アルジャーノンに花束を
名作の中の名作に入る本で、何度も読み返すお気に入り。
6時間くらいで読める程度の量‥なはず。
訳あって読み辛い箇所がありますが発想とストーリーが斬新で展開がテンポ良く、視点が主人公固定で綴られているため一貫性があり戸惑う事なくさくさく読めます。
評価
星5点満点で烏滸がましくも採点してみるテスト。
読みやすさ ★★★
ストーリー ★★★★★
続きが気になるわくわく感 ★★★★
あらすじ
知的障がいを持つ主人公の成長と挫折、葛藤を描いた長編小説。
主人公チャーリイ・ゴードンは32歳の男性ですが生まれつきの知的障がい(本の中では精神遅滞と表現されていました。)があり、幼児程度の知能しかありません。
しかしそんなハンディーキャップを持ちながらも、パン屋の雑務として生計を立て、周囲に支えられたながらも自立した生活をしています。
自分は周りの人に比べて劣っているという認識がありながらも卑屈にならず「みんなの様に賢くなりたい、読み書きが出来るようになりたい。」という前向きな希望を抱く純真な心を持った青年です。
そんな彼は誕生日を目前にして、人工的に知能を高めることが出来る手術の治験者になりうるという幸運に恵まれます。(幸運とはその時点での彼の主観的な判断です。)
結果的に手術を受けることができ、彼は短期間で知能を高めることに成功し一時はIQ200を超える地点にまで到達します。
しかし、賢くなることは必ずしも彼の幸せには直結せず、知ることによる苦悩や絶望、無知だった自分に対する羞恥などの凡ゆる困難に遭います。また、目紛しいスピードで成長する彼の知性に、情緒が追い付かずパニックを起こしたり混乱する場面にも遭遇します。
そうした彼が直面する困難は、聖書に登場する「アダムとイブ」が犯した罪、知恵の実を口にしたことになぞられ、知識を得たことによる代償に苦しみます。
ちなみにタイトルの一部にもなっているアルジャーノンとは作中に登場するハツカネズミの名前です。彼と同じ手術を、彼より以前に受けることで賢くなることに成功したネズミです。
同じ手術を受けているので、チャーリイにとっては先輩にあたる存在で、彼の先を行く存在であることから物語の鍵になります。
感想
この小説の特徴は、ストーリー全体がチャーリイを通して語られることです。それ故に誤字脱字が意図的に散りばめられており、正直「読み辛っ」というのが最初の感想でした。
手術を受けるにあたって彼の知能の変化を客観的に記録できるよう、術前から経過記録と称した書き言葉で記されています。
物語の序盤のチャーリィがIQ60近くという設定なので文章も小学生の作文のように綴られています。文章が話し言葉で、ひらがなを多用しているため読みづらい。。
原文を読むとenoughがenuff とかfriends がfrenzみたいになってるから、話口調をそのまま書き落としているイメージに近いのだろう。
そんな彼の目を通して物語を読んでいくため読者は知的障害者が受ける差別や侮辱、嬉しくもない憐憫の眼差しに晒される苦痛を追体験します。
自分は愛されていると思っていたのに、知らないところでバカにされていたこと。
仲間だと思っていた人たちに、実はからかわれていたこと。
自身の知能が低いことをいいことに私欲のために利用されていたこと。
トラウマになってしまい記憶から消し去っていた家族のこと。母親から嫌悪感を抱かれていたこと。
ネタバレにもなってしまうのですが、彼は手にした知能を物語の終盤で失ってしまいます。
記憶が溢れ落ちていくだけでなく、物凄い勢いで知能も低下していく過程が描かれているので、それもまた切ないのです。
「得たものを失う」という人生において避けられない宿命を、人類によって理不尽に経験させられてしまうチャーリィに、どうしようもない同情心を抱いてしまう。
人間の尊厳とは何か、人間らしさとは何か、そんな哲学的な問いに対する考えが深まる一冊だと思ってます。
また、著者が心理学士であることから、精神分析や深層心理に触れられている場面がいくつかあり、それも大変興味深いです。が、結構意味不明です。
いつか時間がある時に考察記事を書こうと思ってはいます。
作中、チャーリィの口から
知らない事による幸せと、
知ることで傷付く不幸を
以下の言葉で表現しています。
誰かを愛する、という行為に知性は時に邪魔をする。
愛した人達に本当は嫌われていた事実を知った時
好かれていたと思っていたのに、バカにされ、笑い者にされていたと気付いた時
知らなければ愛せたという事実を見つめた時、
その理由を
相手ではなく、自分の知性を理由にするチャーリィ。
愛する価値が無かったとか、愛してなかった、という結論には至らずに、知性を楔に例える表現が奥ゆかしくてとても気に入ってます。
この本はお気に入りの一冊なのでまた感想をぼちぼち呟こうと思います。
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