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映画へGO!「コンパートメントNo.6」 ★★★★☆

(※若干のネタバレあります)
カンヌ国際映画祭のグランプリ受賞作品。地味ーな感じではありますが、とはいえ心にスッと残る映画でした。

モスクワから地球最北の駅に向かう列車を舞台にした極寒のロードムービーなので、爽快感は一切ありません(笑)。むしろ全体どんよりしたトーンで話は進みます。で、”最初の出会いの印象は最悪だが、だんだんお互いに惹かれ合って・・”というのは恋愛ドラマの常套パターンですが、ここまで酷い出会いにしなくてもいいのにというくらい、下衆な輩として男性の主人公は登場します。でも見終わった後の感覚で言うと、これくらいの落差を作った方が、映画としての力強さは出るのだと納得できる、見事な描き方をしていると思えたのでした。

主人公の女性は、フィンランドからロシアに留学している考古学の学生なのですが、どうも人生の歯車が嚙み合わずに、太古の壁画を求めて旅に出ます。それを見つけることがあたかも当面の人生の目標だと思い込んでいて、自分の人生が変えられると期待しているかのようにも見えます。実際のところその壁画というのは大したものではなく、むしろそこに至るプロセスでの出会いや気づきにこそ価値があるのだということを、主人公も映画観ている私たちも発見することになり、それこそがこの映画の主題だと感じました。

恋愛ドラマとしても秀逸で、いよいよもうすぐ終着駅に近づき、別れの時が間もなくやって来るというタイミングでの食堂車のシーンは非常に印象的です。だいぶ心理的な距離も縮まって、お互いに似顔絵を描き合うという、エモーショナルでひねりの効いたやり取りが際立つ名場面なのですが、そこですんなりとカップルにならずに次の局面に進んでいくというのが、この映画が凡庸に終わらない奥行きのあるところでした。

続く、吹雪の中で二人が戯れるシーンは、「青春かよ!」と思わずツッコミを入れたくなるくらいピュアであり、見ている方が戸惑ってしまいます(笑)。

そして、何よりチャーミングなラストシーンへとつながっていくのですが、これは”お見事!”ですし、主人公の男女二人がこの後どうなっていくのか?までは描かれていないのですが、それが消化不良でモヤモヤした感覚を与えてしまうのではなく、「人生の旅はこれからも当たり前のように続く。二人がどうなっていくかを、いま気にしなくても大丈夫。この瞬間の気持ちこそが一番重要でしょ。」と言われているかのようで、胸がスッと落ち着くのでした。

良き余韻で終われる映画でした。

個人的評価:★★★★☆
ロードムービーの何たるかに気づかせてくれる良い映画。ラストシーン大好き!

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