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【短編】夏休みの1000文字
誰でもない誰かの1000文字
セミ。
捕まえてすぐ死んだ。まさか7日目のセミだったなんて。網をかぶせて捕まえた時はジギギギギって鳴いたのに。夜、虫籠の中で全く動かなくなってコテン。
”きょう、ミンミンゼミをつかまえました。
つかまえる時はスリルまんてんでした。
あみの中でとびまわるのでにげちゃうかと
おもったけど、にげませんでした。
カゴ入れたら すごいうるさくしてたけど
夜になったら死にました。
生きてる時はむしかごにくっついていたけど
死んじゃったらひっくり返ってました。”
今日の絵日記から何日間かはセミの観察日記を書こうとしたのに。この1匹でこれしか書けない。結構、捕まえるのには必死だったのに。
虫かごから出して死骸を掴んで眺める。
動き出しそうなんだけどな。
ため息が出た。
「お兄ちゃん?セミどうしたの?」
「死んだ」
「うわ。」
妹が気持ち悪そうにするから、死骸を妹に近づけてみる。いかにも嫌な顔をして悲鳴を上げて泣き喚いた。
「何してるの克己!!」
顔を真っ赤にしたお母さんが僕を怒鳴りにきた。
「お母さん、お兄ちゃんがあ!!」
「お母さん、セミ死んだー。」
妹の真似をして泣き喚いてみた。妹が泣いてるのは僕のせいだけど僕のせいじゃないよって多分口で言ったってわかんないから僕も泣いて困らせようって作戦。
「お兄ちゃんがあ!」
「セミがあ!」
お母さんは、困って何も言えない。いいぞ、早く部屋から出て行け。
「泣いてもいいけど、仲良くしなさい。」
お母さんの右手が嘘泣きの僕を慰めた。
「セミは、すぐ死んじゃうの。かわいそうだけどそういうものなの。」
妹はお母さんにしがみついた。
「お母さん、ご飯作るからもう少しお兄ちゃんと一緒に遊んでて。」
妹はお母さんの言うことを聞き入れずずっとしがみついている。
お母さんが妹を連れてキッチンに向かおうとする。
まずい!このままじゃ本当のことを言われちゃう!
「かなめ!ゲームしよう!!」
僕は死骸を虫かごに戻して、面倒見の良いお兄ちゃんを降臨させた。
「いや!お兄ちゃん嫌い!!」
ちょっと死骸を見せて脅かしただけだ。
「大っ嫌い!!」
妹は涙目の真っ赤な顔で僕を拒絶する。
「克己、後で話聞くから。」
ご飯の後に、絶対にゴリゴリに怒られる。
「お母さん、ご飯何?」
「ん?カレー」
「やったー!かなめ、お母さんのカレー大好き」
カレーのルーが消えちゃえば良い。ご飯が永遠にできなければ良い。
ああ。死骸で遊ばなきゃ良かったな。