結局のところ、「ひと」と「ひと」で世の中は成り立っているんじゃないか
近頃よく聞く「昭和レトロ」。
この時代を体験していないにもかかわらず、リサイクルショップでギャザースカートを見つけたときに生まれる高揚感。
さらにはギャザースカートを身にまとうと、純喫茶へ足を運びたくなる。
「トレンドは、一周回ってまた流行る」と耳にしたことがあるけれど、まさに私は二周目を味わっているのかもしれない。
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昭和レトロを味わうのにぴったりな映画が、山崎貴監督による『ALWAYS3丁目の夕日』。
高度経済成長期の真っ只中。
東京の下町でくり広げられた日常が、ノスタルジーな風景と共に、描かれている映画だ。
小学生が駄菓子屋で溜まりながら、ガムのはずれくじに文句を言っている一コマ。とある一家庭に白黒テレビが届いたとき、近所勢揃いで湧き上がる光景。
1つ1つのシーンを見ていると、平成以降に生まれた私にとっては、一度タイムスリップをしてみたくなる。白黒テレビを叩いて、電波と交信する“あれ”を体験してみたくなる。
ただ、この作品の見どころは、昭和レトロなシーンだけに限らない。
むしろ、下町の中で描かれた、ご近所同士の掛け合いに注目をしたい作品だ。
みんなで育てる地域というコミュニティ
さがない小説家、口が悪くてぶっきらぼうな茶川竜之介と、自動車整備工場「鈴木オート」の、荒っぽい鈴木則文が中心となって展開していく、日常が描かれたストーリー。
私がこれまで見てきた映画は、主人公を中心として物語が展開していくケースが多かった。
しかし、この映画は決して中心人物の2人では完結しないご近所さんの存在が、昭和の世界観をかき立てている。
たとえばこんな、1シーンがある。
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“売れない小説家「茶川」が、育て子の淳之介へクリスマスプレゼントを購入しようとするものの、資金が足りない。
なんとかして資金を集めようと、普段は不仲な「鈴木オート」に頭を下げて、借金をしに行く。
さらには、スナックで鉢合わせた近所の医師、「宅間先生」がサンタクロースの格好をして、淳之介にプレゼントを渡しに行くのだが、そこからは佐久間先生の過去の描写が始まって… ”
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このシーンを見て感じるのは、決して茶川中心に物語を展開しているのではないということ。
むしろ、この映画では、昭和特有のご近所付き合いや支え合いを、いろんな人の視点から描いているのが持ち味といえるだろう。
人の温かみなのだろうか。昭和の温かみなのだろうか。
これは映画の1シーンに過ぎないのだが、近所のみんなとの掛け合いで、より健やかな日常をつくりあげていく。仲が悪いとか、価値観が違うとか、そんなことはお構いなしに、みんなで地域をつくりあげていく。
心にあかりがぽっと灯ってしまうような。平成に生まれた私はこれまで経験してこなかった、なんとも言えないノスタルジーさを感じるのだ。
人との深みを感じたいあなたに
令和に入って5年が経つ。
SNSをのぞけば、時にその人がどこにいて、何を食べたのかまでわかってしまう時代が流れている。
ある意味では便利な世の中かもしれないけれど、「あの人最近どうしているのかな?」と思い出す余白が少し減っているような気もして、時々さみしくなったりもする。
『ALWAYS3丁目の夕日』は、みんながいるから成り立つ映画。
人に対する思いやりを、何度観ても教えてくれる。
逆を言うと、自分も人に対して親切にしようと思わせてくれる映画とも言えるのだ。
「人との関わりに、少しばかり希薄さを感じている」
そんなふうに思っている現代人に、是非おすすめしたい映画の一作だ。
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