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大谷翔平と、AIの時代

 今年も、オリンピックのとき以外は、大谷翔平の姿や活躍や名前を見続けることになった。

 普通にプレーしているようで、明らかにすごい。

 それでも、ただテレビなどで見ている人間にはわからないような負担があるのだろうから、手術が必要になり、だから、2024年は、ピッチャーもバッターもする「二刀流」と言われるプレーではなく、D Hというバッターだけに専念するスタイルでシーズンを送っていた。

 だから、見ている方は、リハビリをしながら、注意深くプレーをするのだろうか、といったことを思っていた。


大谷翔平の盗塁

 だけど、大谷翔平というプレーヤーは、手術後を感じさせない活躍を始めた。

 バッターとしてヒットを打ち、ホームランを数多く打ち始める。

 さらに、それだけではなく、ヒットで塁に出ると、盗塁の数も重ねていた。

 身長が190センチを超え、体重も100キロくらい。

 個人的な印象としては、もう少し体重を増やせば、アメリカンフットボールのラインと言われる最前線で体を張るようなポジションのプレーヤーの身長と体重の数字だと思う。

 だから、さらに勝手な印象だけど、それほど足が速いという感じがしなかったのだけど、大谷は盗塁がうまかった。走る速さも、想像以上にあるらしい。大きい人間ほど、速さがわかりにくい傾向はあるのだけど、何しろ盗塁の成功率が高かった。

 考えたら、ペースボールというスポーツに、盗塁というプレーが許されている、というのはすごいことだと思う。投げる、打つ、守る。それに盗塁がプラスされることで、プレーの緊張感のようなものがフィールドに漂う機会が多くなる。

 ヒットを打って、1塁ベースにいるプレーヤーが、次の2塁まで「勝手に」進むのが盗塁だから、ピッチャーやキャッチャーは当然ながら、それをさせたくない。だから、ピッチャーはバッターだけではなく、一塁にいるプレーヤーにも気を配る。

 ヒットを打って、走者となったプレーヤーは、1塁ベースを離れて、2塁へ近づこうとするリードといわれる動きを見せて、ピッチャーが一塁手のボールを投げる時は、1塁ベースに戻らないと、アウトになってしまう。だけど、できるだけリードを大きく取って2塁に近づいておけば、盗塁の確率は上がる。

 そんな駆け引きを含んだ緊張感が続くのが、盗塁がうまいプレーヤーが一塁にいるときの、ベースボールのフィールドだった。

 だけど、試合全部を見ていないから、間違った見方かもしれないけれど、大谷はリードをして体を動かして、ピッチャーに意識させる、ということもあまりなく、急に走り出すように見える。ピッチャーはバッターにボールを投げ、それを受けたキャッチャーは、急いで2塁にボールを投げる。

 大谷は2塁ベースに滑り込んでいる。

 それは、ギリギリの緊迫感というよりも、テレビ視聴者の印象としては、あっさりと盗塁を決めるように見える。

 成功率は90パーセントを超えているから、ほとんど盗塁を決めているようだ。

 まるで、ピッチャーの気持ちをわかっているかのように、無駄なくためらいなく、走り始めているように見える。

 そうやって、盗塁の数を重ねていった。

大谷翔平のホームラン

 大谷翔平のホームランは、日常的に見える。

 細かい技術的なことも、もちろんわからないのだけど、時速160キロくらいで投げ込んでくるボールを(時には曲がったりするのに)、バットという棒でとらえて、はじき返す。当てるだけでも、人間の能力の極致という感じがするのだけど、そのボールを100メートル以上遠くまで飛ばさないと、ホームランにならない。

 
 世界中から集まってくるアスリートがいて、その中で活躍できる日本のプレーヤーがいるのがイメージできない時代は長かった。そんなことを忘れさせるくらい、大谷は、メジャーリーグという場所で、バッターとして、バットを振って、ホームランを量産している。

 それは、とにかくボールにバットを当てて、飛ばす、というシンプルな作業を繰り返しているようにさえ視聴者には見えるし、そのバットを振るスピードが、安直な表現だけど、ものすごく速い。だから、そのバットの持っているエネルギーがとんでもないから、当たれば遠くまで飛ぶ。

 それは、何の不思議もないことに見えるけれど、誰もマネができないことで、だけど、自然に見える。

 凄さがわかりやすいけれど、誰もできない。

 それは、すごくシンプルなスイングを誰よりも速く繰り返して、とんでもないプレーをしていたゴルフのタイガー・ウッズのイメージと勝手に重なっていた。

 そして、D Hに専念した大谷はホームランの量産を続けた。

 ホームランを打って、ヒットの時は盗塁する。とても失礼な発想だけど、大谷にとっては、守備をしないのだから、そのくらいの運動量をこなさないと、疲れなくて、よく眠れないのではないか、と思えるくらい、打って、走っていた。

 そして、ホームランと、盗塁の数を表す「40―40」を達成するのかどうか、というような話をテレビのコメンテーターがしていたと思ったら、そのうちに「50―50」という、メジャーリーグでも、誰も達成していない記録に届くのだろうか、というような思いで視聴者もいたら、1試合で3本のホームランを打つという、予想もできない形で記録を達成した。

AIの時代

 そのあとのテレビ画面では、しばらく、ずっと、大谷翔平のことを扱っていた。

 明らかにファンである一般の女性が、インタビューに答えていた。

 ----もうすごくて、人間じゃなくてAIかと思うくらい。

 もう少し前の時代、といっても10年ほど前だったら、こうした時に出てくる単語はAIではなくて、サイボーグだったと思う。

 肉体の一部をマシンにして、人間では不可能なパフォーマンスをする。それがサイボーグのイメージだから、今の大谷翔平の凄さを例えるとしたら、その方が適切なはずだ。

 というよりも、今の時点でも、身体的な動きに関しては、AIがそれほど優れた能力があるかどうか、よくわからないけれど、でも、その女性の発言が間違っているというようなことを指摘したいわけではなく、今は、優れた働きをする象徴が全部AIに移った、ということだと思った。

 これから、そのことはさらに加速していくのだろう。

 確かに、すごいアスリートは、脳の機能が優れているのも事実だろうから、同じ身体的機能であっても、動きを指示する部分がAIによって制御されたら、それもちょっと怖い話ではあるけれど、同じ肉体的な能力であったら、おそらくはより優れたパフォーマンスが可能になるはずだ。

 そんなことまで、大谷翔平の活躍は考えさせてくれた。




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おちまこと
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