【読書メモ #36】「ネット世論」の社会学
近年、SNSを通じたネット世論が、世間の議論を大きく左右する存在として注目されている。
トレンドやバズワード、政治や社会問題への意見表明は、まるで「民意」のように扱われることもある。
だが果たしてそれは本当に多くの人が考えている民意なのだろうか。
今回紹介する『「ネット世論」の社会学』は、データ分析を通じてネット世論の実態を浮き彫りにし、私たちが「見えている民意」がどれほど偏ったものであるかを明らかにしている。
感想
ネット世論の「構造」と「影響」を論じる本書では、特に以下のポイントが印象的だった。
1. ネット世論の能動性と旧来世論の受動性
従来の世論は、ランダムサンプリングによるインタビューを通じ、整理された論点に基づいて形成された「受動的な世論」であった。
一方、ネット世論は各個人が自由に発言する「能動的な世論」である。この違いが、ネット世論がより感情的で分断的になる要因ではないかという指摘には納得させられた。
2. ネット世論は感情伝達が中心
本書では、SNS(特にX)のようなプラットフォームでの投稿は、文字数制限の影響もあり、情報伝達よりも感情伝達が中心になると論じられている。
これは、論理的な議論が困難で、意見が極端化しやすい状況を生み出しているのではないかと思う。
例えば「増税に賛成か反対か」という問いに対して、中間的な意見は目立ちにくく、極端な意見が拡散されやすい構造がある。実際の増税議論が複雑な要素を含むにもかかわらず、ネット世論では単純化された賛否が目立つ点は、現実との乖離を感じさせた。
3. エコーチェンバーとその影響
本書では「エコーチェンバー現象」により、同じ意見を持つ人々がSNS上で繰り返し互いの意見を強化することで、自己の意見が主流である、もしくは仲間であると錯覚する現象を指す。
これにより、孤立の恐怖が軽減され、少数派でも大胆に意見表明ができるようになる。この現象には一長一短がある。たとえば、性加害問題のように、従来声を上げにくかったテーマに対し、エコーチェンバーが後押しして問題が表面化することは肯定的な一面といえる。
本書内では孤立への恐怖を感じにくく、容易に意見表明を行えると記されている。
4. タコツボ化されたネット世論の危険性
「タコツボ化」とは、エコーチェンバーがさらに進行し、同じ意見を共有する小集団が他の集団との接点を失い、孤立した状態に陥る現象を指す。
具体的には、異なる意見に触れる機会が極端に減り、事実の解釈や論点そのものが集団ごとに分かれてしまうリスクが指摘されている。
ニュースや情報の多様な視点を得ることの重要性が、改めて強調される内容であった。
実務的な教訓
この本が示唆するのは、ネット世論に対する無批判な信頼の危険性だ。
私たちは、SNS上の意見を「多くの人の声」と捉えるのではなく、エコーチェンバーやタコツボ化のリスクを認識しながら情報を受け取る必要がある。
もはや世論は一つでなく、エコーチェンバー・タコツボ化で、ネット世論閉じてたくさんある(けど気付けない)のである。
企業や組織が世論を分析する際には、SNSデータに偏らず、多角的な調査手法を採用することが重要だろう。
結論
本書は、SNSが私たちの社会に与える影響を定量的に解明し、ネット世論の「見えない裏側」をデータ・分析手法を交えて教えてくれる一冊である。
日常的にSNSを利用する人はもちろん、ネット世論をビジネスに利用する人にも、必読の内容だといえる。ネット時代を生き抜くための「情報リテラシー」として、多くの示唆を与えてくれるだろう。
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