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【短編A完結②】カーテンに絡まる朝が来る 下編

【企画】誰でもない誰かの話

#数理落語家  自然対数乃亭吟遊さん
からの続編

第一話「カーテンに絡まる朝が来る」38ねこ猫
第二話「カーテンに絡まる朝が来る 中編」
数理落語家 自然対数乃亭吟遊さん


第三話 「カーテンに絡まる朝が来る 下編」


朝がくれば、カラスが鳴く。
だから、なんとなく部屋が暗くても分かる。

トモコが、シャワーを浴びようと風呂場に行く。
床に落ちてるタオルを拾って、
洗面所に置きに行ってから
ソファーに座った。
座り心地はあんまり良くない。

ドライヤーの音がする。

音が止むのを待った。
目をつぶって、息を吐く。

いったい、俺はなんのためにあの女を
待っているんだろう。
ホテルを出ればバラバラに帰って行くだけだ。

「リーチくん、シャワー浴びないの?」
「寝る前に浴びたよ。」
「本当に?」
「お前が寝てるときに浴びたんだよ」
俺はすぐに汚れを落としたい。
この女はだらしない。
俺は、利一で、リーチではないけど、
トモコにはそう呼ばれる。
「君は潔癖なんだね?」
うるさいヤツ。

化粧道具を広げて顔をいじくり回す。
「今日、君はどこに行くの?」
「関係ねーだろ」
一通り、顔を描き終わると
ラッキーストライクを一本咥えた。
「口悪いよね。若いって乱暴」
やっぱりこの女が嫌いだと思う。
ビールの缶も、カップヌードルの殻も
同じビニール袋に入った。
ゴミ箱の横に、だるそうに置いた。
「ちゃんと分けろよ」
「どうせ、ゴミってカテゴライズしたら
みんな一緒だし」
煙を吐き出す赤い唇。

俺はなんで、コイツと一緒にいるんだろう。

吸い殻をガラスの灰皿に押し付けた。
「君は私が嫌いでしょ?体の相性はいいのに。」
女はわかっている。
「君が好きになる人ってどんな人?」

そんなの忘れた。
でも
当然、お前以外だよ。

「あたし、君以外ともするけど、
君ほどしっくりくる男はいない」

全然、嬉しくない。

エレベーターのすぐ前は出口。
外に出て、別方向に別れる
トモコは、振り向きもせず歩いていった。
朝には馴染まない濃い化粧で堂々と。

ゴミ袋を漁るカラスが数羽。
かわいくない。
黒くて、足で跳ねてる。
でも見てしまう。

このカラスは、みんなに嫌われてるんだろうな。
俺もこのカラスが嫌いだ。

俺はどうだろう。
トモコを嫌いながらトモコと会っている。

白くて綺麗な猫が遠くを歩くのが見えた。

俺が知ってる猫は汚い。

雨に打たれて、泥を潜って、
肉球なんかガサガサになっていて、
首に怪我をしていて、ノミがたかって
鼻が垂れていて臭い。

あの猫は、きっと
保健所に連れて行かれたんだろう。
俺の母親が、連絡したに違いない。

世の中は、綺麗で溢れていて
俺は息ができない。

俺は汚くて
きっと、トモコも汚い。
外見はそれなりでも中身が、汚い。

世界は生きづらい。

あの人はもういないし、
俺は、誰も愛せない。

駅のファーストフード。
知らない人にまみれて食事をする。


ここで何度か、あの人と食事をした。
あの人のことだけは愛していた。

お金もなかったし、
一個200円くらいのハンバーガーを
一緒に食べて、ずっと笑って喋っていた。

あれが恋だった。

俺は、あんな俺にはもう戻れない。


スマホにLINEの通知が入る。
トモコだ。
”君とはもう会わない”

胸の支えが取れたように清々しい。

けれど、寂しい。

あの汚い猫と同じに世話をしたのに。
なつきもしなかった。

いや…
きっと俺がそれまでの関係で終わらせたんだ。

窓から見えるのは、枯葉が舞う駅前ひろば。
仲の良さそうな高校生が手を繋いで歩いている。

#広がれ世界 #誰でもない誰かの話
#オリジナル小説 #短編
#数理落語家  自然対数乃亭吟遊さん
#みんなで作る読み物
#孤独 #愛していない #嫌い

数理落語家 自然対数乃亭吟遊さん
ありがとうございました。
中編、読ませていただきました。
二人の関係性がよりリアルになっていて
「俺」の小さな時の話で、
人格が少し見えた気がしました。
また、「あの人」を思わせる描写が
絶妙でした。

参加いただいた企画以外の記事も
じっくり読ませてください。

ありがとうございました。





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