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〇〇と僕『か』~母ちゃんと僕~

僕の母ちゃんはこわい。

必殺技は雷を思わせる電光石火のメガトンげんこつ。
1発くらえば目から閃光が飛び出し、2発くらえば耳から煙。
3発くらえば天地がひっくり返り、4発くらえば血液が逆流する。

お菓子をこっそり食べてげんこつ。
ゲームの時間を守らずげんこつ。
宿題の日記の日付を誤魔化してげんこつ。
ピーマンを吐き出してげんこつ。
テスト用紙の字がきたないとげんこつ。
クソババアと言ってげんこつ。

そう、その通り。
基本的には僕が悪い。
そんで、星の数ほどのげんこつをくらったが、それでもヘラヘラ生きてきた。
怒られてんのになにヘラヘラしてんだ!ってげんこつ。
そんな中、母ちゃんを最も怒らせたのは、僕、22歳。
大学卒業を間近に控えた、ある冬の日だった。


バンド活動にのめり込みさっぱり実家に帰っていなかったからね、卒業前に可愛い息子の顔でも見せておこうかね。
って2月、雪に埋もれた実家へ。

「ただいまー!」
「しゅんすけ、座りなさい。」
「……。はい。」
「就職は?」
「……。」
「大丈夫だとは思うけど、もし音楽やるなんて言い出したら、産まなかったことにするからね。」

窓に吹き付ける凍てついた2月の風よりも冷たい声で発せられた、まさかの殺害予告。
母ちゃんは、僕が就職せず音楽を続けようと思っていることを、完全に勘づいている。
こりゃあ困った。
とほほ。
しかし、真正面から戦いを挑んで勝てる見込みは限りなくゼロに近い。
万が一かわし損ねたメガトンげんこつをくらってしまったら、そこでチェックメイト。
となれば、音楽への情熱を熱く語り説得するしかないのか。
いや、無理だ。
フォークソング世代の母ちゃん、エレキギターは不良の持ち物だと信じている。
こうなりゃ、逃げるが勝ちよ。
フハハハハ!


ってな訳で札幌に帰る日。
「お母様、帰ります。」
「就職決まったら連絡するように。」
「……。」
「返事は?」
そこで僕は気付かれないように少し腰を浮かせ、よし、逃走準備完了。
早口で、「僕バンドやる!じゃ!」
言い終えるやいなや、逃走開始。
「待てぇー、クソガキー!!」
髪を逆立て立ちはだかる母ちゃんをヒラリとかわし、玄関へまっしぐら。
間一髪のところで逃走は成功。
僕は降りしきる雪をかき分け、振り返ることなく駅まで走り続けた。


そんで、がむしゃらに歌い続けた。

当時札幌では、年に4回開かれる、テレビ局主催の大きなライブがあった。
ライブの様子は後日テレビ放送。
出演者は、すでにデビューしている東京のバンド3組と、札幌のバンド1組。
その1組に選ばれるためには、うじゃうじゃいるバンドの中で人気・実力共に頭ひとつ抜け出さなければならない。
テレビに出りゃあ、母ちゃんもちょっとはわかってくれるだろうよ。
まずはそのライブに出演することを目指し、狭くて煙草くさいライブハウスで歌い続けた。

そんで数年後、故郷倶知安町のライブハウスからお呼ばれ。
それを知った母ちゃん、
「メンバー全員でうちに来なさい。」
なるほど、4人まとめて葬るつもりか。
やれるもんならやってみろ。
フハハハハ!

んで当日、リハーサルを終え家へ。
待っていたのはニコニコ母ちゃんとテーブルを埋め尽くす手料理。
ど、毒か?
メンバーが美味い美味いと食べるのを確認してから、僕も食べた。
「美味い!」

んで食べ終わり、何の気なしにテレビのリモコンをいじっていたら、録画履歴の画面を見付けた。
母ちゃんが大好きな韓ドラに混じって、例のライブの映像がいくつも。
「これあのバンドが出た時のだ!これはあのバンドの時だ!」
なんてメンバー4人でワイワイやってたら、いつの間にか背後に母ちゃん。
「まったく、アンタらはいつ出るんだか。」
ち、ち、ちくしょー!!

そんでまた、がむしゃらに歌い続けた。

その1年後。
ついに目標にしていたライブに出演することが出来た。
いつも歌っているライブハウスより遥かにデカいステージ。
お客さんの数も、いつもとは桁が違う。震える手で演奏開始。
ドラムがリズムを刻み始めると、手を挙げて飛び跳ねるお客さん。
見よ、母ちゃん。
バカ息子の書いた曲が、いまこれだけの人を動かしているのだ。
フハハハハ!

そんで後日、テレビ放送を見た母ちゃんから電話。
「見たよ。」
「ありがとうございます。」
「あんた、ボーカルだったんだね。」
って、オイッ!!!

その後も僕は歌い続けた。
そんな中、あるギタリストと出会った。
指に根性焼きのような火傷の跡が。
「昔、ワルかったんですか?」
「ああ、この火傷ね。音楽やるって親に言った時、ギター弾けなくしてやるってやられたんだ。」
「……。」

冒頭の言葉を訂正しよう。
僕の母ちゃんは優しい。

『Lostage / 手紙』を聞きながら
FJALLRAVEN by 3NITY TOKYO  池守


『〇〇と僕』←過去の記事はこちらからお読みいただけます!是非!    


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