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アイスキャンディーが、落下した瞬間は見ていない。

 買い物に出かけようとして、その前に、配信の番組やイベントへの支払いがあって、近くのコンビニに寄った。

 駐車場は広めで、コンビニの入り口まで少し距離がある。

 自転車で、店舗のそばまで近づこうとしていたら、駐車場に親子らしき二人がいる。


アイスキャンディー

 小さい女の子は3歳から4歳くらいでまっすぐ立っている。

 男性は30代くらいでカジュアルな格好でしゃがんでいる。

 女の子の手には青い色をしたアイスキャンディーが握られていて、その子が一生懸命食べているのを、男性が少し下の視点からずっと見守っているようだった。

 ただ、今日は気温が30度を軽く超えている。

 おそらくガリガリくんのようなアイスキャンディーを外で食べていると、だんだん溶けてきてしまうから、下手をすると食べている途中で落としてしまうリスクがある。

 小さい女の子は、それほど早く食べられないだろうから、そのためか、父親らしき男性はじっと見守っているのかもしれない。

 その2人の姿を見ながら、コンビニの店内に入った。

 中は涼しい。

落下

 店員から、なんとなく急ぐことを促されるような声をかけられながら、でも、不快ではない程度に調整されていて、これも最新の接客技術なのだろうか、などと思いながらも、支払いの期限がきています、とメールが2通もきていたものの支払いが済んだので、少しスッキリする。

 そのあとは、アイスの新作などがないだろうか、と思ったり、カップラーメンは、私にとってはコンビニのものは「高額」になってしまったのだけど、最近はあまり行かなくなったあのお店のカップ麺もあるんだなどと思いながら、店を出る。

 自転車を出そうとして、駐車場を見たら、さっきの親子がまだいた。

 小さい女の子は固まったように動かず、視線を駐車場のアスファルトに向けていた。

 そこには、小さい青い三角形があったから、さっきのアイスが落ちてしまったのだろうと推測はできた。ただ、あの大きさだと、そんなに被害が大きいわけではなく、かなり食べて、そして、最後にまだひとかじり以上はある、と思ったあたりで落下したのではないか、などと想像した。

 全体の大きさでいったら、8分の1。氷山の一角のような割合。そして、アスファルトの上でも小さな氷山の青い頭のようにも見えた。

 父親らしき男性は、あいかわらずしゃがんで、その女の子の視線よりも低いところから、ずっと見守っている。ちょっと柔らかく笑ったような表情のままで、そういえば、私がコンビニに入る前から、ずっと同じ姿勢、同じ気配で、そこにいたはずだから、足が疲れないのだろうか、などと思った。

表情

 3歳か4歳の小さい女の子は無表情に見えたが、すごく悔しかったり悲しかったり怒りもあったかもしれない。でも、そうした感情を整理できないで、泣くこともできないで、ただ、まだ溶け切っていないアイスを見つめているようだった。

 私が自転車を出して、その横を通り過ぎて、駐車場から出ていく時も、その姿勢と表情は固まったように動かないままだった。

 そのあと、どうなったのかは気になってはいるけれど、お父さんがずっと見守っていたし、もしかしたら、状況によっては、また新しいアイスを買ったりするのだろうか、などと思っていた。

 私がコンビニで支払いなどをしているときに、そのアイスキャンディーは落下したはずだ。だから、そのとき、どんな表情や動きをしたのかは、見ていない。もしかしたら、男性は手を伸ばしたのかもしれないが、どちらにしてもアイスは灰色のアスファルトの上に落ちてしまった。

 あまり上品なことではないけれど、できたら、その瞬間も見たかった。その落下の時は、そこにいなかった。

 だから、当たり前だけど、アイスキャンディーが落下した瞬間は見ていない。



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