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時代

煮え切らないアイデアと
冷え切ったホットティー
窓外の鴉と視線が合った
不意に遮断された緊張感
絵筆を止めた私の心の隙に
かの中世詩人が耳元で囁く
「言葉なんて無粋だ」と

登場人物はみな凡人
描くのはそんな物語
数えきれない働き蜂が
無限にも思える有限の中で
巣から半径10キロ圏内を
行っては帰り
行っては帰り
行ってはまた帰り
また行ってはまた帰り

その生態系が損なわれた今
蜂は
過去を懐かしみ
現実を受け止め
未来を憂い尊び
でも、本当は常識という概念が
変えようのない秩序が、法則が
すこし崩れたことを喜んでいる

年老いた哲学者は涙する
自らの唱え続けた学説が
このカタストロフィの中
ついに証明されたことを

この時代、
ある者は咲き誇り、またある者は果てる
桜の季節はとっくのとうに終わりを告げ
自然の緑が深まり、狂おしい夏に向かう
そして、
花という花が咲き、幾万の蕾が芽吹く
人びとの命もいままた脈打ちはじめる

泣き出しそうな灰白色の空のもと
読みかけの中世詩人の書を閉じて
生きとしけるものの息吹に触れて
凡人どもの心のヒダを感じ取って
絵筆を走らせ時代なるものを描く

蜂は変異してゆく生態系の中で
思いのままに舞い、そして散る

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