息子が急性散在性脳脊髄炎になって倒れた話29
息子が倒れてから15日目。
面会に行くと、理学療法士の先生がきてくれた。
熱は変わらず37度5分と高めだったが、本人は元気そうだった為、病棟外に出る許可を得た。
敷地内に公園のような屋外のリハビリ施設があり、そこで遊びながら動きを見せて欲しいと言われた。
長男は入院して以来初めての外の空気だった。
冬の寒い風が吹き始めた頃だったが、まだ日差しは暖かく、カーディガンと心拍計測器を入れたポシェットを肩から掛けて、思いっきり動き回っていた。
生き生きとした長男の姿に、目頭が熱くなる。
少し離れた場所に置かれたブロックに足を伸ばして歩けるか
高さ1m弱の人口の山のような遊具によじ登れるか
広場全体をぐるっと一周走って回れるか
遊びながら動きを見てくれた。
片足立ちも、理学療法初日には3秒も出来なかったが、10秒以上数えてもまだ余裕がありそうだった。
「運動能力はもう問題ないかと思います。発達も年齢相当ですので心配いりませんよ。
長男くん、頑張ったね!もう少しリハビリは続くけど、もう元気に動けているよ!」
元気いっぱいの笑顔で長男とハイタッチをしてくれた。
長男も力強くハイタッチ出来ていた。
体力が戻ってきているのを感じるのだろう。
とても嬉しそうだったし、誇らしげだった。
病室に戻ると、今度は入れ替わりで作業療法が始まった。
こちらは気になっていた指先の動きや、頭の発達などを確認してくれるという。
面会時間に作業療法を行うのは初めてだったが、長男は以前にも受けているようで、慣れた様子で作業をしていた。
サイコロのような正方形のブロックを使って、先生が作った形と同じものを作ったり、
複数の記号が描かれたプリントの中から先生が見せたカードと同じ記号を探すなど、ゲームのように進んでいった。
が、やはり指先に力が入りづらいのか、左右どちらも手先が震えていた。
特に、正方形ブロックのほうは、2つのブロックの隙間に斜めにしたブロックを置くなど、繊細な作業が必要になる問題もあった。
作るべき形は分かっているのに、震える指先でブロックを崩してしまい、悔しがる場面も見えた。
また、裏表で色の違う三角形や四角形のカード型のブロックを組み合わせて、先生が作る平面の図形と同じものを作る、という問題もあった。
これは、形と色の組み合わせが難しいようでとても迷っていた。
倒れる前の長男は図形の組み合わせが得意だった為、難しいと言ったことが意外に感じた。
理学療法で動き回って疲れたのか、問題がすらすら解けず悔しいのか、少しやる気が落ちてきてしまった。
そこで、作業療法士の先生がお絵かきしてみよう。と提案してくれた。
白い紙にボールペンで
○や□を描いて欲しいと指示があり、長男も描こうと頑張っていた。
しかし、手先の震えも相まってガタガタとした線になってしまっていた。
また、今まで自由なお絵かきしかしたことがなく、『図形を描く』というのをきちんとやったことが無かった為、元のレベルがよく分からなかった。
それを療法士の先生に伝えると、
「本当は今日はお絵かきまでやるつもりは無かったので、あまり気にしなくても大丈夫ですよ。
長男くんがすらすら解いてくれるから少し試してみたんです。
ただ、一応『四角形を描ける』は4歳の発達レベルになっています。
『描けた』の基準としては、四つの角が直角にかけているか、など条件があるのでこれから少し練習するとリハビリとしても良いかもしれません。
とはいえ、手先の筋力が落ちているようですが、年齢相当の作業はきちんと出来ていますし、おしゃべりも上手です。
こちらも麻痺や後遺症はそこまで心配要らないのでは、という印象です。
退院までは手先のリハビリを続けていきますので、よろしくお願いします。
長男くんも、今日はありがとう。とっても上手だったよ!また一緒に頑張ろうね!」
丁寧に説明してくれ、長男にも笑顔で声をかけてくれた。
入院している病院は本当に子供達への対応が優しく、どの先生も看護師さんも親だけでなく、長男にもきちんと声掛けをしてくれた。
それが、長男を「小さいけれど1人の人間なのだ」と理解して対応してくれていると感じ、安心することができた。