データサイエンス×野球 中日ドラゴンズ編
先日は中日ドラゴンズ(球団)についての記事を書いたが、今回はいちデータサイエンティストとしてとても気になる内容があったので、本日は中日ドラゴンズファンに希望を持たせるような記事を書こうと思う。
先日の記事
中日ドラゴンズの成績の上がった理由を考える
今年はイレギュラーな日程ではあったが、中日ドラゴンズは8年ぶりのAクラス(3位)へと返り咲いた。
CSが今年はなかったため、優勝できなければ全部一緒という意見もあるが、まずは目に見えて成績が伸びたというところだ。
そして、成績の上がった理由として真っ先に上がるのが大野雄大投手ではないのか。去年もタイトル(最優秀防御率)は持っていたものの、今年はさらに複数タイトルを獲得し(最優秀防御率・最優秀奪三振奪取)、さらには沢村賞も獲得した。
ただ、それだけではないはずだ。祖父江投手・福投手の最優秀中継ぎ、木下捕手のレギュラー定着など様々あるが、とにかく投手(およびバッテリー)の飛躍、というのがでかかったのではないか。
ではそれはなぜか?データサイエンティストとして面白い取り組みを発見したのでそれを紹介したいと思う。
中日ドラゴンズは実は2018年から本格的なデータアナリティクスに取り組んでいた!
私も知らなかったのだが、中日ドラゴンズは2018年から株式会社ネクストベースという会社に依頼をしてトラッキングデータ分析などの投手のデータ分析を行っていたのである。
リリース記事
そして、翌年の2019年から投手の強化を図ることに成功している。
リリース記事
私は以前から横浜DeNAベイスターズが社内でデータサイエンティストを雇い、トラッキングデータを始めとするデータ分析を行い、現場で利活用していたのは知っていた。(ラミレス前監督のデータに基づく采配がまさにそれである。)
だが、中日ドラゴンズが外部委託とは言え、ここまで細かい分析をしていたのを知らなかったのだ。
そして何より、ここまで如実にデータ分析で結果を出している例というのを現場でも中々みたことがなかったので(自分が結果を出すのが厳しい世界にいたからというのもあったが)、これは面白いと思ってネクストベース社の取り組みをもう少し調査してみることにした。
今年の成績を去年と比較してみる
とりあえず、まずは今年の成績を去年と比較してみよう。
とはいっても、去年は143試合、今年は120試合、しかもシーズンスタートが大きくずれているなど様々な要因も絡んでくるため、あくまで参考程度にみてほしい。
なお、投球回は40回以上としている。理由は、中継ぎ投手や抑え投手もひっくるめて総合的にみたいからである。
20回では物足りない感じがしたので、とりあえず40回を区切りとした。
ちなみに参考にしたサイトはSPAIAというサイトである。
【投手の個人成績上位10名(2019年・投球回40回以上)】
2019年は阪神の中継ぎ陣が目覚ましい活躍をしているのが際立つ。福投手も食い込んではいるが、阪神の投手と比べると惜しいところがある。
大野投手も入ってはいるが、そもそも2019年自体、打高投低というのもあり、このような成績である。(とはいっても先発投手で防御率3以下であれば相当いいとは言えるが。)
【投手の個人成績上位10名(2020年・投球回40回以上)】
!!!
なんと上位3名が全員中日ドラゴンズの投手である。
しかも、先発・中継ぎ・抑えで独占をしてしまっている。
今年は去年に比べて投高打低の傾向があり、先発投手のランクインが目立つがその中でも、全ポジションの投手が上位3位を占めてしまうのがすごいといえる。一部投手においてはきっちり自分の役目を果たしたというのは良く分かる。
【中日ドラゴンズの勝率】
一目瞭然だし、ファンなら自明ではあるが年々伸びている。
特にデータ分析の外部委託を始めた2018年以降、特に勝率が伸びていることが分かる。
ここまで如実に結果が出てくると、データ分析の意味はとてもあったと言えるのは明白である。私がもしもデータサイエンティストならやりがいがありすぎて、楽しいレベルになる。
次は、そんな成績を伸ばしたデータ分析の取り組みについて紹介したい。
実際に行っているデータ分析の取り組み - BACSとは
実際の内容は下記リンクにも載せるがBACSとはこのような内容である。
野球選手や指導者のために開発された、データ分析システムです。BACSは、指導現場で使われる感覚的な言葉を「可視化」=「数値化」することで、選手とコーチに共通言語をもたらします。これまで両者間に生じていたかもしれない感覚のズレを、BACSのデータが補います。BACSは、選手のパフォーマンス向上へのデータ活用のみならず、コンディショニング管理や怪我の予防、チーム編成にも役立てていただける分析ツールです。
これまで、感覚だけでやってきたものをできる限り数値化して可視化をし、選手とコーチ間で共通認識をもたらす。というものである。
よく、普通の会社でも現場の歴が長い人間と浅い人間で、感覚的なことだけを伝えて具体的なことがあやふやなままプロジェクトが進むというのはよくある話だが、そんな齟齬を無くすためにできた分析ツールだといえる。
これにより選手とコーチで認識の乖離がなくなり、課題解決が明確になっていくといえる。
また、データ活用もパフォーマンスだけにこだわらず、コンディショニング管理や怪我の予防などの選手のメンテナンスに関する部分、例えば先発投手を引っ張るか中継ぎをどのように使うかなどのチーム編成にも役に立てるという。
ここまでいけば、チームにおける課題の大体をデータ活用で網羅できるという感じである。
でも、なぜここまで現場に踏み込むことができるのか?
ネクストベース社の人材や組織が現場に寄り添える形になっているのが一番の要因といえる。
そもそも代表取締役の中尾さんが立教大学野球部出身でその後IT系の企画営業、取締役の木下さんが慶応大学野球部でベストナイン2度受賞のちにアスリートのサポートなど、もう一人の取締役の神事さんが体育学の博士をとっており、投球動作のバイオメカニクス的分析などを研究テーマに取り組んでいた。
このように、スポーツ×ITに精通している人材がいるおかげで、より現場に寄り添えるアプローチになっていると言える。
また、採用についても、スポーツに精通しているIT技術者、またはAIに精通している技術者に絞っていることから、社内で現場に近くかつITも分かる人達とAIに精通する人達で連携をとってよりデータサイエンス方面で深いサポートをしていることがうかがえる。
データサイエンティストの課題解決はいかに現場に寄り添えることが大事であり、単に技術を持っているだけでは結局現場のことをわかってくれない、ということになってしまう。その点をネクストベース社はカバーしており、より品質の高い技術アプローチができていると言える。
これは今後データサイエンス分野で起業するとなったときにも、大きなヒントになる。やはり、分野分野でそれぞれ癖があるので、技術だけでなくその業界にいかに精通をしてビジネス展開していくかも大事といえる。
投手にアプローチしているのは分かったが、野手はどうなの?
ネクストベース社では中日ドラゴンズの投手について強化サポートをしているとリリース記事にもあったが、野手に対してはどうすればいいのか?
考えられることを挙げてみる。
※ただし、野手にもデータを展開できるという前提でお話する。できない場合はこれらはできない、ということになる。
①相手投手の傾向分析に使う
他の球団の選手のデータも取っているならこの手法がとれると思うが、実際のところは分からない。
②味方の投手のピッチング傾向を把握し、守備位置の参考にする
味方がゴロP型なのかフライP型なのか三振量産型なのかによって守備の位置を意識しなければいけないので、データから判断して守備位置を参考にすることができる。
もしかしたら、昨年ゴールデングラブ賞が量産していた理由がこれならば、野手にもデータ展開している可能性があると言えるが、確信はできない。
③野手にも投手と同様に手深いアプローチをする
これが一番いいと思う。ただ、今年も投手強化のみのサポートだと仮定したら、来年できたとしても来年1年はデータ利活用の流れを把握する準備期間で終わってしまう。もしも本格的に成果が表れるなら再来年以降になってしまう。
でも来年優勝のためには、野手もデータ利活用をしたい! → キーマンは郡司捕手!
ネクストベース社で提供している「baseball Geeks」に郡司捕手のインタビューが載っていた。
インタビュー内容を抜粋してみる。
キャッチャーというポジションなので、ピッチャーや周りから信頼されなければいけないと思います。そのために配球一つ一つに根拠を持って説明できるようなキャッチャーじゃないといけないと思います。まずデータなんかをうまく使いながら、「今時なキャッチャー」になって、チームを勝たせたいです。
あと、僕はバッティングはまた別と考えています。キャッチャーだからバッティングは二の次ではなくて、どっちも両立しながらクリーンナップを打つぐらいの気持ちでやれればなと思います。
おお!選手でデータ利活用を意識して自ら実践しているではないか!
まさにデータ利活用のマインドをわかっている発言だ。
今後は、郡司捕手を筆頭に、野手もみんなデータ利活用マインドを身に着けて、バッティングや守備などに活かせたら、より上位を目指せるだろう。
そのためにも、郡司捕手、データ利活用を普及させてほしい!
まとめ
今後もネクストベース社と連携を取りつつ、野手に関してはネクストベース社からデータを展開できると想定した上で、若手である郡司捕手を中心にデータ利活用マインドを中日ドラゴンズに展開して、ぜひ優勝を、ひいては日本一を目指してほしいと思う。
データサイエンティストである私から伝えたかった事は以上である。