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【ショートショート】白蛇
新婚旅行を兼ねた正月休みの旅行で、初日の出を見るために俺と妻は山を登っていた。しかし途中で遭難し、気がついた時には見たことのない神社の境内にいた。そしてこの世のものとは思えない、人を悠々と丸呑みできるほどの、巨大な白蛇に睨まれていた。
「あ、あなた……」
「だ、大丈夫だ。刺激しないように、ゆっくりと後ろに下がろう」
俺達は少しずつ、本当に少しずつ、後ろに下がっていった。しかしこの巨大な白蛇も眼を細めながら、のろり、のろり、と確実に前を詰めてきた。
「もうダメだわ。私達ここで終わりなのよ」
「馬鹿なことを言うな。俺が合図するから、その隙に逃げるんだ。いいな」
「わ、わかったわ」
「よし、今だ!」
白蛇の瞬きに合わせて俺達は走り出した。しかしあっという間に先回りされ、その美しい巨体を素早く動かし、俺達の周囲を素早く体で取り囲んだ。
「シャー!」
双鞭の舌を出して白蛇が威嚇してきた。一瞬でも気を抜いたらすぐに食らいつくという気迫が恐怖となって俺達に襲い掛かる。そしていよいよ白蛇の巨大な口が、上手そうな獲物に我慢できない透明なよだれをだらだらと延ばしながら、ゆっくりと開いた。
ああ、ここで終わりか。
そう覚悟した俺は、力強く妻を抱きしめ、眼を閉じた。
その時どこからともなく人の声がした。
「やはり人間だったか……」
ハッとなった俺は目を見開いた。声の主は、なんと目の前の白蛇だった。
「二千年以上生きてると、なかなか目が合わなくなるな。まったく困ったものだ」
これは現実なのだろうか。巨大な白蛇が流暢に人の言葉を話している。
「あ、あなたは一体……」
「いやはや失礼。私はここの土地神だ」
「俺達を……く、食うのですか」
「すまないが私にも好みがある。人間は筋張っててな、あまり私の好みではない。だからお前たちは食わない。それよりも、よくここに辿り着いたな」
「じ、実は山を登ってたら途中で道に迷ってしまって……気がついたらここに」
「なるほどそういうことか。ならこの境内の階段を真っすぐ降りて北に行くがいい。きっと現実の道に戻れるはずだ。念のため、これを持っていけ」
白蛇が白い鱗のようなものを渡してきた。
「それを持っていればこれから先、どんな道にも迷うことはないだろう」
「あ、ありがとうございます」
「礼には及ばん。これからも末永く幸せに暮らすのだぞ」
そういって白蛇はにっこりと笑い、するりと山に消えて行った。
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