#7 『六人の嘘つきな大学生』
本日紹介する作品は、著・浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』
あらすじ
新進気鋭のIT企業「スピラリンクス」の最終選考に残った6人の大学生、波多野祥吾(はたのしょうご)・九賀蒼太(くがそうた)・袴田亮(はかまだりょう)・矢代つばさ(やしろつばさ)・嶌伊織(しまいおり)。
選考方法はグループディスカッション。会社の課題と改善方法について話し合い、打開策を導き出す。運が良ければ6人全員が内定する可能性もある。
人事担当者からそう伝えられた学生たちは、誰一人欠けることなく内定を勝ち得ることを目標に交流を深め、当日にむけて着実に準備を進めていた。
しかし、本番直前に選考方法の変更が通達される。それは内定者は1人しか出せない、そしてグループディスカッションでは誰が内定にふさわしいのか、を議題に進めるというものだった。
突如として仲間からライバルへと変わってしまった6人の学生たち。さらに、会場に用意された告発文の入った封筒。戸惑いと混乱のなか始まった選考の行方は、そして犯人は一体誰なのか・・・。
感想
イヤミスな展開になるかと思いきや案外ラストは希望がある、前向きに幕じます。
ところで皆さんは「就活」を経験したことがありますか。
私はあります。地獄の日々、とまでは言いませんがそれなりに焦燥に駆られ、自分の能力を棚に上げて日本の新卒採用制度に疑問を呈する書籍を読み漁り、なんとか省エネで就活を終わらせることばかりを考えていました。
結果、インターンには一つも参加せず、エントリシートには当たり障りのないことを書き綴り、筆記試験対策に費やした参考書代と講座費用はどぶに捨てました。企業説明会も選考も全てオンラインで完結させ、きっとよほどのことがない限り落ちないだろうと思われる企業に入社するものの3か月で退社しています。
一般的な見方をすれば私は間違いなく「就活」に失敗しているのです。だから、この物語に登場する学生たちは眩しかったです。内定への意欲と熱量。それも一流企業を目指しているのですから。
本作は様々な賞に選出されたり、映画化、舞台化とかなりの話題作となっています。なぜ、こんなにも多くの読者を惹きつけるのか。
著者の巧みな物語構成、文章力等々の技術はもちろんのこと、日本特有の「就活」「新卒採用」に対する懐疑心に共感できる人々が多いからなのではないかと思うのです。
エントリーシートや面接で嘘偽りのない自分をさらけ出せますか?
会社は一連の採用フローのどこをどう判断して有能な人材を選出しているのでしょうか?そもそも全てに目を通す余裕はない、という前提で。
学生も会社も暗黙の了解のごとく多少の嘘はついている。
それが日本の「就活」の一面なのではないか、と。
そう、問いかけられているような気がしました。
そしてもう一つ。
見ているようで見ていない、見えていない。
ぜひ、物語の全ての文脈を疑ってみてください。
きっと、もっと作品を楽しめます。
事実は一つ。でも真実は人の数だけある。
(思わず『ミステリと言う勿かれ』を思いだしました。)
最後の伏線回収にスッキリするので安心して読み進められますよ。
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