校舎の壁づたいに、4階まで登ってきた先輩。
その人は、中学のサッカー部の2年先輩だった。
年齢より大人に見えて、細かいことは気にしなくて、何より運動能力が、とんでもないレベルなのは分かった。
練習中も、ボールを追っていて、追いつかなそうに見えてから、さらに体が一伸び、二伸びしてくる。
ただ、すごく必死、というのではなく、本人にとっては普通のことのようだった。
今になってみれば、本当にあったことかどうかも、微妙に分からなくなっているけれど、自分にとっては、その先輩に関して、本当だと思っている事がある。
4階建ての校舎
中学校の鉄筋の校舎は4階建てで、その4階の窓から外を見た。
そうしたら、下に、その先輩がいた。
目があったら、「こんちわっす」みたいな大きめの声で、あいさつしないといけなくて、あいさつをしたら、「おお」と声を返してくれて、何を思ったのかよく分からないが、「ちょっと、そこで待ってて」と言われた。
階段を登って、ここまで来るのかと思ったら、壁に近づき、たぶん雨どいを支えるものをつかんだのか、いろいろなところを使ったのか、よく分からないのだけど、気がついたら、その先輩は、壁をつたって、校舎を登ってきて、4階の窓から入ってきた。
「よお」みたいなことを言われて、何か、用事らしきことを言われたのだけど、それよりも、普通に登ってきたことに、さすがに驚いていた。返事はして、そして、その話の内容も、そんなにすごく大事な用事だったような気はしなかった。
その後、その先輩は、また窓から出て行って、壁をつたって、下まで降りて行った。
窓からあいさつしたら、「じゃあな」みたいなことを言われて、普通に去っていった。
今、こうして書いていると、すごく嘘くさいのだけど、ずっと覚えているから、たぶん、本当のことなんだろうと思う。
はっきりしない記憶
そのあと、その先輩は、高校も推薦で入ったと思う。
1年生から、当たり前のようにレギュラーになり、気がついたら、インターハイに出ていた。
なんだか、すごい人の印象のままだった。
そのあとは、どのレベルまでやっていたのかは分からない。そして、例えば日本代表になるまでには、行かなかったと思う。だから、代表クラスは、どれだけ凄いのだろうとも思っていた。
今ほど情報がないせいもあるし、そういう情報が行き交う場所に、その頃の自分がいなかったせいもあるかもしれない。もしかしたら、その先輩は、途中でケガをしたのかもしれないし、サッカーがつまらなく思って、やめてしまったのかも、もう分からないまま、時間が長くたった
それでも、ごく普通に壁を登ってきた姿を見て、こんな人がいるんだ、と思った驚きみたいなものは、今も、覚えているし、だから、単純に驚かせたいだけで、そういうことをしてくれたのかもしれない、と思っている。
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