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KOAの取り組みについて

京都オーガニックアクション(KOA)が取り組んでいること、目指している形について、改めてまとめてみようと思う。
KOAは、オーガニック農業が抱える独自の課題を踏まえた上で、農産物の流通を地域内循環型で形作ろうとしている。

【オーガニック農産物の流通の課題】

小売店(八百屋、スーパーなど)が野菜や果物を仕入れようと思った時、一般的には最寄りの市場に行くことを考えるだろう。もしくは、市場から仕入れている食品卸業者などに相談をする。ところが、オーガニック農産物を仕入れようと思った時、地域差はあるかもしれないが、都市にある一般的な公設市場ではオーガニック農産物を扱っているところはほとんどない。

一方、有機栽培をしている生産者が農産物を販売しようと思った時、一般的な市場や農協などの販売先はほぼ買い取ってくれない。これらの売り先はそれぞれの基準を満たした製品しか買い取ってくれないし、そもそも有機農産物を扱う基準を持ち合わせていない場合が多い。有機農家は自分で売り先を探して、価格や量、そして納品方法等の交渉をしなければならない。

このようにオーガニック農産物については、仕入れる方(買い手)も生産する方(作り手)も、お互いに全く流通インフラが整っていない「荒野」に投げ出されている状態なのだ。

そのため、双方のマッチングはあらゆる形で行われる。
人からの紹介、インターネットで検索、SNSで繋がる、直売所で見つける、等々。
ようやく繋がったところで、お互いに取引先としての相性が良いかどうかは分からない。
買い手側からすると、品質は安定していてできるだけ低価格であって欲しい。ある程度まとまった量を定期的に仕入れたいかもしれない。
逆に作り手としては、多少の品質のブレは許容してほしいし、かかった手間の分だけの価格は付けさせて欲しい。まとまった量を定期的に出荷してほしいなら、作付けた分は全部買い取って欲しいが、約束通り作らないといけないプレッシャーも負うことになる。

うまく理想的な 買い手/作り手 と繋がれたところで、最後に納品方法の問題が浮上したりする。車で15分ぐらいの距離(往復30分)にあればまだしも、中途半端に30分ちょっとの距離(往復一時間以上)とか、作り手側が持って行くのか?買い手側が取りに行くのか?運送会社を使って発送するのか?運賃はどっちが持つのか?等々。

街の自然食系のスーパーやこだわり八百屋に並んでいるオーガニック農産物は、このように買い手と作り手との地道なやり取りの結果皆さんの食卓に上がっているということはぜひ知っておいて欲しい。

【オーガニック農業の課題】

そもそも有機農業、オーガニック農業はなぜ一般流通に乗らないのか?

まず、一般的なスーパーに並んでいる野菜を思い浮かべて欲しい。
人参、キュウリ、ナス、ジャガイモ、小松菜、キャベツ 等々。
どのスーパーに行っても、だいたいこうしたベーシックな野菜はお馴染みの形と色をしている。
ところがオーガニックの業界には、実は商品の共通規格というものがほぼ存在していない。
A農園の人参は400g入りパックで小さい人参が4,5本入ってるけど、Bファームの人参は500g入りパックで大きい人参が2本入ってる、とか。
小松菜でも人によって150g入りの人もいれば200g入りの人もいる。大きさもパッケージも価格も様々だ。
JAや市場を通さないということは、既存の規格に合わせる必要がないということでもある。
むしろ、既存の規格に合わせるのが嫌な「へんこ」な人が有機農家になっていると考えることもできる(こういう言い方をすると一部の有機農家は怒るかもしれないが)。
有機JASと言う認証制度はあるが、これは商品規格を規定しているわけではなく栽培管理のことを規定しているため、有機JASのシールが貼ってあるオフィシャルなオーガニック農産物でも、生産者によって多種多様な姿をしている。
(※有機JAS認証と非認証オーガニック、自然栽培や特別栽培などについては別記事で書きます)

オーガニック農産物は良く言えば「多様」で「個性的」だが、悪く言えば規格がバラバラで雑多で扱いづらい、特殊なジャンルなのだ。

KOA便で運ばれている野菜たち


【KOAがやろうとしていること】

京都市には小さなこだわり八百屋がたくさんある。

それぞれ独自のこだわりを持って、市場からの仕入れと並行して近隣の生産者から直接仕入れをしたり、遠方の生産者とも直接やり取りして、産直で野菜を販売している。
こうしたお店は生産者との繋がりを大切にしていて、それぞれが仲良くしている農家の一人や二人いて、毎週足しげく通っては野菜の仕入れがてら畑を見学したり、話を聞いたり、なんなら農作業のお手伝いまでするような熱心な店主が多い。

要するに、人と人が繋がって血の通った商売をしているのである。

市場に野菜を仕入れに行けば一か所でありとあらゆる野菜が手に入るが、産地は分かってもどんな人がどんなこだわりを持って作られたものなのかは皆目分からない。
わざわざ手間と時間をかけてでも農家から直接野菜を仕入れて販売する「独立系産直八百屋」の営みは、そう言う観点から見たときもっと評価されるべきだと思う。
同じ大根でも、「この時期の~農園さんの大根は寒い中じっくり育ってるからきめ細かくて煮物やおでんにするとめっちゃ美味しいですよ!葉っぱはちょっと硬めなんで炒め物がおすすめです!」と熱く語って販売されている大根と、市場で安く仕入れた100円の大根とでは何かが決定的に違う。
食味はモノによってはさほど変わらないかもしれないが、作り手の想いを買い手が受け止めて、食べる人である消費者に伝えることで、「生産~流通~消費」までのとても豊かな関係が成立している。

KOAがやろうとしているのは、農業から食卓までのこうした豊かな関係性を地域社会の中で仕組みとして、そして文化として根付かせたいのである。

京都市北区の八百屋ONEDROPさん


【KOAの事業内容】

そこで何をしているか。

共同物流便 「KOA(コア)便」
京都市~京丹後市まで週4便トラックを走らせて、主に京都縦貫自動車道沿いのオーガニック農家の野菜を集荷して、京都市内の小売店に配送している。
集荷エリアは:亀岡市、南丹市、京丹波町、綾部市、福知山市、舞鶴市、宮津市、与謝野町、京丹後市、丹波市(兵庫県)、能勢町(大阪府)。
冒頭で触れた流通インフラが無い話は作り手、買い手双方にとって大きな課題であるため、みんなで相乗りできるような「共同物流」という発想で走らせており、特に京都市内からアクセスしにくい府北部のニーズは高いと感じている。
現在多少流動的ではあるが、生産者約30軒と小売店約15軒を繋いでいる。

KOA便の集荷風景

一般的な卸事業ではなく、あくまでも個々の生産者と小売店との繋がりを重視している。
創業時から共に伴走してくれている㈱坂ノ途中に協力してもらい、farmOというシステムをカスタマイズして、オンラインで直接生産者と小売店が取引できる仕組みを構築している。
通常の卸の場合は業者が作り手と買い手の間に入って出荷情報、注文情報の処理を一手に引き受けている。そうすると当然作り手と買い手はお互いの顔が見えないし、受発注処理の手間もかかってしまう。間に入るより、直接やり取りしてもらう「場」を提供することで緩い関係性を生み出しつつ手間も省いている。
KOAはKOA便という共同物流事業の中で、①取引の場の提供、②集荷配送、そして③請求決済業務の3つを請け負っている。
これは卸売りと言うよりは、バーチャルな市場のような仕組みをイメージしている。

ファームツアーや交流会、商談会等の企画

ファームツアーの様子

生産者と小売店が直接つながれる機会を定期的に設けている。
そもそもKOAの始まりは2017年に開催した「百姓一喜」というオーガニックの生産者、小売店、飲食店らが集まった交流会(飲み会)だった。
これがきっかけでそれまでバラバラに活動していたオーガニックの生産者や小売店がお互いに交流するようになり、様々な取り組みが生まれてきた。協議会が立ち上がったり、商談会や勉強会や交流会など。八百屋vs農家 の野球大会もコロナ前まで4回も開催した。
KOAを中心に、近畿一円の人も巻き込みながら緩いオーガニック・コミュニティが形成されている。

農家vs八百屋 野球大会

ポッドキャスト「京都オーガニックラジオ」
オーガニック農業に関わる個性あふれる生産者や小売店を紹介するPodcast番組を配信している。

※京都オーガニックラジオ Apple podcasts
   
spotify youtube もあります。 

これは不特定多数に向けて発信しているというより、京都と言う地域の中でお互いをより深く知るためのツールとしての側面が強い。
実際リスナーは農家や八百屋、もしくはそこで働くスタッフの方だったりする。普段取引している八百屋さんや農家さんがどんなことを考えているかを知れるのは面白いし、血の通った「農と食」の関係を深めるツールとしてまだまだ可能性があると思う。
できれば消費者の人にももっと聞いてもらって、地域の農業に興味を持ってもらい、近くの八百屋で推しの農家の野菜を買い求めてもらいたい。


というような感じで、構想としては 「共同物流」と「リアル交流」と「音声メディア」 の3点セットで多面的な活動をしているが、メイン事業は共同物流のKOA便で、できるだけこの便の沿線の作り手が販路を確保して安心して生産できるよう買い手との繋がりを地道に広げて行っている。

【KOAの現時点とこれから】

最後に、これからのKOAの方向性について

メイン事業であるKOA便は毎週4便走っていて、参入する生産者も小売店も少しずつ増えてきてはいるが、その経営状況はまだまだ綱渡り状態である。伸び悩んでいる理由はいろいろある。

●農業全般が近年の異常気象、特に夏場の高温や雨不足で生産の難易度が上がってきていて出荷量が安定しない。

●需要と供給のバランスが難しい。何がどれだけ求められているのか?買い手側もKOA便だけで仕入れをしているわけではなく、他の地域の農産物も仕入れている。そんな中選んでもらうためには何をどれだけ作ればいいのか?
実際作ったところで本当に買ってもらえるのか?
作り手の作付けと買い手のニーズとのマッチングの精度をもっと上げる必要があるが、この調整が非常に難しい。

●一般的な農産物卸の場合と違って仕組みが分かりにくい
KOAはfarmOというシステムを使って特殊な取引形態を取っているため、参入ハードルがやや高い。
買い手側からすると、生産者と直接やり取りすることが求められるし、作り手側はfarmOに登録して出荷情報を自分で入力する必要がある。

●KOA便以外の活動(ファームツアー、交流会、商談会、ポッドキャスト等)は営利事業ではないため継続が難しくなる時がある。やり方をもっと工夫するか、何か違う財源を確保するか。理想的にはKOA便事業で利益を生み出してその他の活動に充てられたらと思うがまだそこには至っていない。

以上のような課題に直面しつつ、現在KOAのホームページの更新に取り掛かっている。この記事もそうなのだが、我々がやっていること、目指しているイメージをもっと分かりやすく提示する必要性を感じている。
KOAのホームページ:https://kyotoorganicaction.com/(だいぶ放置されていて内容が分かりにくい)

KOAは、農産物の「生産~流通~消費まで」がひとつの見える線で繋がり、地域内でそれぞれの想いや価値が循環して完結しているような仕組みを目指している。
KOA便はそれを実践している共同物流便ではあるが、KOA便が走っていないエリアも含めて、京都一円のオーガニック農産物がよりスムーズに流通するような地域社会を想い描いている。
そしてその農産物と一緒に、そこに込められた想いがファームツアーや交流会やPodcastを通して伝わることで、本当に豊かな「農と食」の関係、「farm to table」の社会実装が実現すると思っている。

【追記:KOAの取り扱い基準について】

ここまで「オーガニック」という言葉を使いまくってきたが、KOAの取り扱い基準は別にオーガニックに限定しているわけではない。

栽培期間中農薬や化学肥料を使用していないいわゆる「非認証オーガニック」も含めて、農薬使用量を5割以上減らした「特別栽培」までをOKとしている。
厳密な有機栽培かどうかよりも、形はどうであれ環境に配慮する姿勢があるかどうかを重視しているのだが、同時に、農薬や肥料以外の判断基準があってもいいのではないかという想いもある。
例えば過疎化が進む農村の空き農地を有効活用していたり、地域の資源を堆肥として活用していたり、多様な人たちに対する雇用機会を創出していたり(農福連携など)、農業生産以上の価値を創造している事例はたくさんある。
こうした個々の生産者のこだわりや取り組みの情報を積極的に発信することで、買い手である小売店や飲食店、一般の消費者にも、農業や農村について考えるきっかけをつくりたい。

要するに有機JASのような第三者認証が必要なのはそもそも顔が見えない関係上の話であって、顔が見えている場合は第三者に認証してもらわなくても直接買い手側が個々の判断基準で認証したらよいと思うのだ。
農薬を使用した野菜は食べたくないと思っていた人が、ポッドキャストで話を聞いた減農薬の生産者の想いに共感して野菜を食べてみたいと思って買ってくれたらそれはそれで素晴らしいことだと思う。

農業や農産物に対する「解像度」や「リテラシー」を上げて行くこともKOAとしてやっていきたいことの一つである。


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