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2024年12月7日 松元ヒロソロライブを観てきました。
私が松元ヒロという芸人に強く惹かれたのは2022年のドキュメンタリー映画「テレビで会えない芸人」がきっかけなので、全くのニワカファンである。だが、ソロライブが名古屋である事を知ってなんとかこの目で観てみたいと思った。それほどにドキュメンタリー映画での彼の印象は鮮烈だったのだ。
会場は名古屋市の愛知県芸術劇場小ホール。定員280名は満席。客層がかなり高齢者寄りであることに(自分を棚に上げて)少し不安を覚えたが、一旦ステージが始まると会場からは手拍子が湧き上がり、観客の反応は早くて熱い。名古屋でのソロライブは今回で10回めだという。ヒロさんの問いかけに、客の8割は去年も来ていたと手を上げた。演者が観客を地道に育ててきたことが窺える。
つかみのネタは、石破総理や先の解散総選挙の話。切れ味鋭く政治家を切って捨て、爆笑を取って観客を盛り上げていく。
この日のネタは大きく4本、プラスアンコールでその日のニュースに合わせてパントマイムを披露する「今日のニュースと天気予報」。上演時間1時間50分、ステージ端に置かれた楽屋がわりのテーブル席での僅かな休憩を挟んで展開するステージのエネルギッシュで軽快で明るいこと。グイグイと引き込まれていった。
このところ、ヒロさんのトークは感銘を受けた書籍などの紹介から展開することが多いようだ。東京のライブ会場は紀伊國屋ホール、言わずとしれた紀伊國書店のホールなので、ライブで紹介した書籍は当日飛ぶように売れるらしい。名古屋には紀伊國屋はないが、ジュンク堂か丸善が組めばいいのに、とも思った。
ダニー・ネフセタイ著「どうして戦争しちゃいけないの?」(あけび書房)の紹介から始まるネタ。今注目を集めるパレスチナ問題を扱い、イスラエルの建国の歴史をわかりやすい語りでまとめた。元イスラエル軍兵士、現在は日本で暮らすダニーさんの悔恨と平和への願い。イスラエル人は決してDNAレベルでアラブ人やパレスチナ人を殺したいと思っているわけではなく、私たち日本人とて起源を辿れば出アフリカ、人類皆兄弟じゃないか。同じ人間同士きっとわかり合えるはずだよ、お口があるんだもの。笑いを交えながらの熱い語りに共感。
永六輔著「芸人たちの芸能史」(中公文庫)は、最近永さんの娘さんにより復刊された。永六輔さんは、ヒロさんの才能を早くから買っていた恩人ともいうべき方。その本の紹介から始まる昭和芸能史、その昔のNHK紅白歌合戦を題材に、話は脱線を繰り返しながらも縦横無尽の展開。
柳浩司著「南風に乗る」(小学館)。タイトルは「まぜにのる」と読む。沖縄の近現代史を題材に詩人の山之口漠、評論家の中野好夫、政治家の瀬長亀次郎を取り上げた小説。この日の焦点は瀬長亀次郎の不屈の半生。瀬長といえば映画「米軍が最も恐れた男~その名は、カメジロー~」でも知られる政治家。米軍施政下の沖縄で、沖縄県民の平和で安全な暮らしを求めて闘った亀次郎。私には松元ヒロさんの語りで、より鮮明にその人間像が伝わってくるように感じられた。
素晴らしいネタとは別に思うのは、やはり芸人には清潔感が大事だということか。それと明るさ。とりわけ政治風刺ネタなどやる芸人さんには必要な素養かもしれない。また、松元ヒロさんは元々パントマイムの人だけに、身体の軽快な動きが語り口とうまく噛み合って、それが観客に受け入れられる魅力になっているようにも思った。
少し残念に思うのは、冒頭にも書いたように客層が高齢者に偏っていること。ヒロさん自身「芸人9条の会」の会長さんでもあるし、やはり客層は左翼寄りなのかなぁというところ。別に左翼が悪いということではなく、この名古屋のライブにしてもシニア左翼のみなさんの年に一度の慰安会みたいになってはもったいないなあということ。より広い層に、また若い人たちにもこの稀有な芸人の魅力が伝わると良いのだが。
ツラツラ書いてきたが私の筆力ではここまで。最後に立川談志の言葉を紹介したい。そして願わくば、松元ヒロさんがこれからも健康で一年でも長く芸人人生を続けられることを願いたい。
「今まで私は松元ヒロという芸人を見損なってきました。見損なうとは見逃してきた、という意味です。改めてヒロに謝罪したい」(立川談志)
(了)