映画へGO!「aftersun/アフターサン」 ★★★☆☆
(※ネタバレあります!)
派手な宣伝がなされていたわけではなく、監督のことも何も知らなかったのですが、なぜかずっと気になっていた映画であり、これは観ておかないといけないに違いないという本能的な予感が消えず・・どういうテイストかもあまり事前情報なきまま、とうとう鑑賞することができました!
結果としては、沈んだ余韻がドンと残り、簡単には消えていかない・・つまり映画としてのオリジナリティの高い、心がやけに揺さぶられる”名作”だったのでした。
基本構成としては、11歳の娘と31歳の父親が過ごす、ひと夏のバカンスの様子を追いかけた映画なのですが、”わけあり親子の心の距離感を描いたちょっといい話”なのかな・・?みたいな予測は、やがて完膚なきまでに叩きのめされます。
主人公の娘の両親は離婚しており、父親とのトルコのリゾートで過ごす夏休みの様子が、はじめは、感受性の高い甘酸っぱい思い出のように描かれ、「自分にも娘がいたらこういう体験してみたいなー」みたいに無邪気な感想を持ってしまったのですが、徐々に映画が後半に向かうにつれ、不穏な出来事が起こる予兆のようなシーン、もっと率直に言うと”死”を予感させるムードが現われては消え、また現われては消え、それは結局は画面の中ではっきり明示されなかったのですが、この父親の抱える心の闇のようなものの深さを、観る側は感じ取らざろう得なくなっていくのでした。
そして。映画の宣伝のコピーにある「ーあの時、あなたの心を知ることができたなら。」の意味を、ラストシーンによって突き付けられることになります。
現実と非現実のはざまのようなこのシーンは、観る人によって解釈は異なるかもしれないのですが、少なくとも、愛する娘の人生から、この父親がいなくなってしまうことを明らかに示唆してエンドロールに向かうのでした。
この映画の魅力として、重要な場面には音楽が効果的に使われていることが挙げられると思います。
最愛の娘に誘われても、どうしてもいっしょに唄うことができなかったカラオケのシーン。
これが二人の最期のダンスとなることを歌詞を通じて明らかにする”Under Pressure”の使い方。
娘のサプライズによって父親を戸惑わせるバースデーソング・・・。
そして父親はホテルの部屋で一人号泣するのです。長編映画を始めて撮った監督のビビッドでありながらもねじれた感性が見事に機能していました。
主人公の娘はこの映画の女性監督自身であり、自らの体験を元に構想・制作されたと聞きました。であるがゆえに、シンプルに描かれている映像である一方、客観的な視点が少ないために、観る者に大きな想像力や細かい注意力を要求する映画になっているかもしれません。
が、監督が人生における心の傷と向き合うためにも、映画によって表現せざろう得なかったのかもと思うと、残酷かもしれませんが、また次の作品を楽しみに待ちたいと思うのでした。
個人的評価:★★★☆☆
映画を通じてヒリヒリとした感性を浴びてみたい方におススメします。
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