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おまえが消えて喜ぶ者に おまえのオールをまかせるな 『2020年6月30日にまたここで会おう』 #355
2020年までは日本を信じて、日本に賭ける。6月30日に、「宿題」の答え合わせをしましょう。その日にまた会いましょう。
投資家で、京都大学客員准教授でもあった瀧本哲史さんは、2012年に東京大学でおこなった講義でそう語ったそうです。でも、「また会いましょう」と語ったご本人は、もうこの世にいません。
亡くなったのは昨年2019年8月。
「また会おう」という約束は宙に浮いてしまうのかというと、そうでもなくて、この言葉は「ボン・ヴォヤージュ」だったんだなと思います。フランス語で「よき航海をゆけ」を意味するこの言葉は、「自立した人間たちのあいさつ」なのだそう。だから、瀧本さんがいてもいなくても、自分ひとりで「宿題」の答え合わせをする。明日6月30日は、そんな日にしたいです。
東京大学での講義をまとめた本『2020年6月30日にまたここで会おう』を読んで、そんな想いを抱きました。
エンジェル投資家という職業柄、あまり表に出ないようにしていたという瀧本さん。最初に読んだ彼の本は『僕は君たちに武器を配りたい』でした。なんだか物騒なタイトルの本だな……と思いながら手に取ったことを覚えています。
「ザ・頭のいい人」な印象でしたが、いま「ほぼ日」で連載されている古賀史健さんと柿内芳文さんの対談を読むと、だいぶ印象が変わります。照れと自己顕示欲と焦りと憂いが行ったり来たりしていたのかな、と。第3回目で触れられている「リスの夢」の話なんて、かわいいですよ。
『2020年6月30日にまたここで会おう』で語られているのは、そんな瀧本さんの思想の凝縮です。
誰かすごい人がすべてを決めてくれればうまくいく、という考えはたぶん嘘で、「みなが自分で考え自分で決めていく世界」をつくっていくのが、国家の本来の姿なんじゃないかと僕は思ってます。
「どこかに絶対的に正しい答えがあるんじゃないか」と考えること自体をやめること。バイブルとカリスマの否定というのが、僕の基本的な世界観になります。
パラダイムシフトとは世代交代だということなんです。
アイデアなんてものに価値はなくてですね、それをやるメンバーの実行力とかのほうが、はるかに重要なんです。
質問:「盗まれないもの」というのは、どういうものがあるんでしょうか?
瀧本さん:それはね、その人の人生ですよ。
学生の質問に対する、この回答には胸が震えました。誰にも盗むことができない、わたしだけの人生。それを大切にしたい、価値あるものにしたいからこそ、「自分で考え自分で決めていく」ことが必要なんですよね。
読んでおいた方がいい本を3冊教えてくださいという質問には、
「そんな本、ないと思います」
とバッサリ。
わたしは年齢的にもパラダイムシフトで押し出される方の年代です。そして会社の教育部門を受け持って、今年で4年目。瀧本さんのメッセージにはうなずけるものがありました。喜んで押し出されたいから、これからも会社の若い世代にできる限りのプレゼントを用意しよう。これがわたしの「宿題」です。
「Do Your Homework」
この本は読んで終わり、という本ではありません。それぞれの「宿題」を見つけて「行動」すること。なぜなら、これは「わたしの人生」だから。中島みゆきさんの名曲「宙船(そらふね)」にも歌われています。
その船を漕いでゆけ おまえの手で漕いでゆけ
おまえが消えて喜ぶ者に おまえのオールをまかせるな
変えていこうぜ!という瀧本さんのメッセージがつまった『2020年6月30日にまたここで会おう』。現在、無料で全文公開されています。講義動画もあり。
それぞれの「宿題」をみつけてほしい。そして、行動してほしい。意志を継ぐ者たちに、心からのエールを。