もうバレンタインとかそういう話じゃなくなっちゃった!
これはとある高校生女子のお話。
彼女には片想いをしている男の子がいました。
彼の好きなものを、私も好きになりたいな。
そんな気持ちで借りた女性アイドルグループのシングルCD。
恋する乙女を歌ったベッタベタでド王道な曲だったけど、今の自分にはぴったりだと思っていた。
バレンタインの前日。
放課後。
CDを返そうと、駅のホームで電車を待つ彼の元へ。
帰りの電車が同じで、なおかつこの線は人がほとんど乗らないからチャンスだと思った。
彼に駆け寄り、CDとこっそり手作りチョコを入れた紙袋を渡す。
渡す時、彼にチョコが入っていることは言わなかった。
想いを伝えるつもりも勇気もなかったし、CDのお礼だと思ってくれればそれでいい。
でも、返す日をバレンタインの前日にした意味に気づいてくれたら、なんて少しは考えていた。
ところが、彼の一言でバレンタインどころの騒ぎでは無くなってしまったのだった。
「ありがとう。そういえば、かなえさんって……今日は彼氏とデートなんでしょ?」
『かなえ』
それは私が1番大好きな女の子の友人のこと。
いつも一緒に帰っていたけど、今日は部活で遅くなるから先に帰っててと言われていた。
「え……?」
彼女に彼氏がいるのは知っていたから、それを隠されてショックだったわけではない。
彼女だって全てを私に伝える義務はないし、恥ずかしくて誤魔化してしまったのかもしれないと、大人になった今なら考えられる。
けれど、この世に生を受けてまだ17年の少女には、言ってくれなかったことがとにかく悲しかったのだ。
「あ、なんか……ごめん」
きっと私の顔に全てが映し出されていたんだろう。彼は責任を感じてか、申し訳なさそうにこちらに向かって両手を合わせた。
その後、彼からお返しが来ることはなかったし、また別の人を好きになった。
高校を卒業してから友人とも疎遠になってしまったから、彼と友人に会えるのはこの記憶を思い出した時だけ。
バレンタインの時期が来ては時々ふと頭に浮かぶ程度。
それくらいが丁度いいのかもしれない。