責めない、とは自信をもって言えない。

 だけど、詐欺被害にあった上に、周囲から責められたら、場合によっては、自ら命を断つこともある。それは、「だまされる側が悪い」の弊害でもあるのだから、そうしたことがあった、ということを知るだけでも、詐欺被害者を責めることを少しでも避けられるのではないだろうか。

悪いのは、だます側

 もちろん、詐欺に関しては、注意喚起は必要になる。「特殊詐欺」だけでなく「訪問詐欺」など、具体的な方法について情報を広く伝えることも大事だと思う。

 だけど、特に高齢者だけの一人暮らしの場合は、本人だけがいくら気をつけても、親切の皮をかぶってきてアプローチしてくるような場合は、特にその撃退は難しくなる。人を疑うこともエネルギーが必要だし、そればかりを注意することで、気持ちの負担になってしまっては、生活の質さえ落ちてしまう可能性もある。

 だから、詐欺被害に対して、特に高齢者をターゲットとした「特殊詐欺」については、おそらく、最も大事なのは、家族がいる場合は、マメに連絡を取ることだと思う。毎日のように電話をしたりしていれば、「息子が横領した」といった「特殊詐欺」からの言葉に関しても、すぐに確認もできるし、それが詐欺だと見破りやすくなる。

 そうしたコミュニケーションが豊かな家族がいる場合には、「特殊詐欺」被害は少なくなりそうだ。

 だから、基本的には、「特殊詐欺」のような「家族が困っている」という嘘の状況を作る場合には、優しい人ほど詐欺にかかりやすいのだから、「だまされる方が悪い」のではなく、「人の善意を利用して詐欺を働くのは、より質が悪い」のを、社会の共通の認識にするべきではないだろうか。

詐欺被害を減らすために

 基本的には、人をそんなに簡単に信じないはずの私のような人間でも、何度か、あと数歩で、詐欺被害にあう可能性もあったと思う。過去には、家の修理にからんで、持ち逃げに巻き込まれたり、その時の修理が手抜き工事だったりしたが、その時も、一応、疑いつつも、最終的には、詰めが甘かったと思う。

 特に、犯罪の中でも「詐欺」は、時代によって進化しているのだと思うし、方法を更新し続けているので、だまされてもおかしくない。

 それを前提にして「悪いのはだます側」を徹底し、詐欺被害者には、もし、詐欺にあったと思ったら、すぐに警察に電話をし、その上で、だまされるのは悪くない。だますのが悪い。という意識を社会で完全に共有することができれば、詐欺被害者が、被害の後に責められて「2次被害」にあう可能性も減らすことができると思う。

 そうなれば、被害者に対して、そのショックに対して、まずはやわらげるのも「常識」になれば、被害に遭いながら、それを恥と思いすぎて、通報が遅れる、といったことも減っていき、結果として、詐欺犯罪が減少することにならないだろうか。

 それが楽観的すぎる発想だとしても、「だまされる方が悪いのではなく、だます方が100%悪い」が常識になった上で、だからこそ、誰でも被害者になる可能性があるという意識を共有し、高齢者の家族がいれば、コミュニケーションを豊かにする努力を始め、さらに、詐欺被害をどう減らすかについて、みんなで考えられた方が、警察側が注意喚起するだけ(それも大変だと思うけれど)より、犯罪被害は減るのではないだろうか。

「だまされる方が悪い」と言ってしまう気持ち

 どちらにしても「だまされる方が悪い」は、大げさに言えば、社会を生きづらくする考え方の一つだと思う。それは、自分は頭がよく、だまされる人間は愚かだ、という傲慢でもあり、同時に、自分も本当は頭が悪いかもしれないという不安を覆い隠す言動かもしれない。

 それは、やたらと「弱者を切り捨てる」ような社会になったせいで、だまされた人に対して、自分がそうなったらどうしよう、といった不安をかき消したいから、より強く、その被害者を責めることになっているのかもしれない。

 そのことについては、別の機会にもっと丁寧に考えないといけないけれど、自分の能力もあり、その部分については今は深入りできなくて、申し訳ないとは思うが、ただ、現時点でも、特に犯罪に関しては、「だまされる方が悪いのではなく、だます方が100%悪い」ということは、社会の共通認識として、誰もが同意できる「常識」にするべきではないだろうか。




(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。





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おちまこと
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