ボンバーマンの憂鬱
ボンバーマンは壁を壊す。
普段はおどけて「なーなー。」と話しかけてきては、ゾンビやゲームのキャラクターのモノマネをしたり、ネットで流行っているものの話をしたりしているが、急に些細なことに腹を立てて壁を叩く。
しばらくするとケロッとして、可愛らしい声を出したり、手を触りに来たりしするが、些細なことで、それこそ「きー!」と言わんばかりに急に怒る。
しかし、人に対して直接危害は加えない。
壊さないでと言われている物は壊さない。
タッチはあくまでソフトで、ちょっとかすっただけでも「あ、ごめん。」と謝ってきたりする。
本当はみんなと一緒に遊びたいが、うまくコミュニケーションが取れない。
自分の言いたいことがうまく表現できないからだ。
彼の言いたいことが表現出来ない理由は複数である可能性がある。
まずは記憶の問題。
ワーキングメモリーに言いたいことが定着しない。
そして転動性の注意の問題。
周囲の話し声や音に反応してしまい、注意がそっちに行ってしまう。
聴覚における図知弁別の問題。
脳に元々備わったノイズキャンセラーの障害で全ての音がフラットに聞こえてしまい、不必要なものを排除できない。
ざわざわした環境だと情報が過多となり、無量空所の様に意識が情報に押し流される。
それはもはや自分が言いたいこと、言うべきことが何かわからない状態であり、仮に分かっていたとしても、そんな事を言って良いのか分からない状態なのかも知れない。
グルーガンで手を火傷しても我慢しないといけないと思っているし、こう言う時はこう言ったら良いと言っても、そんな事出来ないと言う。
壁を壊しても、別にみんなは遊んでくれない。
自分のイライラを誰かにぶつけているだけだ。
「無人島に行って1人で暮らしたい」
そんなこと出来ないのに、壁のある生活から抜け出したいと言う。
周りの全てが自分の「自由」を妨げる、障害に思えるのだろう。
息苦しさや、閉塞感を感じているのだろう。
ゲームの中のボンバーマンはいつも誰かと戦っていて、壁がなくなったら最後、純粋な力比べが始まってしまう。
しかし勝ったと思っても次の瞬間にはまた狭い壁の中に閉じ込められて、新たな敵が現れる。
戦いに終わりはなく、そのゲームを続ける以上、周りは爆弾男だらけだ。
「あーイライラする。どこに行っても、人が多すぎる!」
そう言って今日もボンバーマンは壁を叩いているが、周りに誰もいなくなった時、それでも1人でボンバーマンは壁を破壊するのだろうか?
(お話のモデルになっている人の年齢や性別や設定は個人情報に配慮してあえて創作を加え、実際の情報とは変えてあります。)