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雪を待つ気持ちは、すぐに忘れてしまいそうになる。

 そういえば、今年の冬は雪が降っていないかもしれない。

 それは、当たり前のように雪が降っていて、それに伴う大変さと暮らしている方々にとっては、どこか腹が立つような感覚かもしれないと思いながらも、冬でも雪があまり降らない関東地方南部に暮らしている人間にとっては、つい思ってしまうことだった。


天気予報

 それでも、天候は人間がどうこうできるものではないので、もしかしたら、雪は降らないまま春になるかもしれない。

 そういうことを思ってる頃に、関東の南部でも雪が降るかもしれない、という天気予報を知った。それも、今年の最強寒波、といった強めの表現とともに伝えられた。

雪を待つ気持ち

 それは、日曜日で、出かける用事もなかったから、かなり気楽な立場の発想だと思う。たとえば交通関係の仕事であれば、特に関東の都市部は、とても雪に弱く、積雪があったら、とたんに重大な影響が及んでしまうので、雪に対して、もっと厳しい見方になると思う。

 だけど、とても勝手な気持ちだけど、そんな天気予報を見て、雪を待つ気持ちになってしまった。

 雨が降っていると思っていたら、気がつくと、周囲の音が消えていくような気配に外を見ると、雪が降り始めていて、いつも見慣れた茶色の庭が白く、なだらかなカーブで覆われた平面に変わっていく。

 そんな光景を、おそらくは冬のたびに一度は見てきたように思う。

 雪の少ない地域に住む人間にとっては、日常とは違う特別な光景で、本当にたまにしか見られないので、雪を待ってしまう気持ちになっていた。

 それは期待に近い思いで、子どもの時の記憶ともつながるものだったが、普段は、ほとんど抱かない感覚だった。

雪の光景

 空が独特の灰色になって、そして、雪が降り始める。

 上を見たら、雨のときには気がつきにくいけれど、とても高くて、その最初が見えないくらい上空から、雪が降ってくるというよりは、落ちてくる。それも本当に限りなく、白い物体が落ちてくるが、それは、とても軽いものだから、怖さはあまり感じない。落下物は、柔らかい雪になって、そして、地面に落ちて積もっていく。

 そして、いつの間にか、白さに覆われてくる。

 普段はおとなしいから、外から見たら感情の変化が、それほどわからない子どもだったけれど、その雪の光景だけで、すでにちょっとはしゃいでいた。だから、住宅の裏のすきまのようなところに空き地があって、枯れたススキがそのままになっているけれど、そこも見えなくなるほどに雪が降ったときは、まだ誰もそこにいく前、きれいな状態の積雪のときに、張り切った気持ちでゴムの長靴を履いて、家を出た。

 白くてきれいで、いつも知っている場所が、いつもとは違っていることが、なんだか嬉しくて、そして、積もった雪の場所を歩いて、自分の足跡をつけていくのが、なんだか楽しかった。

 そんな経験をすると、そのあとに雪が溶けて、いつものようになってしまっても、雪が降るかもしれない、という天気予報が出ると、またあの時の感触が味わえるのではないか、という期待が勝手に高まって、それが雪を待つ気持ちになる。

 それは、少しだけ世界が変わることを願っていることに近いのだろうか。

 雪が多い地域に住んだことはないので、そんな気楽なことを言っていられるとは思うのだけど、それでも、そんな柔らかくふくらむ期待は、予報通りに行かなくて、雪が降らないとわかると、あっという間に溶けるように、どこかへ行ってしまい、その思いを持っていたこと自体を忘れてしまう。

 そして春になる、の繰り返しは経験してきた。

雪を待つ気持ちは長持ちしない

 今回の冬では、住んでいる地域では初めて、雪の予報が出て、雪を待つ気持ちが、ちょっとふくらんでくるのを感じていた。

 日曜日で、出かけなくてもいいし、洗濯物は乾いているから、洗濯は次の日でも大丈夫だし、買い物も、前日までにしたし、だから家にいて、雪が降るのを眺められる。

 もう外へ出て、足跡をつけたりもしないし、雪だるまをつくったりもしないけれど、でも、明日になったら積雪していたら小さい雪だるまは制作するかもしれないけれど、それでも、いつもと違う光景が見られること自体に、ちょっと期待が高まっていたのかもしれない。

 日曜日に起きたら、雨だった。

 みぞれにもならないし、雪でもない。

 重い音が響いていて、そして、午後になったら雨も止んだ。

 もう雪は降らない。

 ちょっといつもと違う気持ちになっていたけれど、これで完全に通常モードになって、さっきまでの少し柔らかい期待のようなものは、もうどこかへ行ってしまった。

 少し買い物があって、外へ出た。

 空はまだ暗い。
 
 空気が冷たいけれど、湿っていて、少しだけ、ざらっとしているようで、いつもと違う感触だった。確かに、雪の気配はそこまで来ていたのだと感じた。

 それでも、こうして書いておかないと、雪を待つ気持ちになったこと自体も、すぐに忘れてしまいそうだと思った。





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おちまこと
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