「弓指寛治“饗宴”」(~2023.3.21)------- 「今も、そこにある生活と思いと志」。
弓指寛治(ゆみさし かんじ)というアーティストは、ここ数年でも、特に、独自で優れている存在だと思う。
作品を発表するたびに、今の時代に、絵画を中心にして、しかも、その画風は、個性がはっきりしていて、変わりないように見えるのに、その扱うテーマや、展示の方法が、いつも新しく、それでいて、常に人間の基本から目を逸らしていないようにも見える。
最初に、その作品を見たのが2017年で、その時に作者として、作品の話をしてくれたときの、気持ちが真っ直ぐに伝わってくる視線の印象が強かったことは、おそらく忘れないと思う。
岡本太郎現代芸術賞
そして、2018年に、弓指が受賞したのが「岡本敏子賞」だった。
その受賞の縁もあって、それから、何回か岡本太郎記念館で、作品を展示する機会があった弓指が、今回は、岡本太郎の養女であった岡本敏子の視点を重視した展覧会を開くことになった。
そのチラシには、岡本太郎がベッドで、うたた寝をしているようなリラックスした姿で、それは、もちろん弓指の創作でもあるのだけど、その力が抜けた姿の絵画は、見たことがなく、でも、魅力的な作品だと思った。
テレビの映像
その展覧会「饗宴」は、岡本太郎記念館で、2022年の11月から、2023年の3月までの期間になっていて、約4ヶ月もあるから、これだけの時間があれば、いつでも見に行けるような気持ちになっていた。
だけど、なかなか行けなかった。
新型コロナウイルスの感染状況が拡大していたりしたこともあって、青山という都心部に出かけることに気持ちが引けていたのだけど、会期終了間際になって、やっと行くことができそうだった。
テレビの番組で、この展覧会を紹介するコーナーがあった。
太郎と敏子の二人の生活の絵画だけではなく、岡本太郎の死後、行方不明になっていた「明日の神話」がメキシコで発見され、それを日本に移動し、修復し、現在は渋谷駅に設置されているのだけど、その発見から修復に至る部分を作品化した映像も初めて見て、その展示方法がすごくて、余計に見たい思いが強くなった。
弓指寛治“饗宴”
やっと行けたのが、会期終了間際だった。
表参道の駅で降りて、ハイブランドのカッコ良すぎる建物などを見ながら、岡本太郎記念館まで歩く。
何度か来ているのだけど、毎回、微妙に迷いそうになる。
2階が展示室になっている。
平日なのに、人が多いのは、もうすぐ展覧会が終わってしまうからだと思う。
最初の展示室は、人が多かったので、最初に、「明日の神話」の壁画の部屋へ行く。
入り口には、岡本敏子が、「明日の神話」を「確認」したときを、絵画にした作品が飾られていた。
「明日の神話」
「明日の神話」は、1960年代末、メキシコで製作され、ホテルに飾られるはずだったのが、そのホテルが倒産し、その壁画自体が、どこかへ行ってしまった。それが見つかったのが、2000年代になってからで、そこから、メキシコから運搬するために解体、そして修復し、最終的に今の渋谷駅に設置されたのが、2008年だった。
その作業中に、どんな小さなかけらでも、全部、集めて、持っていった、ということを表すために、弓指は、そのカケラのすべてを一つずつ、一枚の小さな紙に描き、その数えきれないカケラの絵を、展示室いっぱいに展示することで、その膨大さを表した。
それは、執念といった個人的な気持ちではなく、志といっていい、もっと大きな思いであったことが、展示室からあふれるほどの作品の数で、伝わってくるように思った。
そして、絵と、短い言葉が紙に書かれて、そのことで、その壁画の修復途中に、岡本敏子が亡くなった時までが表現されている。
それは、その事実を知ってはいたものの、再体験したような気持ちになった。
「思い」と「生活」
最初の展示室に戻った。そこには、岡本太郎の作品と一緒に、岡本敏子が、岡本太郎と知り合ってからのことが、作品化されていた。
それも、岡本敏子から岡本太郎がどう見えているか、生活が伝わる作品が並んでいる。
スキーの時の話。寝ている岡本太郎。晩年、パーキンソンになってしまった岡本太郎。
どれも、なんとも言えないあたたかさと、二人の関係の強さのようなものが伝わってくるような作品だった。
ここに生活があったと思った。
一階も、いつものように見て回り、庭にも立体作品が並んでいるので、そこで、少しゆっくりして、天気もいいし、気持ちがいいと思いながら、記念館を去った。
弓指寛治の展示は、いつものように絵画を中心としながら、その空間も生かしつつ、とてもシンプルな技法を使いながら、新鮮に思えた。
妻と一緒に、来られてよかった。
(弓指氏と中森明夫氏の対談が載っています↓)。
(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。
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