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弾圧が生んだレジスタンスの信念 映画「密偵」 #458

ヒット作を連発している韓国のドラマの中で、質も本数も飛び抜けている制作会社が「スタジオドラゴン」です。「愛の不時着」や「キム秘書はいったい、なぜ?」などを制作しているところです。

昨年2019年11月には、「スタジオドラゴン」と親会社の「CJ ENM」が、Netflixとの戦略的提携を発表しました。韓流コンテンツの強さに目を付けたNetflixが不利な条件をのんで契約し、現在では「スタジオドラゴン」2番目の大株主でもあるそう。

Netflixだけでなく、ハリウッドの大手企業が韓国映画の製作と配給をしている作品もあります。

20世紀フォックスは1988年に韓国に会社を設立し、数十編の韓国映画を製作していますが、どれも鳴かず飛ばず。「哭声」でようやく成功したんですよね。

一方、最初の映画で大ヒットを飛ばしたのがワーナーブラザーズ。ソン・ガンホ×コン・ユとトップ俳優を起用し、キム・ジウンが監督をつとめた「密偵」は、小難しい歴史物でありながら異例のヒットとなりました。

<あらすじ>
日本が統治する1920年代の朝鮮半島。武装独立運動団体「義烈団」監視の特命を受けた日本の警察官イ・ジョンチュルは、義烈団のリーダーであるキム・ウジンに接近する。義烈団は日本統治下の主要施設を破壊する目的で京城に爆弾を持ち込む計画を秘密裏に進めていた。

日本の朝鮮支配に協力した朝鮮人のことを、韓国では「親日派」と呼んでいます。イ・ジョンチュルは通訳から警察組織の一員となったことで、庶民からは嫌われる立場にいました。でも、実はレジスタントの密偵だった……というストーリー。ファン・オクという実在の人物がモデルで、ソン・ガンホが演じています。

コン・ユが演じるのは、写真館を営む男キム・ウジン。レジスタントの中心人物で、イ・ジョンチュルを自陣に誘い込もうと画策。彼に接近するという役回りです。レジスタントの親玉には、イ・ビョンホンが特別出演しています。

脚本ができた段階でアメリカ本社に送ったところ、「ぜひやれ!」と即答されたものの、ソン・ガンホも、コン・ユも、出演にYESと言ってくれない。困った代表は、ソン・ガンホには「コン・ユが出るって言ってるよ!」と伝え、コン・ユには「ソン・ガンホがやるって言ってるよ!」と言い、キム・ジウン監督にも「ソン・ガンホが主演だよ!」と未確定の情報を流して承諾を取り付けたそうです。後に、

「代表こそ、密偵だ!」

という笑い話になっているんだとか。

それでもトーマス・アルフレッドソン監督の「裏切りのサーカス」や、「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」を参考に作り上げたサスペンスはさすがのひと言。弾圧がレジスタンスを生み、その仲間を再生産していくんだなと感じました。

コン・ユ演じるキム・ウジンと、女スパイのヨン・ゲスンには、当初キスシーンが予定されていたそう。でも監督の最終判断は「なし」でした。

安易なロマンスを入れなかったからこその成功かもしれません。この緊迫感にはゾクゾクした。

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