『12、純文学を手っ取り早くでっち上げる方法。百年経っても読まれる小説の書き方』
「純文学を手っ取り早くでっち上げる方法」という、私のYouTube動画が、このところ、大体毎日誰かに観られている。需要があるのだろうと思って、これからそのことを書いてみる。
私のYouTubeチャンネル名は「百年経っても読まれる小説の書き方」だけども、百年前というと、おおよそ夏目漱石の『こころ』になる。1914年に朝日新聞で連載された。
純文学、というより、文学、は漱石が『こころ』に書いた、その通りの書式で書くもの。私はその通り書いてきたし、それ以外の書き方は私は絶対、許さない。まだちゃんと文学が書けないのに、崩して書かない。崩したいのなら、私を納得させるだけの理由がなくてはいけない。
これは私の小説『皆で浴衣で盆踊り』の冒頭。
みんながよくやるのはこういう感じ。
とにかく行間を広げて書かない。それからこういう書き方も多い。
こういう、文を全部左寄せにして書く人がたくさんいるけど、左寄せにしていいことはなにもない。私は、小説の書き方で一番醜いのが左寄せだと信じている。
行間を空ける人や、左寄せにする人は、知らないでやっている人もいると思う。きっと、他の人がやっているからという理由だと思うけど、ちゃんと文学が書けるまで、書式は崩さない。繰り返すけど。
なぜ行間を空けてはいけないのか、左寄せにしてはいけないのか、と言うと、文章は流れるもの。文章は音である。音楽である。ぶつぶつ切ってはいけない。文章は美しく流れ、理屈に合った、句点と句読点によって句切られる。
句点と句読点と改行によって、美しいリズムの取られた文章を書く。私は自分の小説の、それぞれの句点、句読点、改行がなぜ行われたのか、全部即座に説明できる。説明できないのに、勝手に文章を区切らない。
文学、とはこう書くもの。『こころ』の冒頭。漱石が、今から百十年前に書いた文章。これだけ短い文章にも、主人公の先生への恋心が溢れている。素晴らしい。私の先生は夏目漱石だから。
原稿用紙の使い方を覚えること。そんなにたくさんのルールはない。
1.小段落の頭は一文字下げる。
2.?や!の後はひとます空ける。
3.大段落は一行改行する。
4.会話文の次の列は頭をひとます下げる。
5.カギ括弧の最後には「。」を入れない。
6.点々「……」はひとますに三個ずつ、六個入れる。
これらのルールに従わない場合は、私を納得できるくらいの説明が必要になる。
意外なことに、漱石調の原稿用紙の正しい使い方ができるようになった時点で、既に純文学の書き方が半分できたくらいになる。文章はラノベみたいに広げて書かない。左寄せはしない。本当にそれだけで純文学らしくなる。
最近発明されたジャンルに当て嵌めて作品を書かない。ショートショート、転生もの、ラノベ、BL、その他、私も知らない分野がたくさんある。そういう分野がまずあって、その分野のために小説を書くことに大いなる危険がある。
特にショートショート。書いている人はたくさんいるが、ショートショートの形式で書けば書くほど、文学作品から離れていき、文学作品が書けなくなっていく。致命傷になることもある。最後の落ちに向かって書いているだけで、文学の要素のあるショートショートは殆どない。
ちゃんとした書式に合った小説が書けるようになったら、小説ってなんだろう、文学ってなんだろう、と考える。さっきの『こころ』の冒頭を三回以上読んでみる。文学作品を書くのは、人を驚かせるためではないし、人気を取るためではないし、お金を儲けるためではないし、自己顕示欲を満足させるためでもない。
普通に書く。わざと難しくしない。分かりやすく書く。会話ばかりずらずら続けない。なにか言われても返事をしない。普通でいい。
純文学を手っ取り早くでっち上げる方法の二番目に必要なことは、テーマっぽいものがあるっぽく見せること。
テーマってなんだろう? テーマのない作品は文学ではないけれど、テーマというのは結構いい加減でよい。
例えば私が小説『アントライオンズ』で書きたかったのはなんだろう? 主人公は気が小さくて病気がちな男の子。でも、お父さんが売れないけどカッコいいロックバンドをやっている。
私が書きたかったのはそれだけ。それだけがテーマになっている。とんでもない事件が起こったり、裁判のシーンが続いたり、色々あるけど、それらは関係なくて、お父さんのカッコいいロックバンド、それがテーマ。
じゃあ、私の小説『皆で浴衣で盆踊り』のテーマはなんだろう? 主人公はまた気の小さい男の子。ある日、亡くなったお祖母ちゃんの封印された部屋に侵入する。箪笥の中から古い着物が出て来る。男の子が着物を包んであった和紙を開くと、小鳥が飛び出した! 友達のいなかった主人公は、着物に住んでいる小鳥や花と友達になって一緒に盆踊りをする。
着物から小鳥が飛び出した瞬間、がテーマになっている。その瞬間、彼の人生が変わる。
じゃあ、私の小説『天使ってなんでデパートが好きなの?』のテーマはなんだろう? それは完璧に、私の三島由紀夫へのオマージュ。137,000字の長編で、何度も迷子になりそうになるが、最後は結局、三島に戻って来る。
テーマはいい加減でいいけれども、テーマっぽいことを決めた時に、書いて壁に貼っておこう。そうすると、迷子にならずにテーマに向かって書ける。
文豪の本を読んで、原稿用紙の使い方を覚える。テーマっぽいことを決めて、作品のあちらこちらでそれを言う。
変な書き方や文体を勝手に発明しない。なるべく転生はさせない。ラノベみたいに広げて書かない。変な比喩を使わない。変な描写はしない。一つの文に二つ以上の主語はいらない。基本を崩すのは巨匠になってから。
小学校の一年生に戻ったつもりで、原稿用紙に書いてみよう。
これでいい。これが文学と言うもの。これ以上込み入ったことは書かない。もう一度ここからスタートしてみよう。
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YouTube「百年経っても読まれる小説の書き方」
15、ダイジェスト小説 39秒 純文学を手っ取り早く でっち上げる方法。#Shorts
小説の書き方 167、純文学を手っ取り早くでっち上げる方法。
私は日本の文学を、純文学とそうではない文学に分けることは好きでない。海外にそのようなジャンル分けはない。先の話とは矛盾するが、アニメ画が表紙のラノベのレーベルから出版された小説にも素晴らしい文学はある。
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