カスタマーセンターの「声の思い出」
何かを買うと、その裏などに、「お客様の声」を聞く連絡先が書いてあることが多い。それは、おそらくは「苦情受付け」が主な目的だと思うのだけど、数多く目にしながらも、そんなに電話をしたことはないが、かけた時の記憶は、かなりはっきりと残っている。
キャラメルコーン
どうしてそんなに好きなのかよく分からないのだけど、妻がかりんとうと、キャラメルコーンを買っていくと、喜んでくれる。さらには、キャラメルコーン(みたいな)お菓子もあるし、その方が微妙に安い時もあるのだけど、私には分からないような微妙な違いがあって、やっぱり、東ハトの「キャラメルコーン」に落ち着く。
私でさえ、中にあるピーナッツみたいなものも、どうして入っているのだろう、と思いながらも、袋の下の方に沈んでいる豆を食べると、他の場所で食べる豆よりも、おいしく感じる。
もう随分と昔になってしまったけれど、この「キャラメルコーン」を製造している東ハトが、倒産するのではないか、という噂が流れたことがあった。それは、後で考えれば、噂ではなく、本当のことでもあったのだけど、その時に、妻が少し不安そうな顔をして聞いてきた。
キャラメルコーンは、なくなるの?
会社というシステムには詳しくないし、倒産しても、また復活したり、バブル崩壊の後には、銀行には税金を投入して倒産しないようにしたり、と政治もからんできそうだから、会社がなくなる、といったことに関しては、よくイメージもできなかったし、正直、倒産したとしても、そこの商品が、どうなるか?分からなかった。
キャラメルコーンの裏には、確か「お客様相談センター」といった問い合わせ窓口があったので、そこにかけてみた。
すごく丁寧な声と言葉遣いと、電話の受話器を通してまで伝わってくるほどの気使いをしてくれる、担当の女性の方が電話に出てくれた。
そこで、話を始めた。
まずは、「苦情というより、問い合わせなんですけどいいですか?」みたいなことから話を始めて、「そちらの会社が、倒産と言われていて、もし、それが事実でもしょうがないと思いますけれど、そちらの商品の、キャラメルコーンは、食べられなくなってしまうんでしょうか?家族にファンがいて、そのことを心配しているのですけど…」。
すぐに返事がくる。それも、さっきよりも、明らかに声に力がこもっていた。
「いつも、ありがとうございます。
ご心配をおかけして、申し訳ありません。
キャラメルコーンは、これからも、心をこめて、美味しくなるよう、作り続けますので、なくなることは、ございません。
大丈夫でございます。
これからも、よろしくお願いいたします」。
そこには、感情までこもっているように思えた。そして、今でも、あの時のスタッフの方の言葉通り、ずっとおいしく食べ続けることができているから、どこかで約束を守ってくれた、という印象として残っている。
だけど、事実として、再建したとはいえ、民事再生法を申請したのだから、一度は倒産したらしい。その後、現在は、山崎パンの子会社になっているということなのだけど、それは、もし社員であったら、とんでもない出来事だと思う。
だから、あの頃、本当に倒産するかしないかの頃、“倒産するんですか?キャラメルコーンは大丈夫ですか?”というような、ある意味、のんきな電話をしてしまい、もしかしたら、スタッフ自身も不安だったのかもしれないから、イラつかせてしまった可能性もあるのに、あれだけ力強く肯定的なことを言ってもらえて、よく考えたら、今になってみると、ありがたいことだと思う。
マッキントッシュ
いろいろな個人的な事情があって、アップル社のマッキントッシュのコンピュータを使い続けている。自分のコンピュータースキルを考えたら、ある意味、もったいないのかもしれないけれど、1999年に「パワーブックG3」を購入して以来、何台か買い替えながら、比較的、大事に、1台当たり、長く使っていると思う。
スキルが低いぶんだけ、最初にマックを使ってしまうと、ウインドウズを使いこなすスキルまで、十分に身につけることができないままだったりする。
2019年に自分にとって、4台目のコンピューター「マックブックプロ」を買って、何年ぶりなので不安で、初めて「アップルストア」に行き、購入後の設定なども随分と力を貸してもらった。スタッフの方々は、普段はあまり会わないような、インターナショナルスクールってもしかしたら、こんな感じなのかな?と思いうような印象で、こんなに「コンピューター弱者」なのに、こちらが恐縮するほど丁寧に対応してもらった。
そのあと、帰宅してからも、うまくいかないことが多く、テクニカル部門へ問い合わせをして、いろいろと聞いて、苦戦しながらも、何とか設定を進めて、今までのようにインターネットも使えるようになって、やっぱり安心した。
それから、確か電話がかかってきた。
それは、アップル社の対応などに関するアンケートのような内容だった。
こちらとしては、何の文句もなかったから、そのように伝えた。
「最後に、何か、ご要望はありますか?」
そんなことを聞かれたので、ふと、思い出したことを、伝えた。
「スキルが低いながらも、もう20年マックを使ってきました。スリープにした時に、小さいランプが寝息のように、明るくなったり、暗くなったりを繰り返したりしていました。それは、最初は、なんだかな、と思いながらも、使い続けると、愛着がわくことでした。
たぶん、機能的にはムダなのだと思います。
それに、起動させるときに『ジャーン』という音がして、それは、なんというか、がんばるぞ、というか、起きたよ、というようなサインにも思えていたのですが、今回、何年かぶりに買い替えたら、ただ音もなく起動するようになっていました。
それに、さっき言ったスリープでのランプが緩やかに明暗を変える、みたいなことも一切なくなるというか、そもそもそんなランプはなくなっていました。
だけど、これは古い発想なのかもしれませんが、それにコンピューターの能力を生かせるようなユーザーではないので、説得力に欠けるとも思うのですが、こういうムダと思えるようなことが、マックらしさにつながっていたんだ、と無くなったことで気がつきました。
無理とは思いながらも、また何かしらの形で復活できたら、嬉しいと思います」。
電話の向こうで、これまで丁寧でありながらもクールな対応に徹していた、おそらくは若い男性スタッフの声に、少し感情がこもり、微妙にゆるみ、私が話した内容に、同意してくれるようなことを言ってくれたのが、意外だった。それは、こちらの勘違いかもしれないけれど、「あのマックらしさ」が共有できたようで嬉しかった。
2019年にマックを買い替えてから、少し驚いたのは、OSのアップデートが、以前よりも、かなり頻繁になったことだった。
そして、何回目かのアップデートのあと、起動をしたら、あの「ジャーン」が蘇っていた。
アップルのスタッフの声を思い出し、自分の意見が生かされたわけでもないのだろうけど、ただ、同じようなことを感じていた人が多かったのかもしれない、と思うと、やっぱりうれしかった。
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#OS #アップデート